第82話 なぜか、リア神と夏祭りに行くんだが⑥
買い物を終えた後、俺と凛は集合場所である藤の母親の実家に来ていた。駅も中々に田舎であったが、今いる家の周りはさっきのを上回るほどの田舎である。
牧歌的な雰囲気と言えば伝わるだろうか?
都会の喧騒など無縁な本当に静かな場所であり、暮らすならこういう所がいいなぁ〜と素直に思う。そして縁側に枕を置き、一日中ごろごろしていたい……。
うん。ふと浮かんだ考えだけどアリだな……。
今日は祭りなんて行かずにそうしていよう——
「翔和……くん?」
そんな俺のだらけた心中を察知したのかタイミングよく凛から声を掛けられた。怪しむような視線を俺に向けてきている気がするが……うん、これは気のせいだと信じたい。
俺は誤魔化すように『ふわぁ」と大きな欠伸をし、そのまま背中を伸ばす。その様子を見た凛はため息をつき、俺と同じようにぐ~っと腕をあげて伸びをした。
「う〜ん、空気が綺麗……。伸びをするとなんだか気持ちがいいですね」
「そうだなぁ……」
いつもは見せない無防備な表情。そして伸びた時に強調されてしまう身体のライン……。
夏服は薄着だ……、それを凛という女神級の美少女が着るだけで扇状的に見えてしまうのは避けようがない事実。
……枯れてるとは言え、俺も一応は血気盛んな男子高校生。
どことは言わないが、視線が自然と誘導されてしまうのは仕方のないことで……。
そう、ある意味……自然の摂理である。
そんな姿に目を奪われていると、俺の視線に気がついた凛とばっちりと目が合ってしまった。
——時が止まったような静寂。
それと同時に『しまった』という思いから俺を焦燥感が包み込んできた。
俺は誤魔化すようにわざと咳込み、視線を太陽へと移す。そして、薄らと額に滲む汗を手で拭い「まだ暑いな……」と呟いた。
うん。完璧なフォロー。
我ながら文句のつけようがない演技である。
だが、そんな俺を嘲笑うかように「ふふっ」と小さく笑う声を耳が拾う。
嫌な予感がして凛を横目で見る。すると頰を赤く染め、なんだか嬉しそうに凛は笑っていた。
「……うん? 何かおかしいことでもあった?」
俺は内心で舌打ちし、頭をぽりぽりと掻きながら惚けるようにそう言った。
誤魔化しようのない状況。けど、何故か凛は小首を傾げきょとんとしている。
「いえいえ、なんでもありませんよ」
「それならいいけど……。変な勘違いとかしないでくれよ?」
「勿論しませんよ」
「そ、そっか、ならよかった……」
言葉に詰まりながら、凛を見るとにんまりと人の悪い笑顔を返してきた。
「ふふっ。翔和くんも男の子ってことですね」
「どういう意味だよ……」
「さぁ? 自分の胸に聞いてみるのが宜しいかと思いますよ?」
ったく……。
完璧にしてやられた気分だが……これ以上なんか言うと墓穴を掘りそうなのでやめておこう。
くそ、彼女には一生勝てる気がしないんだよなぁ。
それに、なんか手玉に取られている気がするし……。
俺はがくりと肩を落とし、ため息をついた。
「おーい、翔和~!」
イケメンボイスが俺の耳を通過する。
声がする方に顔を向けるとそこには、いつも通りのニヤついた顔でこちらに手を振る悪友の姿があった。そしてその横には、当然のように藤もいる。
おそらく待たされたのが不満だったのだろう、藤は少し頬を膨らませ口を尖らせていた。
ってか、やり取りがひと段落したところに健一の声……。
……絶対に見てただろ、あいつ。
「よぉ〜っ! 随分と遅くなったじゃん二人とも。どこで道草を食っ……いや、言う必要はないか。俺は全てわかってるぜっ!」
「……二人とも遅い」
凛は「お待たせしてすいません」と丁寧に腰を折って言った。相変わらずの綺麗な姿勢……まるで、マナー研修のDVDとかに出てくる模範生のようだ。
「健一……何故遅くなったかは、この荷物見ればわかるだろ。つーか、買い出し行かせたの健一だし、冗談でも変な勘繰りで自己解決をしないでくれ……」
「わりぃわりぃ! そんなにむくれるなよ〜」
健一は背後から俺の肩に腕を回しゆらゆらと揺らしてくる。
なんだろう、やたらとテンションが高い……。夏の暑さと合間ってか、余計に暑苦しいなぁ。
俺は「離せ~」と踠くが流石は高スペックのリア充、びくともしない。
でもマジで早く離して欲しい……俺を見る藤の視線が怖いから……。
「……とりあえず凛はこっちに来て、案内するから」
「お願いします」
「えーっと藤さん、俺はどうすればいい?」
「……常盤木君は健一と一緒にバーベキューの準備。野菜とか切っておいて。それから荷物は玄関まで運んで」
「へいへい、わかったよ」「はいよ~。こっちは任せな!」
「……返事は“はい”でしょ?」
「「はい……」」
「……わかったならさっさと準備して。じゃあ凛、いこっか」
「そうですね。では申し訳ないのですが、翔和くんと加藤さんよろしくお願いしますね。戻りましたら、すぐにお手伝い致しますので」
凛は申し訳なさそうに頭を下げ、小走りで家の中へと入って行った。
足取りが妙に弾んで見えたのは……俺の思い過ごしだろうか?
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