02.古き学び舎で何を見つける?

 僕たちは新聞部を後にし、渡り廊下を歩いていた。

 ふと横の窓を見る。

 外には茜色の夕日が差していた。

 

 もうこんな時間か。


 相変わらずズンズンと先行している姫路に言葉を投げかける。


 「それで?さっき、安野さんから貰っていた情報は何なんだ?それに依頼者を調べた理由は?」


 かねてからの疑問だ。


 「一つ目、貰った情報は現場で話そう。二つ目、調べた理由は今お答えしよう」


 彼女は歩調を緩め、質問に答える。


 「なんで滝口さんについて調べたんだ?」


 改めて聞く。


 「君も気付いていただろうが、妙に相談慣れしていた。入室から座るまでの動作、話を切り出す時のハッキリとした口調。おそらくだがカウンセリングの経験があるのだろう」


 「待ってくれ。それでどうして調べることになるんだ?それに、カウンセリングを受けた証拠だってほぼ無いようなものじゃないか」


 困惑する僕の声を聞いて、姫路はこちらを向き微笑む。

 まるで癇癪持ちの子供や老人を落ち着かせるときに見せる笑顔だ。

 僕はこれ以上興奮したら負けな気がして、努めて冷静になるように心を抑える。


 「カウンセリングに関してはそこまで重要じゃない。ただ、彼の立ち振る舞いが気になってね」


 「立ち振る舞い?」


 頷く姫路。


 「転校理由は家庭の都合だって考えられる。カウンセリング経験だって、かのいじめ事件とは関係ないかもしれない。だが気になったのはそういう平凡なことじゃない」


 女史はさらに続ける。


 「矛盾しているんだ」


 矛盾?


 「何が?という顔をしているな。彼の相談時の様子を思い出してみてくれ」


 姫路はそう言ってヒントを出してくる。

 

 「えっと」


 どんな様子だっただろう。

 必死に頭を回転させる。


 気弱そうで……。

 意外とハッキリした口調で……。

 制服が新しくて……。


 「だめだ、わからん」


 ギブアップ宣言をする。

 僕のそんな様子を見て、姫路は、やれやれと首を振る。


 「私が彼に『転校生か?』と聞いた時だ。彼は腕組みをした」


 「それが何を意味するんだ?」


 「心理学的に座っている時の腕組みは警戒、退屈などを意味する。それに彼の目は見るからに動揺していた。君の位置からは見えなかっただろうがね」


 つまり依頼者滝口は……。


 「警戒した?」


 僕の発言に姫路はニヤリとする。


 「そうだ。おかしいと思わないか?極めてオープンな態度で相談に来ておきながら、こちらの質問には警戒する」


 「でも、普通は変な質問を唐突にされたら警戒しないか?僕だってトイレに寄ったことを当てられたら警戒してるだろうし」


 僕は反論する。

 誰だって姫路の突拍子もない行動にあったら警戒するだろう。


 「甘いな」


 姫路は僕の発言を一言で切り捨てる。


 「私がそんなことを想定しないとでも?いいか、ワタヌキくん。警戒にだって段階があるのだよ。君の場合はそんなに高い警戒度ではなかった。人生がかかってたりするレベルではない。それはバレても大したことにならないと無意識にでも思っているからだ」


 なるほど。

 確かに僕は姫路という人物をある程度は知っているからか、推理をするのが好きなのであって言いふらすことはないだろう、と安心していた。


 「逆に依頼者の場合は尋常でないレベルで警戒のサインを見せた。まるで自分の根源すらさらけ出されるのではないか、といった様子でね」


 一瞬だけだったがね、姫路はそう付け足すと向きを変え、歩調をさっきの速さに戻す。


 待ってくれ。


 僕はドンドン遠くなっていく背中に声をかける。

 

 「つまりどういうことなんだ?」


 姫路はピタリと足を止める。

 肩越しに振り返る。


 「彼は何かを隠している」


 ――それもかなり重要なことを。


 姫路はそう言うと、歩みを再開する。

 相変わらずの速い歩調に僕は急いでついていく。




  ※




 僕たちはとある空き教室の前まで来ていた。

 

