第6話 業病のリンクス part【3】
西エリア 獣人国家ゴルディオン 首都ラ・シンバ郊外 ピジョンのアトリエ
ヘラに会う前日のこと。ピジョンから呼び出しを受けた俺は彼のアトリエを訪れていた。
「俺が銃?」
事の発端は、俺がアトリエで彼の作品の一部を眺めていたこと。散々デッドマンからピジョンの技術を語られていたのもあり、彼の銃に興味が湧いていた。じっくり観察していたところ新しい試作品のモニターをやらないかと誘われていた。
「君は弓使いなんだろう? なら銃にも適用できる遠距離スキルが充実しているんじゃないか?」
「うーん…どうかな。俺は錬金術師から始めて毒系統に特化させちゃったからなぁ…あんまり弓使いの基礎的な強化スキルとか攻撃スキルは持ってないんだよね」
今のスキル構成ではマナロによる射手座の砲撃以外は火力不足が否めない。クラスも巧毒者から変えてない。しかし、銃を手にしても武器に強力なスキルを付けない限り弓の下位互換に成りかねない。
だから、攻略には使えないんじゃないかと考えていた。
「でも一丁くらいはピジョンの銃を持ってみたいけどね。面白そうだし」
この時の俺は、目の前の職人が銃造りにおける化物ということをまだ理解していなかった。
「そうか! なら早速、君の好きな銃は何だ? 好きな距離は? 好きな重さ…それから……」
「ち、ちょっと待って…本気で造るの……」
その2時間後、質問を終えた彼が造り手渡されたのが黒い散弾銃だった。
「君の好みからフルオートショットガンをベースに造るのが良いと判断した。ここはゲームだし、魔法もあるから無茶でもどんとこいだ」
「あ、うん」
「見た目は君のイメージを元に水平二連式で作製した。折角だから引き金を引いたら弾も二発出るようにしよう。フルオートと水平二連は弾丸装填で矛盾するが…まぁここは魔法とスキルで何とかしよう。これはグレイの銃だ。グレイが使いにくかったら意味が無い」
「どうも…」
よく分からなくなってきたが多分強いんだろう。
「待てよ…弾丸の種類も増やしたいな。ジョブ変えてから選択肢が広がって存在しない弾も装填できそうなんだ……って、あぁくそっ! 問題はグレイがどうやって簡単に弾丸を装填出来るかだった。そんなに沢山のスキルは積めないから種類をある程度絞って…音声認識なら…そうするとスペックが…」
アトリエの窓から来た時には頂上にあった太陽が地平線に沈むのを見た俺は尋ねた。
「これ、今日中に終わるよね?」
「大丈夫だ。明日の朝には終わる」
結局、翌朝になって銃は完成した。
◇◇◇◇
山猫座に向けて放った弾丸は真っ直ぐ散らずに進んでいく。現在、装填されているのはスラグ弾。散弾銃の中で唯一の単発弾だ。それが引き金を引いている間、常に発射され続ける。
「ダミア行けッ!!」
合図と同時にダミアが地面を蹴って路地へと向かっていく。先程、蹴られた際に壁に激突した山猫座はまた少しサイズが縮んでいた。弾丸が発射される前は地に伏せていた山猫座も発砲音で反射的に右へと跳ぶ。
流石に速い。いや速すぎる。弾速より更に速い移動速度を出している。
俺が放った弾は一発も当たらずに地面に吸収されていく。
山猫座は弾丸の方など目もくれず明確に敵を妨害してきた俺に変更した。そちらへ向かっていくダミアは完全に無視している。
「ち、ちょっと大丈夫なの!?」
背後で魔法を構えているアイシャの言葉に俺は応える。
「大丈夫。アレは誘導用だから」
なんせ散弾銃だ。石化した奴らがいる中でぶっ放したら皆壊れてしまうし、ダミアに当たる。そうしない為に、散らず、距離も比較的長いこの弾を牽制用に使いたかった。
それに本命は…散弾にしては散りすぎる。
「『弾丸装填:
山猫座は爪を妖しく光らせ四肢に力を込めて勢いよく飛び込んでくる。
横目でダミアは既に月下と大佐を抱えて屋根上に飛んだのを確認し、銃を強く握りしめた俺は引き金を引いた。
「ギニァァ!!!!」
初めに聞こえてきたのは山猫座の悲鳴に似た叫び声。加えて俺の眼前を覆い尽くす弾丸の嵐。弾丸は壁で跳弾を発生し、俺やアイシャに当たっても跳弾し、弾丸同士でも跳弾する。発射後に126分割された散弾は互いにぶつかり跳弾となり、俺と山猫座の間に跳弾で出来た壁を作りあげる。
天帝とは指定した敵に当たるまで無限に続く跳弾の超飽和攻撃。
そこへ飛び込んできた山猫座は飛んで火に入る夏の虫。
「全弾命中する前にその魔法撃ってよ? 俺は火力に自身がないんでね」
「え、あ、うん…」
弾倉に装填された15発全てが山猫座に命中するまで跳弾は続く。
実際は路地からどこかへ飛んでいく弾もあるが、誰に当たっても跳弾するだけなので被害は無いだろう。
弾丸の半分が命中した頃、俺の横にダミアが走ってくる。
「避難終了」
「よし、撃て!!」
現在、山猫座は弾丸の嵐により空中で静止したような状態に縛り付けられている。ダメージは大して入っているわけではないが、過剰なまでのヒット数の暴力で擬似的な怯みを起こして動けない。
「いくわよ! 英雄魔法『フォールンマーズ』!」
アイシャが杖を振り下ろすと、頭上に浮かんでいた巨大な炎の塊が降りていき山猫座の周囲ごと呑み込んでいく。そして、地面に着弾すると急速に膨れ上がり火柱を立ち上げて周囲を巻き込む竜巻を作り出した。
「これで倒れてくれたら本当に楽なんだけどね…」
アイシャはそう言って山猫座のステータスを見る。だが敵のHPは半分残っていた。頭を抱えていると、銀色のローブの人物に声をかけられる。
「ほら一旦逃げるんでしょ?」
「え、えぇ…行きましょうシオン」
「うん…」
アイシャは救援に来た銀色の人物に何か引っ掛かるものを感じつつ、その場は逃げることを選んで背を向ける。
逃げる際に俺は振り返って山猫座のいる場所を眺めていた。
「アレを倒すにはなりふり構っている場合じゃないな」
「グレイさん…」
既にアイシャ達は路地を出ている。仮にマナロとの会話が聞こえても独り言にしか思われないだろう。
「堪えてくれてありがとう」
「残って戦った所で、グレイさんが先に石化されて私もポラリスに戻っちゃうと思います。想像以上に危険ですね」
「そうだね。とりあえず、ダミア達と合流しよう。多分拠点が何か用意している筈だ」
早速、ダミアから集合場所の位置情報が送られてくる。銃を仕舞いその場所へと向かって駆け出していた。
「ニニニ、ニャニャニャ…」
アイシャの落とした業火の中から山猫座が這い出て来た時、路地には誰もいなくなっていた。山猫座は辺りを見渡して近くに誰も居ないことを把握すると、その場で床に伏せて丸まり回復し始めた。
名前:業病の山猫座 《第一形態》
レベル:300
HP:16668254/28282828
MP:210000/282828
状態:回復中
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます