第3話 クイズ

「問題です!」


 教室に入るやいなや久重路さんがそう言った。


「鉛筆と消しゴムは合わせて110円で、鉛筆は消しゴムより100円高いです。さて消しゴムは何円でしょう」

「5円」

「即答!?」


 久重路さんには残念だがこの問題は聞いたことがあった。


「じゃ...じゃあ次の問題!」


 長引きそうなので先に席に着いておく。立ったままだときついしね。


「あなたは今分かれ道に立っています。片方は正直者の村で反対は嘘つきの村です。

 今その分岐点に1人の村人がいて、あなたは1度だけ質問できます。その村人がどっちの村の人かは分かりません。

 さて、正直者の村に行くにはあなたは何と言えばいいでしょう」


 これは初めて聞いた。少し考える。


 九重路さんがにやにやしながらこっちを見ているのが分かる。


「あ...」


 閃いてしまった。


「あなたはどっちから来ましたか。だろ?」

「...正解」


 さっきまでとは一転、明らかに彼女のテンションが下がる。


「その本、どうしたの?」


 先程から彼女の目線は手に持った『クイズ・なぞなぞ大百科』という本にあった。


「図書館で見つけたの。面白そうだったから借りてきちゃった」


 良くもまぁピンポイントで見つけてくるものだ。


「それじゃ次はなぞなぞ!」


 再び勢いを取り戻した九重路さんがページをパラパラとめくり出した。


「さむいほどあつくなるものはなんだ!」

「氷」

「○○○ずむのは○○。対になる言葉を入れて文章を完成させよ!」

「東と西。日が沈むのは西だね」

「行くのに63日もかかる場所は!」

「九州。9週かかるからね」


 ここで九重路さんが本を閉じる。


「ギブアップ!」


 彼女の方が先に音を上げてしまった。


「なんでそんなに答えれるの!?」

「まさか自分にもこんな才能があるとは予想外だよ」


 もっといいところに才能を持つことは出来なかったものか。


「あ、じゃあ俺から問題を出そうか」

「え!なに!?」


 思ったより食い付いてきた。


「なんでも出来る全知全能の神様がいました。その神様は誰にも持ち上げられない重たい石を作ることは出来るでしょうか」

「・・・」


 沈黙が流れる。どうやら本気の思考モードに入ってしまったようだ。


「おはよー!...って何の最中?」


 幸崎さんが入ってきた。


「あ!花梨ちゃん!ちょっと一緒に考えて!」

「うん。とりあえず話を聞かせてもらっていいかな」


 という訳で経緯を説明して彼女にも同じ問題を出す。


「.....答えはない、でしょ?」

「え!?」

「お、正解」


 若干1名目を剥いているがスルーする。


「典型的なパラドックス問題じゃん。なんでも出来る神様ならその石を持ち上げられるはず。でも持ち上げられたらいけない。ここでパラドックスが生じてるの」

「パラドックス?」


 若干1名キョトンとしている。


「まあ、簡単に言うと答えがないってことよ。どっちに転んでも都合がつかないから」


 なるほど、と納得した顔で九重路さんは頷く。理解してくれたようで何よりだ。


「って!騙したね!」

「問題に必ず答えがあるとは思っわちゃいけないよワトソンくん」

「誰がワトソンくんじゃ」


 こういうノリの良さが彼女が人気の理由の一つでもある。


「じゃあ私も問題出す!」


 と、幸崎さんも参戦してくる。


「じゃあクイズ大会だ!」



 という感じで突如始まったクイズ大会。

 一時期クラス全体でブームになったのはまた別の話だ。

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久重路さんと 才野 泣人 @saino_nakito

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