第2話 音楽
「おは.....」
声をかけようとしたところで久重路さんがイヤホンをつけていることに気づいた。
今日はちゃんと自分の席にいるんだな。
残念なんかじゃないさ。別に。
というかよく聞けば軽く口ずさんでいる。ノリノリだな。
あ、この曲聞いたことある。そうか、昨日音楽番組でやっていたやつだな。ドラマの主題歌とかなんとかで人気急上昇中のバンドだ。
久重路さんがこっちを向く。バッチリ目が合った。
ワンテンポ遅れて慌ててイヤホンをしまい出す。
「...いつから聞いてたの」
「サビのちょっと前くらいから」
「恥ずかしい...」
彼女は両手で顔を覆う。可愛い。
立ったままもアレなので自分の席に向かう。
カバンを置いたあたりで正気に戻った久重路さんがこっちの方に向かってきた。
「歌って」
「へ?」
間抜けな声が出る。
「私だけ聞かれるなんて不公平じゃない?高梨くんも何か歌ってよ」
とんでもない暴論が飛んできた。
「えぇ...」
「ほら早く。花梨ちゃん来ちゃうよ」
むしろ来てくれた方が興味がそっちに移るからありがたい気がする。
......ダメだ。これはマジの目だ。
「あんまり上手くないからね」
一応保険だけかけておく。
歌うのはひと昔前に流行った邦楽。
カラオケでも唯一自信持って歌える曲だ。
勿論フルではなくサビのワンコーラスだけ。
「嘘つき」
歌い終わった後、彼女そう言った。
「歌上手いじゃん」
そういう彼女の顔はちょっと膨れていた。
「ありがとう」
謙遜しても嫌味になりそうなので素直にお礼を言っとく。
「音楽とか好きなの?」
「多少はね。楽器とかやってたし」
「そうなの!?」
思ったよりも食いついてきた。
「小学校の時にベースやって中学校の時はエレキギターかな。今はドラムやってるけど」
「一人でバンド組めるじゃん」
「そこまで上手くはないよ。趣味の程度だし」
実際ベースもギターも昔は教室に通っていたが今は行っていない。忘れないように時々弾くぐらいだ。
「文化祭とか出れば良かったのに」
「メンバーが集まらなくてね」
「あ、出ようとしたんだ...」
残念なことにこの学校には軽音楽部がないのだ。だから文化祭でステージに立つには個人的にメンバーを集めるしかない。
「じゃあもし今年出るならさ、私が参加してあげるよ」
「マジで!?」
衝撃発言。
「キーボードなら私できるし」
「初めて知った」
「言ったことないしね」
さも当たり前かのように九重路さんは話す。
「おはよぉ!」
と、幸崎さんが前のドアから入ってきた。
「おはよう花梨ちゃん」
「あ、また2人でいる。もしかして...」
「...ちょっとあちらで話をしましょうか花梨ちゃん」
「わー!ギブギブ!」
そうして2人は教室を出ていった。
「ちょっ!そこは!きゃあ!」
廊下から悲鳴が聞こえてくる。
俺は幸崎さんに向かって静かに合掌した。
南無。
それにしてもあの話、どこまで本気だったんだろうか。
結局2人が戻ってくると同時に次の人も来てしまったため、その心は聞けずじまいだった。
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