第9話 リア神はどこかズレている?



 バイトの終わった俺は、若宮と2人で慣れてきた帰り道を並んで歩いていた。

 横を歩く若宮は、どことなく足取りが軽い。


 きっと、今日は親に怒られていないからだろう。

 いつも帰り遅くて怒られてるみたいだしな。


 まだ18時過ぎということもあり、澄んだ群青色の空の西側には薄っすらとあまい赤が残っている。


 その空をバックに若宮の写真を撮ったら、コンクールで優勝できるのではないか?


 と思えるぐらいこの背景と若宮はマッチしていた。

 絵になる女性とは、このことを言うのだろう。



「この時間は、まだ明るいんだな」


「そうですね。中々に綺麗だと思います」



 ここで出来る男なら、若宮のことを褒めるキザな台詞の1つや2つ言えたことだろう。


 だが、俺は「ああ」と短く言うことしかできない。

 このシュチュエーションで、もう少しマシな事が言えるようになるのは何十年も先のことかもしれない。

まぁ勿論、何十年経っても言えない可能性は大いにある。

 非常に情けない話だが……。



「そういえば、いつもと同じ道を歩いていますが……ちゃんと常盤木さんの家に向かってますか?」


「どういうこと?」


「いえ、もしかして私を家まで送って勉強の件を有耶無耶にしようとしているのではないかと思いまして」


「ははっ。まさかまさか。俺の家もこっちの方なんだよ」


「それは知らなかったです」



「疑ってすいません」と謝る若宮に俺は「気にすんな」と曖昧な笑みを浮かべて答えた。


 けど、最後の抵抗を試みようと思っていたけど……無理っぽいな。



「なぁ、若宮さん本当に家来るのか?」


「勿論です」


「……一応さ。俺……男なんだけど」


「知っていますよ。女性だとは思ったことありませんし」


「いやいや、そうじゃなくてさ……。男の家に上がるって……その……危ないとか思わないの?」


「あっ」



 何か思い出したように声を漏らすと、若宮は頰を紅潮させた。

 自分のしようとしていた行動の危なさに、気づいてくれたみたいだ。



「私としたことが失念していました……」


「そうかそうか、わかってくれたか。なら勉強会は中止に——」


「菓子折りを持って行かなければ失礼ですよね!」


「は? 菓子折り?」


「はい! いつもお世話になっている常盤木さんの家にお邪魔するわけですから、何も持たずになんて親御様に大変失礼だと思いますっ!」


「そっち!? どうしてそうなる!?」


「これは常識です」


「俺は聞いたことがないんだが……。菓子折りとか本当に必要ないぞ?」


「必要ないかどうかは、私が決めます」



 本当に菓子折りは必要ないんだよなぁ。

 家に誰もいないし……。


 でも若宮の目が『私、引きませんから』と訴えているんだよね……。

 ここ何日かで接してわかったけど、猪突猛進だよね若宮って。



 この後、俺は半ば無理矢理コンビニへ行くことになり、若宮はそこで菓子折りを購入したのだった。


 最近のコンビニは便利だよね……。

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