閑話 クソゲーRPGをしよう!②
横たわる俺達のキャラクター……。
画面には大きく『GAME OVER』と書かれている。
俺はコントローラーを膝の上に置き、ふぅとため息をつく。
すると、イヤホン越しに声が聞こえてきた。
『なぁ翔和』
『なんだ勇者健一?』
『これクリア無理じゃね?』
『奇遇だなぁ。俺もそう思う』
『うぅ……私のせいですいません』
目の前に映っている可愛らしい僧侶から、弱々しい凛の声が発せられる。
画面上は無表情のキャラクターも凛の声が入るだけで、途端に花があるように見えるのが不思議だ。
俺達は長い戦い(リセマラ)の末に——俺が盗賊、健一が勇者、凛が僧侶、藤さんが魔法使いという無難なジョブを得ていた。
ここまでリセマラに時間が掛からなかったのは、おそらくリア神の“リアルラック”によるものだろう。
リア神と同スペックの健一もいるから、相乗効果が働いたのかもしれない。
このパーティーはバランスが良く、普通に攻略すればクリアも余裕だと思われたが……それが上手くいかないのがこのゲームである。
まぁ、幸いゲームオーバーしてもガチャから開始ってわけではないのが救いだ。
『それにしても翔和、このゲーム機って色々詰め込み過ぎじゃね?』
健一の呆れたような声に俺は『そうだなぁ』と同意する。
そう、このゲームは確かに詰め込み過ぎている。
群雄割拠の時に新規で名乗りを上げ、数々のバグにより売れずに消えた悲しきハード……これがこのゲーム機の正体である。
確かにその詰め込んだ要素が全て上手くいき、クオリティ高く表現することが出来たら、時代の最先端ハードとして名を馳せることになったかもしれない。
ただ、残念なことに技術が圧倒的に追いついてなかった。
今で言うVRゲームにしたかったと思われるゴーグルもただゲーム画面を見ているに過ぎない。
身体を実際に動かすこともなく、コントローラーだしね……。
ゲームには『圧倒的サウンドで臨場感を!』と書いてあるが、喋った声がゴーグルに付いたイヤホンから聞こえてくるだけだし……。
同時に喋るとノイズが酷く、やり過ぎると電源が落ちてしまう。
そして極め付けは——
『それにしても翔和のキャラクターは何度見ても笑えるなぁ〜』
そう、キャラクターの顔面設定である。
これをプレイするほとんどの人が自分の顔を読み込んでそれを使うので、本来NPCの顔は使わない。
『自分が冒険しているように感じる仕様』ってことでそのようになっている。
だが、恐ろしく読み取り性能が悪く、俺なんて幾らやっても顔を読み込んでくれない。
この場合は仕方ないから備え付けの顔を選ぶしかないわけだけど……。
製作側は何を思ったのか、NPCの顔が犬や猫といった動物なのだ。
しかも、やたらリアルという仕様でそれすらもランダムである。
リアル過ぎて、ゲームからは明らかに浮いている……。
こんなことが出来るなら他に労力を割いて欲しかったよ。
『ってか、何で俺以外はこんなに見た目がいいんだよ……。バグであまり読み込めない筈なんだけど……』
凛に関しては映像の乱れが、まるで後光をさしているように見えるし……。
『ははっ。まぁ読み取れたんだから仕方ねぇだろ? それに翔和も似合ってるぜ!』
『嫌味にしか聞こえねーよ。なんで俺にこの顔が狸なんだ』
『ポン太くんみたいで愛くるしいですよ?』
『……これはこれでありかもしれない』
『マジか……。俺には凛や藤さんの感性がわからないんだが……』
俺はため息をつきゲーム画面に目をやる。
ゲーム内の健一と目が合った気がするのは、なんとも不思議な気分だ。
一人の時は、ただひたすらに理不尽を楽しむだけだったからね……。
そんなことを思っていると、さっきのゲームオーバーを反省会がいつの間にか始まっていた。
『つーか、若宮〜。回復魔法は自重しろよー。ミリしか減ってない翔和に使っても意味ないぜー』
『すいません……。翔和くんが傷ついてるのを見ると反射的に使ってしまうのです……』
『……凛は過保護』
『そういう琴音も、ブチ切れて考えなしに魔法を撃ってるだろ? クールタイムが長く硬直しちゃうやつ……』
『……巨大な魔法を撃つ誘惑には勝てなかった。あの快感は忘れられない』
普通、RPGというのはレベルを上げていくと、いずれは大技を覚えてゆくっていうのが鉄板の流れだが、このクソゲーは最初から技やスキルがフル装備である。
ただ、ステータスは初期のままなので藤さんみたいに大技をぶっ放すとMP切れで倒れるか、もしくはフリーズしてしまう。
まぁ、本来序盤では有り得ない技だからか、様々なところに綻びが出てくるのだろう。
その一つが味方の攻撃に巻き込まれてダメージをくらったりとかね……。
何回も味方に殺されるとは思わなかったよ……。
何故かホーミングしてくるし……。
『そうですよ、琴音ちゃん! その魔法に巻き添えになった翔和くんのことをもっと考えて下さい』
『……凛こそ、回復魔法使い過ぎて回数切れを起こしてるでしょ? そのせいで勇者が真っ先にやられてる』
『私は反射的なので止めようがありませんが、琴音ちゃんは感情を抑えれば問題ない筈です』
『……そういう凛もそもそもボタンを押さないようにすれば済む筈』
『『………………』』
会話が途切れ、ゲーム音声だけが流れてゆく。
BGMが空気を読んだように、何故か戦闘音だ。
『ふぅーっ!』『むぅぅ……』
『いい加減にしとけ!』
『『痛っ!』』
このどんぐりの背比べとも言えるやりとりは、健一によって止まったよう——
『ふぅ〜っ!!』
『むぅ〜……!』
あー、まだやってるのね。
でもなんだろう?
