1-10
「とにかく逃げよう。また見つかったら今度は逃げられそうに無い。」
アニヨンが落ち着いた頃を見計らい、カタールはこれからの指針を提案した。
対峙して改めて身に染みた事がある、二人にラギルは倒せない。魔王を倒した勇者の元一味とただの農民では較べるまでもない事であったが、それでもどこかで『自分と同じ人間なら』という考えがあった。しかしその甘い考えは粉々に打ち砕かれていた。狼に追われる羊に出来ることは逃げ惑うしかない。それでもアニヨンは首を横に振った。
「逃げても、たぶんまた見つかる。どうやってかは判らないけど、きっと何かの手段で私達を探せるんだと思う」
仮定に仮定を重ねた不確実な予見だが、アニヨンにはそれが確実な未来に思えた。
魔族に邪魔されていたとはいえみすみす獲物を取り逃がすなんてことを、ロイガーの仲間だったほどの男がするだろうか。ロイガーの言い付け通り痕跡を消しながらの強行軍を追って来れる男が、森から抜けた程度で撒けるだろうか。
「なぁ」
頭を抱え俊巡するアニヨンにカタールもまた迷うように声を掛けた
「ラギルと魔族と、どっちがマシだと思う?」
方や人類の裏切り者、方や人類の大敵、どちらであっても喜ばしくは無い。それでもどちらかを選ばなければならないならば。
「……魔族」
ラギルに捕まればロイガーに迷惑が
掛かる、それは許せない事だ。ただ殺されるだけならば、まだそっちが良い。
「なら一つ思い付いた事がある。上手くいくかどうかは……わかんないけど」
そう言うとカタールはアニヨンの手を引いて歩き出した。焦げ跡一つない、しかしゴツゴツとした固い手がしっかりとアニヨンを掴んでいた。
「アニー」
歩き出してすぐ、カタールがアニヨンを呼んだ。「なに?」と尋ねる間もなくカタールは言葉を続けた。
「さっきの割れ目の所まで戻れる?」
ここは迷いの森、更に無我夢中で逃げ出した先。アニヨンはゆっくりと首を横に振った。
つまるところ二人は迷子であった。
無限聖剣タケノコォド 天蛍のえる @tenkei
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。無限聖剣タケノコォドの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます