第10話 リア神の訪問と家の惨状



 築30年の木造アパート。

 歩くと床は軋み、陽当たりは皆無。


 駅からは徒歩で15分程度、間取りは1DK。

 家賃は6万円。


 これが我が家のスペックだ。


 ちなみに俺の家から見える高層マンションがリア神の住まいで、自転車で5分程の場所。


 ……悲しくなるぐらいの格差である。



 家の前に到着したわけだが、若宮はどこか緊張した面持ちである。

 普通に考えれば、男の家に行くことに緊張していると思えなくはないが……けどリア神は、若干のズレがあるから——



「親御様への挨拶って私、初めてなので少し緊張しています」


「だよねー」



 俺は嘆息する。


 若宮は、男の家へ上がることに抵抗はないのだろうか?

 ないとすれば、注意しないとな……。

 一応、心配だし……まぁ少しだけだけど。



「家、意外と近いです。それにしても……えーっと、その趣がある家ですね」


「まぁ近いな。つか、気を遣わなくていいぞ? 若宮の家と比べると、家かどうか怪しくなるぐらいボロいし、趣のカケラもないから」



 若宮は苦笑すると、家を注意深く観察し始めた。


 そして、首を傾げる。



「常盤木さんってもしかして、一人暮らしですか?」


「なんでそう思った?」


「あんまり生活感を感じないのと、窓の柵に掛けてある傘が1本しかありませんから」


「ああ、なるほど。いい線いってるよ、さすがは若宮さん」


「恐縮です」


「けど、正解は親父と2人で暮らしているよ。まぁ、でも仕事でほとんど家にいないから実質一人暮らしって感じだから、若宮さんの考えは当たってるちゃ当たってるかな」


「そうだったんですか。では、お一人で家事をされてるということに……まだ高校生なのに大変ですね。それでは勉強時間がとれない筈です……」


「ま、まぁな」



 そう返事をしたが、実際は家事なんて一つもやっていない。


 本当に何もだ。

 これは謙遜でもなく、事実である。


 唯一、家でやっていることは『寝る』ことぐらいだ。

 食事は、買ったパンをそのままコンビニの前で食べるし、もし家で食べることがあってもカップ麺とかしか食べない。


 とにかく不摂生な生活を送っていた。



 だが、そんなことを知らないリア神は真剣な表情をしていた。

 そして、小さく深呼吸をすると決意した様子で俺を見つめてきた。


 ……もの凄く、嫌な予感が。



「これも何かの縁……。常盤木さんが少しでも学業に専念できるように私、手伝いますから!」


「いや、マジでいいよ」


「“いいよ”ですね。わかりました、任せて下さい」


「またこのくだりかよっ!? だから必要な——」


「皆まで言う必要はありません。わかってますから」


「わかってねぇーよ!」


「善は急げです。ですので、さっそくお邪魔しますね」


「あ、ちょっと待て」



 俺は忘れていた。

 家に人を招くなんて片手で数えられるぐらいしかない。


 だからこそ忘れていた。

 自分の家が、人を呼べる状態ではないことを。




「常盤木さん……これは……空き巣が入ったのですか?」




 家の惨状を見た若宮が目を丸くし、何度か目を擦る。

 目の前の光景が信じられない、そんな様子だ。



「これデフォルト……」


「これは……。常盤木さん、よく生活できてますね……。足の踏み場がないじゃないですか」


「いやでも、服が落ちてるからその上を歩けるだろ? 例えるならシルクロードだ」


「全く上手くありません」


「はい……」


「とにかく掃除をしましょう。他のことは一旦後回しです」


「いいよ、別に」


「ダメです。見てしまった以上、私のプライドが何もせずにはいられません。ひとまず普通の生活ができるところまでは片付けましょう」


「でもな、ゴミ袋とか買ってないからないぞ」


「ご心配には及びません。持ってますから」


「なんで持ってんの!?」



 あまりの準備のよさに、唖然とする俺。

 そんな俺を無視し、若宮は勝手に片付けを始めている。


 結局、この家の大掃除が終わったのは21時を回った頃だった。

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