閑話 クソゲーRPGをしよう!①
※時系列は夏休み中の祭り前です。
◇◇◇
——夏休みの某日。
健一と藤さんは余程暇なのか、また俺の家に来ていた。
来るのは一向に構わないんだが、健一はまるで実家にいるようにくつろいでいる。
藤さんは……まぁ、いつも通り健一にべったりだ。
俺はそんな二人の様子を見ながらため息をつく。
やれやれ、早く帰ってごろごろさせてくれないかなぁ……。
「悪いな二人とも、愛の巣を邪魔しちゃって」
「気にしていませんよ。それより、お茶を用意しました」
「お、さんきゅー」
凛はとりあえず“愛の巣”って言葉ぐらい否定してくれ。
さらっと受け入れるなよ……。
けど、俺としては今日だけは好都合だ。
「家にいるとどうしても暇でよ〜。だから、そんな嫌そうな顔するなって……あれ?」
「うん? どうした健一、意外そうな顔をして」
「いや……いつもの翔和だったら俺が来た途端、居留守を使ったり露骨に嫌そうな表情をする筈なのにそれがないって思ったから……」
「いやいや、俺だって客人をもてなすことだってあるさ」
俺はやれやれと言った様子でお茶をすすり、肩を竦めた。
ちっ。
流石は男版リア神。
無駄に鋭いな……。
「翔和くん。琴音ちゃんと加藤さんが来たからといって勉強の課題がなくなるわけじゃありませんからね?」
「そんなことは考えてない……」
「私の目を見てそれが言えますか?」
俺の手を握り、真っ直ぐに見つめてくる。
まるで子供の嘘を確かめるような……。
はぁ、これされると逃げれないよなぁ。
「すいません……。考えてました」
「もぅ! せっかく軌道に少しずつ乗ってきたのですから、欠かしてはダメですよ?」
とたしなめつつも、凛はそれほど強く注意する気はなく寧ろ微笑んでいた。
その様子を健一は相変わらずニヤけた面でこちらを見ている。
ったく……楽しんでるなこのやりとりを。
俺は凛に「わかってるよ。ちゃんとやるって」と言い、ため息をついた。
「ふふっ。それならよかったです。ですが、せっかく四人いることですから息抜きを兼ねて遊ぶのもありかもしれませんね」
「遊ぶって……トランプとか……あー、なるほどなぁー」
一人で納得したように健一がうんうんと頷く。
その様子を見た凛は、健一に何やら目配せをしている。
なんだ……?
俺は藤さんをちらりと見る。
けど、よくわかっていないのか藤さんは首を傾げ、恨めしげに健一を見ていた。
あー、あの目は『私を置いてけぼりにしないでよ』と訴えてる感じだな……。
困ったな……このままだと後で健一の未来はしばかれるか、俺が目を瞑りたくような甘々空間が作られてしまう。
『健一、気付けー! 手遅れになる前に』と俺は阻止するために健一にアイコンタクトを送る。
すると、何故か健一は俺に向かってウインクをして、イケメンスマイルのキメ顔をきめてきた。
あ……。
藤さんの表情がやばい……。
俺は健一に向かって合掌をする。
さらばだ健一……。
また来世で会おう……。
藤さんが健一にゆっくりと近づいて——
「翔和くん! これをみんなでやりませんか?」
水を差すように、やや興奮気味の凛の声が家の中に響き渡る。
凛の手にはいつのまにか、ゴーグルとコントローラーが握られていた。
あー、随分と懐かしい物を出してきたなぁー。
凛は目を輝かせ、興味津々といった子供みたいな様子で俺の前に持ってきた物を置く。
そう、前に糞ゲーを一緒にやって以来、息抜きの一つとして凛がよく提案してくるようになったのだ。
うん?
もしかして今回もひょっとしてやりたかっただけ……か?
