第17話 炎獄のリユニオン part【3】
開戦と同時にブロンクスがエンヴィアに向かって弾丸のように飛び込んでいく。流石のエンヴィアも動揺したのか反応が遅れた。ステータスは五分五分。ならば懐に入り込んだ接近戦は先に斬りかかった方が速い。
「ぐっ…!」
刀を持ったブロンクスの狙いはエンヴィアの右脚。最短距離で斬るため低い態勢から放たれた横一閃は太腿の部分へと吸い込まれていく。
「…おっと、そっちか!」
エンヴィアに触れるという直前の所で刀の向きを逆に変えたブロンクスは自分の首元の部分に置いた。
刹那、彼の首元で鋼鉄がかち合い火花が散る。
「危ねぇ危ね…わぁお、棒でも槍でもなくてソレかよ」
刀身とぶつかったのは、深い海の色をした蒼い銃。その銃口が向けられたまま槍のように突きつけられている。
「南無三、ふんっ!!」
ブロンクスは刀を左手一本で持ち、右腕で銃を払い除けるように振るう。同時に引き金が引かれて銃声が鳴った。弾丸はブロンクスのうなじを擦り森の中へと消えていく。
「あの蒼いヒト型モンスター、エンヴィアの切り札だ」
「私達も知ってる。幽霊司書なんてあの狩人に殺されてる」
銃の持ち手は蒼の狩人帽を深く被ったヒトらしき生物だった。以前、マナロと共にエンヴィアと戦った際、現れた境界の琴座の召喚モンスター。強さはヒト型で軽快に動く分、獅子座やさそり座よりもタチが悪い。
それは歴戦の戦士にも伝わったようで、ブロンクスは一回の衝突から蒼い狩人への警戒心を高め、背後に居るはずの彼に叫んだ。
「レッドラムとグレイ、追撃!」
「既にしている」
レッドラムは光の玉を作り出すと、真っ赤なギターでそれを上空へ打ち上げた。
ブロンクス、エンヴィア、蒼い狩人の三人が居る場所に向かって無数の光弾が雨のように降り注ぐ。
「ラムめ、味方もお構い無しか」
「おっと、逃げんな魔獣女帝。おれと殺ろうや」
後方へと跳んで爆撃地帯から逃げるエンヴィアと追うブロンクス。
それを更に追いかけようとする狩人だったが、直ぐに脚を止める。
「流石、勘の良いモンスターなことで…」
彼の一歩前に雷の矢がレーザーのように通り過ぎる。それは俺が偏差撃ちで放ったスキル『ボルテクスレイ』の弾痕である。
「いやいや足止めナイスだ、グレイ」
再び光弾を空へ打ち上げたレッドラムが俺の横にやってくる。脚を止めたことで蒼い狩人はレッドラムの放った光弾の雨に回避を選択を取れず、受けに回る。
「グレイ、上と横で挟撃したい。扇撃ちしてくれ」
「了解、20ぐらいでいくぞ!」
俺は可能な限り『毒矢生成』で作った矢をアンタレスに番えて放った。
その数は21本。普通の撃ち方では発射できないので、ほとんど矢の尻側を指で掴んで放った。
「我を止めるには少ないぞ、異界人よ」
そう言った狩人は両手に銃の二丁持ちに切り替える。そして、上と横に一度ずつ引き金を引いた。放たれた弾丸は上に60、横に42。全ての攻撃に弾丸を当て、二人がかりの攻撃を捌き切ると、余った弾を誘導弾のように曲げて俺達に当てにくる。
「当てられるかいグレイ?」
「無理言うな、避けろっ!」
幸い、場所は森の中なので木を壁代わりにして反撃から回避する。
しかし、二度目の攻撃を行うために木の裏から出てきた時には、蒼い狩人は俺達に背を向けてエンヴィアの後を追っていた。
「一対二で足止めより主人の援護を選ぶか…頭良いね、彼」
「褒めてないで追うぞ。向こうが一枚切り札を使うなら、こっちも使う」
俺は外套の中に手を入れて胸元に仕舞っていた一振りのナイフを取り出した。