 「ここが現場か……」


 まるで数十年前からタイムスリップにしてきたかのような木造様式だ。

 黒板側の入口は扉が外され、机やテープで簡易的なバリケードにされている。

 イタズラに侵入されるのを防ぐためだろう。 

 中を覗こうとするが、バリケードが邪魔で教卓しか見ることができない。

 

 「こんなに古い教室がまだ残っていたんだな」


 「聞いたところによると、およそ六十年前からのものらしい」


 「なんで前の扉は外されているんだ?」


 「昨日の騒ぎを聞きつけた教師たちが、中を確認するために、無理矢理こじ開けたのだろうさ」


 横にいた姫路が答える。


 「保存状態はいいんだな」


 壁を見る。

 数十年前のものとなれば大きな劣化があると思ったが、そこには軽いシミや細かい傷しかない。

 入口から外され、立て掛けられた扉もガラス部分はすれているが、それ以外はキレイだ。


 「入るとするか」


 姫路が切り出す。

 

 「でも、どうやって?」


 後ろの扉は外されていないが鍵が掛かっている。

 外された方は、簡易的なバリケードとして机を重ねた結果、百五十センチはありそうな防壁ができている。

 机の脚部分が邪魔していて飛び越えるのは難しい。

 かと言って机をどかそうにもテープで固定されていて外すにはなかなかの手間だ。

 それに元に戻すのも大変だ。


 「簡単なことだ。君が行くんだ」


 「どこから?」


 「そこだ」


 姫路はそういってバリケードの敷かれた入口を指差す。

 バリケードと入口のふちの上部分には数十センチもの隙間しかなく、人は通れそうだが、かなり無理のある姿勢を要求する幅だ。


 「無茶を言わないでくれ」


 「無茶ではないだろう。ワタヌキくん、君なら出来ると知っているから、私は今頼んだんだ」


 彼女は真剣な目でこちらを見る。

 青い瞳がいつもより濃く感じる。

 

 「わかったよ」


 僕は両手をあげる。

 参ったのポーズだ。


 「具体的には何をすればいい?」


 姫路の計画を聞く。


 「まず、そこのバリケードの上の隙間を通ってもらう。その後、内側に入ったら教室の後ろの方に回り、扉の鍵を開けてくれ」


 「入り方は?」


 「君に任せよう」


 「失敗しても笑わないでくれよ?これは本来、こういうことをするためのものじゃないんだからな」


 「笑うものか。失敗することなんてないって信じているからな」


 「姫路……」


 そう言われてしまっては、こちらも本気で頑張るしかない。

 僕は意を決しバリケードに近づく。


 「ふちを掴むしかないか……」


 呟き、ふちに手を伸ばす。

 少し外側に出っ張っているので、そこを掴み、懸垂の要領で体を上げる。

 

 「ぐっ!」


 指にかかる重さに声が出る。

 筋肉や骨が若干の悲鳴をあげるが無視をした。

 その痛みに耐えながら、ふちと自分のへそが同じ高さになるあたりまで体を上げ切る。


 もう少しだ。


 心の中で自分を鼓舞し、動作を続ける。

 体を上げ切った後は、膝を曲げる。

 ふちがミシミシと音を上げ始める。

 その音に焦りを感じつつも、足を入口とは反対の方向に伸ばす。

 ミシリ、とさっきよりも大きい音が響くが気にしない。

 指と腕もおかしくなりそうなほど痛い。

 

 「ふっ!」


 後ろまで伸ばした足を一気に振り子のように前に押し出した。

 そして、瞬時に膝を曲げ、足を隙間に通す。

 勢いに任せ、手を放す。

 遠心力と強引な筋肉による力で浮遊感を味わう。

 そろそろか、と受け身の姿勢の準備をする。


 ドシン!


