第18話 炎獄のリユニオン part【4】
「ごのっ…ごのごのごの!!!!」
脚を切断されてバランスを崩したエンヴィア目掛けてブロンクスは握りしめた刀を振り上げて止めを刺しに行く。彼の見つめる先には驚愕と絶望に染まったエンヴィアの顔が映る。それでも刀を振り下ろすのに躊躇いは無い。そういう葛藤を抱く時期はとうの昔に過ぎ去った。
「アンタなんかにっ!!」
「黙って消え……何だ?」
もう数秒あれば刀が届くというところで、彼女の身体に見慣れぬ蔦が絡みつく。
絡みついた蔦は何重にも重なり合わせて縄となり、エンヴィアの身体をまるでヨーヨーのような軌道でブロンクスの攻撃から救い出し、森の奥へと引っ張っていった。
「簡単にはいかないもんだ…あれで死んでくれれば楽なのに」
ブロンクスは自分の後方に構えていた射手に合図を送り森の奥へと追いかける。
なお、生き延びたエンヴィアは木の枝に吊るされていた。側には蔦を伸ばした張本人が茂みの中から現れる。白いダッフルコートから白い肌を見せる少年。少年の着ているコートの袖からは青緑色の植物の蔦が伸びている。蒼い狩人と同じようにエンヴィアの琴座で呼ばれたモンスターの一人だった。
「ハァハァ…アンタ、遅いんだけど」
エンヴィアに睨みつけられた白い少年は指を鳴らして彼女を蔦から解放した。落下して地面に転がる自分の主を蔑むように見下す。
「少しは反撃したら? もしかしてその余裕も無い程ヤバいの?」
「うっさい!切り替えるわよ!」
「ほら、追撃来るよ」
白い少年が顎で示す先には鬼の形相で此方へと飛びかかるブロンクスの姿が見えた。
「それじゃあ僕は他の人の相手をするから。脚、これで治しときなよ」
そう言って青緑色の液体が入った瓶を渡した白い少年はゆらゆら霧のように姿を霞ませると、あっという間にその場から消えてしまった。
「あぁくそっ! やってやるわよ! 一度殺した奴らに殺されて…たまるもんですか!」
エンヴィアは受け取った瓶の蓋を開けて中身を切断された脚に向けてぶち撒ける。すると、切られた先から太い緑色の蔦が生えると何重にも束ねられて植物の義足が出来上がる。
「アタシにこんな…こんな屈辱…クソがっ」
何度か指先を折り曲げて感触を確かめた後、立ち上がったエンヴィアにブロンクスが迫り来る。
「はぁぁぁ!!」
「アンタもしつこいのよっ!!」
迎え撃つエンヴィアは銀で出来た剣が呼び出して握り締める。青白い輝きを放つ剣には色とりどりの宝石が装飾されている。『
鋼と銀の刃による打ち合いは森の中で火花が散らす。義足を一眼見たブロンクスは素早く動き回り、立ち位置を頻繁に変えて打ち合っていた。
そうすることで義足の足捌きに慣れていないエンヴィアの隙を生まれ始める。さらに焦りと苛立ちでエンヴィアの視界は目の前のブロンクスへと絞られていった。
つまり、射手や魔法使い系統の人間による遠距離狙撃が有効打もしくは致命打として通る局面となる。
「うん、ここしかない…」
俺は毒矢生成のスキルで作り出した矢の先に取り出したナイフをくくりつけて放った。その矢は森の中を真っ直ぐ進み、爆発に巻き込まれた蒼い狩人とさそり座を超えてブロンクスとエンヴィアの元まで辿り着く。
死角から放たれた一撃に視野の狭くなった状態のエンヴィアが気づく筈もなく、その矢は彼女の背中、心臓近くに突き刺さる。
「ぐっ…」
まずはヒュドラ印の毒にさせ、鈍い感触でエンヴィアが一瞬でもひるめば儲け物。その隙をブロンクスは逃さない。それは彼女も分かっているのか、刺された箇所の確認もせずにブロンクスへの攻撃をやめなかった。