◇◇◇◇
一方、ブロンクスに追われるエンヴィアはギリギリで爆撃地帯から退避し、追撃を紙一重の所で避けながら逃げていた。
「ほらほら、さっきまでの態度はどこいった? 逃げてばっかの女帝さん?」
「クソッ、アンタこっちの
エンヴィアは魔物使いクラスの系譜上、武器を取って前で戦うクラスよりもステータスがシステム的に低く設定されている。魔獣女帝という魔物使いの中では最強格の彼女だが、同格の前衛クラスと比べれば月とスッポン。同じレベルなら、まともに斬り合うことなどできない。
「避けるのはなんだかんだで上手だね」
「一々誉め方がウザいん……きゃっ!」
エンヴィアは急に脚を滑らせたかのように後ろ向きで転んでしまう。左の足首には真っ白でやや透けた華奢な手が地縛霊のように地面から生えて掴んでいる。少し離れた位置には右脚を地面に突き刺している少女が居た。
「幽霊司書っ…」
「ないすぅ!」
地面に倒れたエンヴィアの上に立ったブロンクスが刀の鋒を振り下ろす。
「もらった!」
対抗できない状態での攻撃。決まったと思われたブロンクスの刀はエンヴィアに届く前に紫紺の大鋏によって防がれる。
「げぇ、さそり座!」
「遅いのよ愚図がっ! 早く貫きなさい!!」
硬い甲殻に刀の突きを弾かれたブロンクスは、間髪入れずに放たれたさそり座の尻尾に対し、左右どちらかに跳んで回避することを選択する。
「ブロンクス、背後から蒼い狩人!」
しかし、追手を警戒していた
このままだと前後の挟撃。しかも蒼い狩人の銃撃となれば左右どちらに跳んでも追いかけてくる誘導弾だろう。
(幽霊司書に迎撃を頼むか? いや、エンヴィアを抑えてて欲しいしな…)
完全に背後に向いて跳べば銃弾に対応できても、エンヴィアの行動は牽制できない。スキルの使用すら頭から抜けた脆いエンヴィアは今しかありえない。
悩む時間すら無い状況でブロンクスが選んだのは…。
「……決めた。後はラムに任せて一撃入れにいく」
ブロンクスが選んだのは防御を捨てた捨て身の一撃だった。
それを察した幽霊司書は、エンヴィアから離す予定だった右手に力を入れ直し、左腕も地面に突き刺した。すると、左手もエンヴィアの左足首を掴んだ。
彼女は特殊なクエストの影響で幽体であり、離れた位置に身体の一部を転送できる。
「行け…最悪骨は拾ってあげるよ、
「水を差すようだが…この音を覚えているかい?」
突然、エンヴィア達の所へクラシックの音楽が聞こえてくる。聞き覚えのあるメロディーにエンヴィアを含めたその場の全員が、かつて言っていた真紅の殺人鬼の言葉を思い出す。
『いいかい? 音は1秒に330メートル進む。3秒あれば1Km先の敵に直撃させられる』
「
蒼い狩人、さそり座の右前脚と右後脚、エンヴィアの4箇所が同時に爆発する。
脚の爆破で態勢が傾いたさそり座の尻尾は駆け出したブロンクスとすれ違い地面に突き刺さる。
「おぉ!? さんきゅ、ラム!」
レッドラムの援護で再びブロンクスとエンヴィアは一対一の状況になる。しかも、エンヴィアは幽霊司書により脚が動かせない状態。そこに今の彼女の精神状態が組み合わさると無防備である。そんな彼女に出来ることといえば。
「ちっ! クソがぁぁ!!」
醜く叫び声をあげるだけだった。
「これは、
再びブロンクスの放った横一閃は誰の妨害もなく、エンヴィアの両脚を纏めて斬り裂いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます