1-9
「嵐雷よ!」
「はっ、当たりませんよ!」
十を超える稲妻の帯が荒れ狂う様にラギルに向かう。常人には避け様のないそれを、ラギルは手にした槍で大地を突く事で異常な加速と方向転換を行う事で避けていた。しかし回避の為に槍を使えば攻撃する手段はない、どちらも決め手が無いまま戦況は早くも硬直したかの様に見えた。
アニヨンにとって幸運だったのはラギルの目的が『アニヨンかカタールを捕らえる』だった事だ。魔族の電撃を浴びたカタールが生きているという楽観をラギルはしなかった。そのため勇者ロイガーへの交渉材料であるアニヨンの安否に気を配り、魔族の雷撃が向かわぬ様に誘導をしていた。そのぶんアニヨン本人への注意は散漫になる。アニヨンが逃げる事を誰も止める者は居ない。しかしカタールを置いて逃げる事は彼女には出来なかった。
雷に打たれた時の手当ての仕方など知る筈もない、ただ目の前の危険から身を遠ざける事しか思い浮かびはしない。もしかしたらもう命はないかも知れない、それでも。
「ひっ、ひっぐ……ひぃ……ひぐっ」
沸き上がる涙を、嗚咽を堪えながら、黒ずみ力無く横たわる幼馴染みを肩に背負い歩く。行く宛などある筈もない、希望など見える筈がない、それでもアニヨンは歩き出し、森の奥へと消えて行った。
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まどろみの中に焼け尽く様な痛みがあった。落ちた先は眠りか針山か、全身を貫く痛みが意識を暗闇に貼り付けている様であった。次第に苦痛が鋭くなってきた、これまでのはただの前座だとでも言うように、目が覚める様な激痛がはしり
「ィッッッッーー!!!」
声にも成らない叫びが森を揺らした
「えっ?ひゃっ!きゃぁ!」
高所から落ちた様な衝撃がカタールを襲った。幸いにも何か柔らかいものがクッションになってくれたが、いったいこれはなんだろうかと掴んでみると暖かく柔かい感触が「ひゃんっ」と可愛らしい声を上げた。聞き覚えのある声だった、そして聞き慣れた声だった。
自分が何に触れたのか理解に至った瞬間弾かれた様に飛びずさる。目を見開くと地面に倒れ付したアニヨンが振り返ろうと身体をひねらせたところであった。
「わ、わりぃ!わざとじゃないんだ」
「んん?えっと、うん……足とか、大丈夫?」
呆然とした表情のアニヨンを不審に思いながらも正直に答える
「えっ?いや、別になんとも」
「本当!?無理してない?」
バタバタと、立ち上がる暇も惜しむ様に膝立ちで近付いたアニヨンが、立ったままのカタールに抱き付いた。しっかりと確かめるように、槍に貫かれた筈の足を固く抱き締めた。
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