 仰向けに落ちた体に衝撃を感じるが、受け身によってそれらを逃がし、ダメージを軽減する。 

 体に異常がないか確認をするためにゆっくりと立ち上がる。


 「どこにも異常はないか……」


 安心からか自然とそんな声が出た。

 一応のストレッチをしながら室内を見回す。

 机や椅子は乱雑に置かれ、古臭い窓からは夕日が射していた。

 その風景はテレビなどで出てくる、懐かしの校舎そのまんまだった。


 これがノスタルジアか。


 ボーっと考える。


 「大丈夫か、ワタヌキくん!」


 心配するような声が響き、ハッとする。

 いけない。風景に見惚れて忘れるところだった。

 僕は急いで教室の後ろに向かう。

 ガチャリ、と音を鳴らしながら施錠を解き扉をスライドさせる。


 「なんとかなった」


 開けた先にいた姫路に言う。


 「本当に大丈夫なんだろうな?」


 姫路が声のトーンをいつもより低くして聞いてくる。

 青い瞳が心なしか暗く感じる。

 姫路が僕を信じて行かせたのだ。

 怪我なんてするわけがない。


 「大丈夫だって。この通り体に異常はないよ」


 ほら、といって両手を高く上げる。


 「流石、知的ゴリラな見た目なだけはある」


 僕のおちゃらけたような様子に、彼女は安心したのか、先ほどまでの心配をかき消すようにからかってくる。

 渾身のギャグも今なら笑ってくれるかもしれない。


 「伊達に鍛えてませんから」


 「ふっ」


 僕の冗談を鼻で笑うと、彼女は入口に立つ僕の体を押しのけ教室内に入る。

 いつもの姫路に戻ったのは良しとするべきなのだろうか。

 僕はそんな風に思いながら彼女の後に続く。


 「足跡の解析は難しいか……」


 教室の中央あたりで姫路が呟く。


 足跡?


 

 僕は疑問に思い床を見る。

 

 「げえ、真っ白」


 思わず声に出す。

 最初入ったときは気づかなかったが、埃が白い絨毯のように床を覆っていた。

 試しに足をどかす。

 床にはくっきりと足跡が残っていた。

 

 「最悪だ」


 姫路は苛立たしげだ。


 「どうしたんだよ」


 あまり見たことのない彼女の様子が心配になり声をかける。


 「足跡が複数で、どれが誰のものか分からなくなっている!事件の証拠があったかもしれないのに!」


 おのれ、教師ども!


 今にでも、怪獣のような暴れっぷりを披露しそうなほどに荒れている。

 落ち着かせるには、知識自慢をさせるのが一番だ。

 何かないものだろうか。

 頭を回転させる。

 瞬間、脳裏に何かが引っかかる。


 ……一つあった。


 前から気になっていたことだ。


 「なあ」


 「うん?」


 「なんで教師たちはあんなにも必死に、この空き教室で起きたことはイタズラだ、って強調していたんだ?」


 今朝の全校朝礼のことを思い出す。

 生活指導の教師は口癖のようにイタズラであると言っていた。

 まるで人が起こしたことであって欲しいかのようにだ。


 「簡単なことだ」


 いつの間にか落ち着いていた姫路は笑う。


 「この教室が封鎖された理由、知っているかい?」


 「いいや」


 封鎖された理由?

 普通に経年劣化によるものじゃないのか?

 

 「この教室は古いながらも十年前までは使われていた。中がぼろく感じるのは人が使わなくなったからだ」


 「じゃあ、何で使われなくなったんだ?」


 「事件だよ」


 「事件?」


 姫路は気味の悪い笑みを顔に張り付け、こちらにゆったりと近寄ってくる。

 木の床が軋む音が響く。

 空が暗くなってきているからか、窓から射す日は弱く、それゆえに姫路に影を多く作る。

 歩み寄ってくる人型の影から覗く二つの青が気味の悪さを増長させる。

 

 「っ」


 ホラー映画のような不気味な演出に、声が出かけるがなんとか抑える。

 姫路が目の前まで迫る。

 影が晴れ、いつもの彼女が現れた。


 「い、今のは何だ?」


 「人影の正体さ」


 そんなことよりも、ほら。


 彼女はそう言ってファイルを差し出す。

 釈然としないものを感じながらも受け取る。


 「これはさっきの」


 新聞部で安野からもらっていたファイルだ。

 

 「中を見てみてくれ」


 言われたとおりに見る。

 中には新聞記事のコピーや安野がまとめたと思われる書類が挟まっていた。


 「教師が自殺?……人影を目撃?……相次ぐ怪現象に教室を閉鎖?」


 目を通せば通すほど出てくる不穏な言葉に、内容をつい口に出して読んでしまう。

 助けを求めるように姫路に視線をよこす。


 「なんだこれは?」


 「十年前に実際にここであった事件だよ」


 あそこを見てみろ。


 彼女はそう言い、バリケード手前の天井を指差す。

 そこには穴があった。

 大きさはこぶし大で、何かが刺さっていた跡らしい。


 「件の教師はあそこに大きな鉄の棒を刺し、そこに縄を結び首を吊っていた。」


 姫路が解説をする。


 「なるほど……」


 頭が痛くなってきた。

 内容をまとめるのならこうだ。

 とある男性教師が、当時、講義室だったこの教室で不自然な自殺を遂げる。

 目撃者はその当時、彼が担任をしていたクラスの生徒。

 忘れ物を取りに来た生徒は、教室の扉のガラスに不審な人影が映っているのを発見。

 クラスメイトのイタズラだと思い、扉を勢いよく開けると、そこには首を吊った担任。

 通報を受けた警察がすぐに駆け付け、遺体はその日のうちに撤去された。

 だが、問題はその後だ。

 そのまま幾何年か経ち、この教室で事件があったことなど忘れられていくだろう、と学校側は思った。

 事件が起きたのは彼が死んでからひと月後のことだ。

 放課後、たまたま教室の前を通りかかった教師がいた。

 扉のガラス部分に違和感を覚える。

 人影が映っていたのだ。

 イタズラか、そう思い開けると誰もいない。

 気味の悪い光景にその教師は逃げるように職員室に向かい、同僚にそのことを話した。

 

 ただの見間違いですよ。


 その一言で片づけられた。

 気のせいか、と安心し、その日は終わったが……。


 だが、次の日、その次の日、そのまた次の日に人影の目撃情報が、生徒、教師、用務員と立場に関係なく寄せられた。

 最終的には目撃した者達によるボイコットも起きかけた。

 事態を重く見た教師たちは教室の本格的な閉鎖を決意。

 講義室として使われていた他の教室も資料室とすることで、人が寄り付く機会自体を減らし、騒動の鎮静化をはかった。


 「そして事件は風化したと思われていた」


 姫路が続ける。


 「だが昨日、狐火というおまけ付きで人影の目撃事件が起きた。教師も何人かは入れ替わっていても、上層部は当時のままだ。人影事件のことは記憶に新しい。だから、十年前のような騒動を避けたいがゆえに、不自然な語り口になった」


 つまりここは。


 「訳アリということか」


 ニヤリ、とする姫路。

 イタズラ成功といった顔をしている。


 わざと隠していたのか……。


 ガックリとうなだれる。

 女史はたまに子供っぽいことをする。

 大体が質の悪いものなので、こちらは胃が痛くなるばかりだ。


 「僕が怖いもの苦手だったらどうするんだよ。この場で叫んでたぞ」


 そして、騒ぎを聞きつけた教師が来て、教育指導コースだ。


 「その時はその時だ」


 そんな適当な……。


 「そんなことより、こっちに来てくれ」


 いつの間にか、教室の真ん中から教卓の方に移動している姫路が言う。


 「そんなことって……」


 そう呟き、近寄る。

 

 「ここに丸い跡がある。灯りか何かを置いていたんだろう」


 姫路は教卓の上を指す。 

 埃を被っているはずの、その場所は一か所だけ、円筒のようなものを置いていたかのようにキレイだ。

 

