⭐︎発売日前日⭐︎ハロウィンSS


「文化を重んじることが私達には必要だと思います」


「えーっと……どうしたんだ凛?」


「翔和くんは今日が何の日かご存知ですか?」


「もちろん知ってる」


「意外ですね……。翔和くんのことだから、絶対にわかってないと思ったのですが——」


「勤労に疲れた人達の“終末”だろ?」


「……たしかに、それはそうですが……あれ? “週末”のニュアンスがおかしくありませんか?」


「気のせいだろ。んで、その手に持ってる段ボールには何が入ってるの? ちらっと服らしき物が見えるけど」


「それで察していないということは……。はぁ……やっぱりわかってないじゃないですか……。ひとまずこれを見て下さい」


「バニーガール……? あーなるほど、凛はそういう趣味だったのか……(しかも、なんか布面積が際どいな)」


「あれ……? 翔和くん何でそんな生暖かい目を?」


「まぁ、そうだな。俺は寛容な人間だから、人の趣味にとやかく言うつもりはないよ」


「勘違いしないでください! 仮装コスプレですよ、コ・ス・プ・レ! 今日は“ハロウィン”なのですから!!」


「……あれかー。リア充たちが揃いも揃って馬鹿騒ぎする“リア充御用達四大イベント”のことね。……はぁ」


「そんな盛大にため息をつかなくても……。ちなみにですが、四大とは?」


「クリスマス、祭り、ハロウィン、大晦日……。どれもいらない」


「なくなってしまったら私が困ります……」


「俺は困らないけど」



「困りますよ……。だって、翔和くんと過ごしたい特別な日が減っちゃうじゃないですか……」



「…………(あー、そんな悲しそうな顔するなよ……)」


「今日も翔和くんとハロウィンパーティーをやりたくて衣装を準備したのですけど……」


「……少しなら……付き合う」


「本当ですか!?」


「あー、あくまで……少し、な」


「嬉しいです! あ、でも仮装がこのバニーガールと……メイド服と……ナース服……警察官……それから——」


「おいおい、どんだけ入ってるんだよ……」


「良さそうな物を一通り用意してみました。と、言っても全て貰い物ですけどね」


「貰い先は聞かなくても想像がつくからいいや……。なんで持ってるんだよという疑問はあるが……。(しかも、わりと俺の胸にぐさっとくる物ばかり……)」


「それで、どれが翔和くんの好みになりますか?」


「どれって言われてもなぁ……(チラッ)」


「なるほど……。ナース服ですか……」


「い、いや! 俺はまだ何も言っていない!!」


「人は興味のある所を1番最初に見て、その後にその視線を誤魔化すように他を見ます。それに、他の衣装より若干ですが見ている時間が長かったようです。違いますか?」


「ソンナコトハナイ……」


「わかりました。着てきますね」


「ちょ、ちょっと待て! なんでそうなるんだよ!」



 ——10分後



「翔和くん……。どうでしょうか……?」


「え……やば……(神すぎて、なんも言えねぇ。目が泳ぐ……)」


「“やばい”ですか……。わかりました……出直して来ます」


「ち、違うからな! 俺が言った“やばい”は否定的な意味で言ったわけじゃなくて……。まぁ、だから……。とりあえず凛がへこむ必要はない!」


「では……どういう意味で……?」


「それはだな……その……」


「その?」


「「………………」」


「あー、わかったわかった!! 白状する……。正直、まぁ……そうだな…………よかったよ、さっきの」


「本当ですか?」


「……嘘言っても仕方ないだろ……。ってか、凛だったら俺が嘘を言ってるかどうかわかるんじゃないか?」


「たしかにその通りですが……」


「読めることを否定はしないのねー。ま、とりあえず見惚れたし、よかったってことが伝わればいいよ」


「流石に……面と向かって言われると、照れますね」


「なら言わせんなよ……ったく」


「翔和くん……。1つやってみたいことがあるのですけど、いいですか?」


「うん? 何? なんで聴診器を近づける……?」


「心音チェックです。さぁ、患者さんは黙って診察されて下さい」


「やめろって!(今、当てられたら心音でバレる……)」


「あ、ちょっと翔和くん! 抵抗しないでください!」


「お、おい!?」「きゃっ!?」


 うまく避けることが出来ず、俺の上に乗っかるように倒れ込む凛。その豊かな胸部を押しつけるように自然と俺の上にのしかかってきた。



「うっす翔和! 玄関開いてたぜ〜って……あ」

「……健一、止まらないで。どうかしたの?」


「「「「………………(無言で見つめ合う4人)」」」」


「なぁ、琴音」

「……健一、わかってる」


「「どうぞごゆっくり〜」」


「おい! ちょっと待て!?」

「琴音ちゃん誤解です! まだそこまでいけてません!!」


 この後、健一と藤の誤解を解くのに時間がかかったのは言うまでもない。

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