「くそっ、くそっ!!」
ブロンクスが振り下ろした刀を両手で構えた剣で迎え撃つ。力勝負となれば天秤座の能力でステータスは五分五分。押し切ることも押し返すことも出来ない。
「アンタたちなんかにここまでっ!!…ここまで……」
俺は森の中を駆け抜け、二人の元へと走っていた。静かに、されど手早く茂みをかき分け、手には借り物の鋼の
「獲った…」
「ここまで追い詰められるなんて……はぁ、最悪よ」
俺が振り下ろした両刃剣の刀身がエンヴィアの頭に届くという所で、彼女の銀の剣に変化が現れる。
「『宝石収束』……直列バージョン」
装飾されていたルビーやサファイアのような宝石達が小刻みに振動し、刀身の上で縦一直線に並び立つ。一番上に移動した黄色い宝石のアンバーが光り輝くと上から順番に宝石が黄色く輝き出す。
何かが来る。優勢だった筈の俺達二人は直感でとてつもない危機を感じ取った。
ブロンクスの方が先に気づいていた。彼だけなら地に足ついた状態なので回避が間に合っただろう。けれど、俺の方は空中に浮いた状態で引力で引っ張ってもらわない限り、後ろへ跳ぶことは出来ない。
「間に合っ……」
「遅ぇよ、『アンバーアクセル』!」
まさに光の速度。そう形容するしかないぐらい、彼女の回転斬りは速すぎた。目で追うのは不可能で、先読みしようにも身体が追いつかない。スキルによる超加速は五分五分のステータス条件だからこそ回避不可能の一撃へと変わっていた。
気がつけば俺は地面に仰向けで転がっていた。
「ねぇグレイ、同じスペックのプレイヤーが戦ったら何で勝敗が決まると思う?」
此方を見下ろすエンヴィアが問いかけてくる。
あぁ、右手の感覚が無い。
ふと目線を右側に向けると手首から先がデータと化していた。
「答えは簡単、武器の質だよ。たかたが
ブロンクスは何とか生きているみたいだが、手にしていた刀が折れている。さらに鎧には斜めに斬られた痕が残っている。
エンヴィアは俺の喉元に束ねの剣を突き付ける。
「アンタの幸運もここまでだ。いやな奴らの同窓会までセッティングしてくれた件についてたっぷり償ってもらうよ!」
憎たらしい笑みを浮かべたエンヴィアが俺の喉に剣を突き刺しにくる。ブロンクスの場所からでは間に合わない。周りの敵と味方は全員この後の行動に干渉出来ない。無論、それは側で見ていたヒューガにも。彼には参加しないで欲しいと頼んでいた。
何故なら、エンヴィアを確実に倒す為には彼女の警戒をまず解き、俺が動けない状況を作らなければならなかった。
必殺のカウンターを当てる布石は既に終えている。
「ポラリスχ『完全記憶再生』…
エンヴィアの胸に刺さっていたナイフ、ポラリスχが光り出す。
剣を手にしていたエンヴィアの右腕は白銀の装甲を纏った華奢な少女の左手に掴まれる。
余った右腕は白銀の大弓へと変形し、既に矢を番えて弦を目一杯引き絞られている。
「はぇ、アンタまで…?うそ、嘘、ウソ……」
殺した筈の人間に追い詰められて、それを本気でひっくり返したのに、今度は格下で死んだ筈の人間が自分の頭に白銀の矢を突きつけている。動揺かはたまた俺がヒュドラの毒に混ぜた痺れ毒が効いてきたのか、植物の義足が震えていた。
「英雄絶技『慟哭の
鼓膜が破れそうなぐらい音と身体が吹き飛ばされる程の衝撃が俺を襲う。ブロンクスやヒューガも周りの木を支えに何とか耐え忍ぶ。
そして、直撃したエンヴィアは上半身が消し炭になり緑色の植物義足と太腿までがその場に残されていた。
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