 「じゃあ、この騒動は幽霊ではなく、人が起こしたということか?」


 「当たり前じゃないか」


 僕の疑問をあっさり切り捨てると、横のバリケードの方を向いて何やら検証をしだす。


 「あんまり近づくと、誰かに見られるぞ!」


 警告をする。

 大丈夫だ、と雑な返事をされる。

 彼女はどうやら検証に熱中らしい。


 僕でも何か見つけられないだろうか。


 そう思い、教卓の裏に回る。

 黒板はチョークの跡が残ったままだ。

 教卓の上には相変わらず丸い跡がある。

 一生懸命観察をするが全くもって証拠と思わしきものを発見できない。

 

 「はぁ」


 不甲斐なさに溜息が出る。


 僕がここにいても意味はないだろう。

 

 そう考え、夕日の見える窓際に向かって歩く。


 その時だ。


 「あれ?」


 床の感触に違和感を覚える。

 まるで、そこに空洞があるような……。


 「姫路」


 呼びかけるが返事がない。

 彼女は腕を組んで目を閉じ、考え込んでいた。

 多分、聞こえていない。

 仕様がない、一人でなんとかするしかないみたいだ。

 そう思い、しゃがむ。

 違和感のあった床を一通り観察する。

 すると、意図的に削ったような穴を見つける。

 人差し指ぐらいなら入りそうな大きさだ。

 

 「よっと」


 汚れるのではないか、とためらうが、それだと事態が動かないので顔をしかめながら指を突っ込む。

 特に何も起きない。

 試しに指を中で動かす。

 床が少し浮く。

 

 「蓋か?」


 そう呟き、思いっきり指に力を込めて床の一部を引っぺがすように持ち上げる。

 その蓋を、どかした先には、空洞があった。

 二十センチ四方ほどの広さに、深さはおおよそ十五センチほどだろうか。

 底に何かがあるのが見える。

 

 「なんだろうな?」


 「うおっ!」


 思わず飛びのく。

 姫路が耳元で囁いたからだ。

 僕は唐突に来た強い刺激に奇声を発する。


 「ビックリしたじゃないか」

  

 「わざとじゃない」


 「わざとじゃないって、絶対に――」


 「誰かいるのか!」


 体が石のように固まる。

 教室の外からだ。

 

 見つかったらまずい!


 その思考が頭を駆け巡る。

 この位置だと覗けば見えてしまう。

 急いで隠れなければ。

 向かい側の姫路を見る。

 さっきの声が聞こえてなかったかのように、空洞の中に手を突っ込んでいた。

 

 何をしているんだ!


 僕はとっさに姫路を抱え、教卓の窓側に隠れる。

 ここならバリケードから覗いても見えないはずだ。

 

 「誰かいるなら出てきなさい」


 声が響く。

 この声は山内先生だ。

 そういえば、向かい側は社会科の資料室だった。

 おそらく、資料室に寄ったときに物音を聞きつけたのだろう。

 バクバクと心臓が鳴る。

 どうか見つかりませんように、と祈る。

 

 何秒経っただろうか。

 もしかしたら数十秒かもしれない。

 しばらくすると、遠ざかる足音が聞こえる。

 はぁ、と安堵の息を漏らす。


 「セクハラだ」


 懐から姫路の声が聞こえる。

 

 懐?


 疑問に思い、自分が抱きかかえているものを確認する。

 そこには、恥ずかし気に頬を赤くした姫路がいた。

 

 「ご、ごめん!」


 すぐに開放する。


 こちらの顔も赤くなるのを感じる。

 顔でヤカンがわきそうなほど熱くなる。

 

 「だ、大丈夫だ」


 しおらしい反応を返してくる姫路。

 いつもよりも少女らしい感じに頭が真っ白になる。


 「そ、その手に持ってるのは何だい?」


 誤魔化すように聞く。


 「セクハラだ」


 「なんでだよ」


 ツッコミを入れる。

 すると彼女は、手に持った物を差し出してきた。

 まじまじと見る。


 

 それは成人向け雑誌だった――

 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

姫路女史の日常譚 萬 幸 @Aristotle

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