第14話 翔和の狸寝入りはバレている
「なるほどな〜、それでまた同棲していると」
「違いますよっ! ただ、泊まらせていただいただけで」
「……一線は越え——」
「琴音ちゃん、めっ! ダメですそんなことを言っては!! 結婚前はとにかくダメですからねっ!!」
「「………………」」
「な、な、なんですか……。その目は……?」
「いや、琴音が言ってたのって“ようやく一線を超えた”、つまりはプライドとか見栄を抜きにして、心の壁を超えた的な意味だよな?」
「……うん。気持ちを曝け出して語るのは大事」
「だよな〜。腹を割って話すっていうのは重要だよなぁ〜! ま、若宮は違うことを考えたみてぇだけど」
「……凛はすぐそういうこと考えるんだから」
「見ないで! 考えが穢れた私を見ないで下さい〜!!」
目を閉じながらも想像できてしまう凛の悶える姿。
俺は思わず笑いそうになる気持ちを押さえ、この起きにくい雰囲気が過ぎ去るのを待つ。
健一と藤さんが来たときに目を覚ましてはいたが、ノーストップで今みたいな会話をしてるせいで……起きるタイミングを完璧に失ったよ。
しかも、止まる気配がないし……。
「……けど本当に心配した。急に連絡つかなくなるし……」
「うぅ、ご心配をお掛けしました……」
「まぁ、とりあえず落ち着いたんだからよかったじゃねぇか! それに……こっちもこっちで朝方までかかったしな……」
「……そうだね」
健一と藤さんのため息が聞こえてくる。
いつもの二人の声には違いないが、心なしか疲れてるように聞こえた。
「何かあったんですか?」
「……うん。お母さんがカチコミに……」
「たまたま俺が琴音の家にいたから良かったけどさぁ〜。マジで姐さん、怖かったわ……。野生の勘っていうやつだよな……。連絡がつかない理由が若宮の父親ってすぐわかってたし……」
「……人情に熱いからね、お母さんは」
「付き合いが長いだけはありますし。でももう落ち着いたのですよね?」
「……きっと今頃、凛の家」
俺の身体がぶるっと震える。
藤さんのお母さん……マジ怖いんだよな。
夏のことを思い出すだけで、恐怖心が蘇ってくるわ……。
「それは仕方ないですね。琴音ちゃんのお母さんは止めれませんし」
「……うん。朝まで我慢させただけ上々」
「まぁ骨はウルルにでも撒いてやろうぜー」
「お前らもっと心配しろよっ!!」
三人のあまりの冷たさに思わずツッコミを入れてしまう。
目が合うと、驚いたというよりは健一と藤さんはニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべていた。
……起きてたの気づいてやがったな。
「もう少し寝ててもいいですよ?」
凛は自分の膝をポンポンと叩き、その上で寝るように促してくる。
「膝枕とか大丈夫だよ。つーか、そろそろ起きなきゃ遅刻すんだろ?」
「私がタイムキーパーをしますから、ギリギリまで大丈夫ですよ?」
「いや、もう起きるし大丈夫。今日は十分寝れたしな〜」
「「「…………」」」
「なんだよ、三人とも。俺が起きてちゃ悪いのか?」
いくども三人は顔を見合わせた。
その度にお互い何か言いた気な顔をしては黙り、そして苦笑した。
「ま、そういうことじゃないんだが……。いつも通りの翔和だなぁーって」
「……常盤木君は齧歯類。なんでもすぐにため込む」
「お、その喩え上手いな琴音!」
「齧歯類は可愛いですよね〜。翔和くんにぴったりです」
「……なんかすげぇ馬鹿にされてんな、俺」
俺は嘆息し、やれやれと呆れたように肩を竦める。
……照れくさいな、ったく。
と内心で文句を言い、天を仰いだのだった。
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