第15話 炎獄のリユニオン part【1】
≪エリア範囲外 絶海の孤島ケートゥス≫-魔獣女帝神殿前
年代物の石柱が並ぶ神殿の入口前、俺とヒューガはグリフォンの背から鯨座に降り立った。
すると、ここまで連れてきてくれたグリフォンの使役者が上から顔を見せ拳を突き出してくる。
「じゃあ上で待ってるから、上手くやってよ?」
「大船に乗ったつもりで待ってろ、クラリス」
ここへ連れてきてくれたのは現在エルフの森で女王をしているβテスターのクラリスだった。
俺は彼女と拳を合わせて想いに応える。そのままグリフォンは鯨座の上空へと再び飛び立っていった。
「あら、驚いた。二人ともいらっしゃーい」
背後から聞こえた不気味な声に反応し、振り向きざまに弓を引く。
明かりの無い神殿の内部からはコツコツとヒールが石畳を蹴る足音が聞こえてくる。
暗闇に向けて弓を構えていると、島の主が悠々と歩いて出てきた。
「……エンヴィア」
魔獣女帝エンヴィアは俺とヒューガを交互に見比べて急に笑い出す。
「あはっ、ホント何で生きてんの。絶対殺したと思ったのになぁ…こっちには殺害ログまで出たんだよ?」
一度ならず二度までも壊し損ねた
「さぁ? 神様に嫌われてるんじゃないか」
「えぇ…ユノちゃんもフェアじゃないなぁ。あの子は公平の立場を取らなきゃ駄目でしょうに」
文句を言いながらエンヴィアは見覚えのある古びた堅琴を呼び出す。
いつの間にか身に纏っていた装衣に髑髏が刻まれている。
「女の勝負服を二度も見れるなんてツイてるね」
前に戦った時に使っていた魔物使いの『憑依』。それも化け物三匹を呼び出した境界の琴座だ。
「先に聞いておくけど、ヒューガ君はそこの壊れた
「今日は撮影者です」
「…あぁそゆこと。コレはネタバレにちょっと刺激的かもよ」
空を見上げると既に巨大な魔法陣が描かれている。しかし、以前と琴座と異なるのは阿弥陀模様を通って多くのモンスターが顕現し始めたことだ。
ドラゴンに妖怪、悪魔に天使、まさに化け物のパレード。
「前より若干、いやかなり多くないか…?」
「好みの子に本気出すのは気に入らないけどね〜二度も仕留め損ねたのはもっと気に入らないからね」
古びた琴の弦にエンヴィアは指を掛ける。
「グレイ。もう一度聞きますが本当の本当に勝算はあるんですね?」
戦力差を冷静に測ったヒューガは俺に確認をとる。それを見ていたエンヴィアは俺のことを嘲笑うかのように語り出す。
「勝つの? グレイ君が? アタシに? 」
自信を胸に秘め沈黙のまま頷いた。
「エンヴィアの無様な散り方はちゃんと世界に放送されるから安心しな」
「…へぇ、粋がるね。半端者」
エンヴィアの目の色が変わる。掛けられた人差し指が弦を引く。そのまま弾けば一斉攻撃の指示が出てくる。
「何が殺さず。何が救うだ。結局、マナロちゃんを殺した嘘吐きの半端者が」
無言で弓矢を彼女に放つ。以前と同じく鎧に阻まれ、エンヴィアは髑髏の鎧に突き刺さった矢を片手で簡単にへし折る。
「無言の発砲…いまのは宣戦布告と受け取るよ」
首を傾げて問いかける彼女に俺は何を今更と眉を顰めた。
「一々敵に確認する暇があったらさっさと弦を弾け。そんな悠長だからお前はラムに嵌められたんだ」
その瞬間、エンヴィアは反射的に弦を弾いた。辺りには耳を抑えたくなる不協和音が鳴り響いた。
「全ての鏡面世界よ、我が命に従え!
集められた
「大体揃ってるな。獅子座なんて知ってるのより毛並みが良い」
「まぁアンタが戦った個体より強いかもね。イラつかせたお礼に未発見のモンスターも出してあげるよ」
その言葉通り、島の奥には見覚えのないモンスターが数多く現れる。彼女は本気だ。
想定通り。エンヴィアが確実に俺をバトルフィルムという記録に残る物で葬り去りたいなら、全身全霊をかけて殺しにくる。
だから、
だから、彼は協力してくれた。
だから、俺には勝算があった。
「それはありがたい。此方もお前が未発見のモンスターでお礼しよう」
「…は?」
意味が分からないと、エンヴィアが間の抜けた声をあげる。その間に俺の背後で召喚された彼が前に出てきた。
「
「アンタ誰? いつか殺したβテスターの一人?」
見覚えのない人物にエンヴィアは説明を求める。それもその筈。彼女が彼に会ったことは今の今まで無い。彼の事は聞いた限りの知識しかないのだから。
彼女の問いに答えたのは前へ出てきた男。低い声と高い声の両方が聞こえて来る神秘的な人物。黒と白の髪を半分半分に分け衣服から瞳の色まで全てがモノクロの
その天秤は何も載っていないのに何故か右側に傾いていた。
「エンヴィア。君が私を知らなくとも私は君を知っている。私は君が生涯会えず終わった敵。そして君が一番嫌っている者だ」
その言葉で考え込んだエンヴィアの脳裏に浮かび上がったのは、ありえないからと候補から外れた人物。そう、この世界で長くを生きた彼女の知識のみの人物。
「……いや、待ってよ! アンタ自分の
「主人の元に馳せ参じるのは使い魔として至極当然だろう? そうでなければ不公平だ」
動揺してる合間に俺は使い魔として契約した天秤座に指示を出す。
「
「承った。例え神であろうと守らせてみせよう」
大きく右に傾いていた天秤が一人でに動き出す。
何にせよこれが釣り合った時、
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