まぁ考えても仕方ないけど、俺も普通にやりたい気分だし。
「あー、その四人で出来るやつね」
「へー……。翔和がパーティー系のゲームを持ってるなんて知らなかったぜ」
「いや、これ普通のRPGだぞ」
「普通って……どうせ翔和のことだから、これも糞ゲーだろ〜?」
「よくわかってるじゃないか」
「……くそげー? 面白いのそれ?」
「まぁ、面白いよ。藤さんがハマるかはわからないけど」
「琴音ー。とりあえず過度な期待をしない方がいいぜ〜。翔和が持ってるのに碌な物はねぇから」
おい、健一。
なんてことを言うんだ。
「……健一、もしかして私に秘密で遊びに行ってたの?」
「あ、えーっと……いや〜、わりぃわりぃ。けどそんなに入り浸ったりは——」
「ほら健一。前、無駄に置いていったコントローラーが四人分あるぞ。早速やろうか!」
「おい翔和!? なんでこのタイミングに……! って、琴音!? そのハリセンはどこから持ってきたんだよ!!」
「琴音ちゃん? 男の子同士、仲良しはとてもいいことだと思いますよ。そんな、あれこれ言っても仕方な——」
「常盤木君の好きな人は男説……」
「私もじっくり話を聞こうと思います」
「……お前らなぁ」
健一が頭を抱え、「はぁぁ」とため息をついた。
ってか、いつになったらその誤解は解けるんだよ……。
「これってどうやるのですか?」
「専用のゴーグルを着けて、後はコントローラーを握っておけばいいよ。とりあえず、起動までの準備は俺がやるわ」
各々が頭にゴーグルを装着してゆく、凛だけは手間取っていたので俺がしてあげることになった。
「えへへ〜」って、嬉しそうにするなよ。
着けづらいじゃないか……。
「さて、これでいいか。じゃあ始めるからなぁ」
電源を入れ、ゲームを起動されると重厚な音楽と共に映像が流れ始めた。
『これは運命を切り開く物語……。この世界には新暗黒物質が充満していた。それは大いなる戦いの結果……神人、悪神、暗黒獣——』
オープニングにやたらと専門用語だらけのムービーが流れ始める。
ちなみにこの無駄にスケールを広げた話が十分ほどスキップ出来ずに流れてゆく……。
うん……。
いつ見てもわかりづらいな、これ。
凛は画面を真剣に見ながら「知らない言葉が……どこの国でしょうか」と悩んでいる様子だった。
藤さんも初めて見るゲームだからか、特に文句を言わずぼーっと見ている。
ただ、健一だけはコントローラーを動かして「うーん」と考える素振りを見せ、何か嫌な予感を感じたのか顔を引きつらせた。
すると画面が急に四分割され、
『まずはキャラクタージョブガチャを引いて下さい』
というテロップが流れた。
お、そうそう! 懐かしいなこの感じ!
少しだけ、ワクワクしてきた。
「はぁ!? 自分で好きなキャラとか選べるわけじゃねぇーのかよっ!」
「ほら言ってただろ? 『運命を切り開く物語』って」
「まさかリアルの運だと思わねぇだろ!」
「よくわかりませんが……。とりあえず引けばいいんですよね? では——」
俺は、押そうとする凛の手を止める。
危ない危ない……ここで押されると面倒だからな。
って凛?
手を握り返されたらコントローラーが持てないんだけど……。
「とりあえず、1Pの俺から順番に押す。そうじゃないとフリーズするから」
「げっ!? そんなところから地雷があるのかよ」
「同時に四人でプレイすると処理速度が追いつかないから仕方ないさ。けど、こんなの序の口だぞ?」
「先が思いやられるなぁ……」
「流石はくそげーですね。奥が深いです」
「……これがゲームの難しさ」
「琴音も若宮も何言ってんだ……」
ため息混じりに言う健一。
まるでこの後に起こる苦難をなんとなく察してるようである。
まぁ、確かに健一はクソゲーやバグゲーは俺の家で結構やってるからな。
俺が持ってる物に碌なものがないとわかってるんだろう。
「んじゃ、俺から順番に、次は凛、そして健一に藤さんって感じで押してってくれ」
「わかりました!」「はいはい」「……問題ない」
順番にガチャボタンを押すとドラゴンとカエルを合わせたような、形容し難いモニュメントが動きガチャ玉を出してゆく。
そして出てきた役職は——
『“戦士”』『“戦士”』『“戦士”』『“戦士”』
という結果だった。
「なんだこのガチャは!? せめて、分散させてくれよ!」
「このゲームが出た当時はソシャゲのガチャに天井や確率表記もない時だからな。これは仕様だ」
「マジ……かよ」
「出たものは仕方ないですし、このまま始めませんか?」
「いや凛、ちなみにこのゲームはパーティーが揃わないと始まりの町で確実に死ぬから」
「やべぇな、それ……」
「……理不尽。けど、常盤木君はクリアしたんでしょ?」
「リセマラをやり続けて、バグキャラって奴を引いたからソロでもクリアできたぞ。けど、今回は四人だから残念ながらそのバグはない」
「んじゃ、どうすんだ?」
「どう考えてもクリアなんて出来ないからやり直しだな。さて、再起動っと」
俺はゲームの電源を落とし、再度つけなおす。
すると、先ほどのオープニングムービーが流れ始めた。
「翔和……、まさかと思うがこれスキップ出来ない……?」
「クソゲーだからな」
「嘘だろ……。これを繰り返すのかよ」
「クソゲーだからな」
「おい、全てをその言葉で片付けようとするなよ!」
やはりこの作業の怠さがクソゲーの真髄だ。
作り手側の過酷な労働環境を体現しているかの如く、“闇”を感じる仕様にはある意味で頭が上がらない。
「それじゃ、とりあえず引き続き冒険(ガチャ)を始めるか」
「翔和くん、なんか楽しそうですね?」
「ま、そうかもしれないな」
確かに四人でゲームをやるとかなかったからね。
そう考えると感慨深いものがあるな……。
こうして俺ら四人でのクソゲーRPGが始まった。
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