この子猫の喧嘩を彷彿とされる微笑ましいやりとりは……。
見てて和むな……。
まぁ、正確には聞いてて和むだけど。
『翔和〜、傍観してないで止めてくれよ……』
『いや、止めても俺の力じゃ無理だろ』
凛には間違いなく負けるし、藤さんには…………勝てるとは思うけど、後が怖い。
と、なると二人のやりとりを温かく見守るのが最善の選択である。
『いやいや〜。琴音はともかく若宮ならどうにか出来る方法があるぜぇ』
『うん? そんな方法があるのか……? 普通に考えて反射的行動はどうにも出来ないと思うんだけど。藤さんはともかくね』
『……私がともかくってどういうこと?』
『それがあるんだなぁ〜。いい方法が! どうだ、試してみるか??』
『すげぇ、嫌な予感しかしないんだけど』
『……二人とも無視して……。健一、後で覚えておいてね?』
背筋が凍るような冷たい声……。
やべぇ。ふざけ過ぎたから、この後の運命が決まってしまったようだ。
でも……。
全力で健一に擦りつけるとしよう!
『つーか、これ移動が面倒だよなぁ〜。前の人が通ったところを通らないといけないなんてさ』
『まぁクソゲーだから仕方ない』
『一歩でもズレたら、ゲーム画面がブラックアウトするというのも凄いですよね。違うところで神経を使います……』
四人で同時操作だがフィールド移動中、先頭の人と五マス分離れるとフリーズする。
しかも、その判定が謎で『今、離れてなかっただろ!?』という時にも起きてしまう。
だから結果として、俺が通った道をみんなが通るような感じだ。
毎回、『次は右、後二歩進んだら一旦止まる』みたいに言わなきゃいけないのは面倒だけどね。
『凛、クソゲーは奥が深いだろ?』
『……凄いですね。ここまであると意図的に作ったのではと、勘繰ってしまいますね……』
『これだけではないからな。他にも色々あるぞ?』
『……どんなのがあるの? 興味本位でちょっと知りたい』
『聞かなくても予想出来るけどよ〜。例えば、翔和が歩いていたルートも意味があるんだろ? 終盤のボスがいきなり現れるとかさ』
『お、流石は健一! クソゲーへの理解が深いな』
『褒められてても嬉しくねぇーよ!!』
普通の雑魚敵の中に紛れてボスが出てくることや、最弱モンスターが異常に堅くなり、ダメージをほぼ受けなくなるとかはザラだ。
このゲーム名物の“フィールドは全て地雷”というやつである。
これのせいで何人ものプレイヤーがコントローラーを投げたとか……。
まぁ、有志の方々が攻略を見つけても尚、バグが見つかるのはある意味で凄いゲームだよな。
『さて、とりあえずレベルを上げて物理で殴るか!』
『それだったら、戦士四人でも良かったんじゃねぇか?』
『戦士だと経験値が何故か入らないから無理なんだよ……。同じジョブだけになると起こるバグらしい』
『うわぁ……流石はクソゲーだな……』
『楽しいだろ?』
健一と藤さんからはなんとも言えない空気が伝わってくるが、凛からは『楽しいです!』と元気な声が聞こえてきた。
どんなものでも楽しむっていいよね。
まぁ、凛の感性を常人では計り知れないって可能性もあるけど……。
俺は背伸びをしてコントローラーを握り直す。
『とりあえず最初で最後のボスまでやろっか。それなら今日中になんとかなると思うし』
『なんか言い方が気になるんだが……』
『ま、見てればわかるって』
こうして俺達の経験値上げ、作戦名“レベルを上げて物理で殴る”がスタートした。
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