第32話 悲劇の射手座 part【4】
≪南エリア 魔導大国エル・イーリアス≫-首都ガブリエラ とある路地裏
地底から吐き出されるように俺は路地裏へと転移させられた。気がつけば日も落ちて夜の街。暖かい光に誘われて大通りへと歩み出す。様々な人々が行き交う街だが、不運なことに知り合いの姿は見かけない。相談もしくは協力を募るならば素直にヴァルキュリアに頼るべきか。
いやしかし、個人的にヴァルキュリアのクランメンバー、特にシオンなんかにはマナロの話をしたくない。レッドラムの件にケートゥスの件、加えてうみへび座の件に射手座を盛り込んだら彼女の頭が爆発する。
頼る相手に困って明るい路地をボーッとしながら歩いていると、背中に餅のような柔らかい感触がぶつかってくる。振り向くと、悩みの無さそうな女性が此方を伺っていた。
「お、グレイじゃん。何処行ってたの〜って酷い顔ね」
声の主は
「何でもないよ…そういえば絶壁、俺レッドラムに会った」
「ふぅん。それは災難…」
絶壁にはレッドラムがもしも俺を狙ってきた際に協力という名の護衛をしてもらう手筈だった。強がりと見栄で殺されたくも無かったので頼んでいたが、まさかのケートゥス転移後での遭遇に謎の死亡、極めつけはブロンクスの最後の言葉。悩みの種は増え続けるばかりだった。俺は頭を掻きながら彼女に視線を合わせず何処か遠くを向いて言った。
「そう、生きてたよアイツ、そして死んだよ、でもまだ生きてそう」
「何それ…日本語で喋ってくれない?」
色々あって彼女に話していなかった事をシオン達ではなく、MBOという
「あ〜実はさ———」
「ちょっと待ちなさい。ここは場所が悪いわ…向こうで聞くから」
往来の激しい街中で話す内容ではないと判断した絶壁は辺りを見回すと、建物の合間に通った暗闇への俺を押し込む。偶然にもそこは地下から戻った際に出てきた路地裏である。ボーッとしている間にぐるりと街を一周していたことにも気づいていなかった。それぐらいには頭が回っていない。絶壁は、執拗に背後を見返すと、触れていた手を離した。
「それで? レッドラムに会って奴は死んだ。それ自体は良いの。けど、まだ生きてそうってどういう事よ?」
「絶壁、シオン達からケートゥスの話は聞いた?」
「昨日の晩に一応…私も落ち込んだあの子に聞くのは若干気が引けたよ? けど、マナロちゃんも貴方も一週間消えちゃったから聞く人居なくてさ……」
「そんなに経ったのか!?」
マナロと会ってから体感では一日も経っていない。考えられるのは穴に落ちて眠っていた間だが、そうだとしたら奈落の底に建てられた博物館は地球の直径よりも深いことになる。
「そーだよ。シオンちゃん今度は二人が帰って来ないからってダメダメになるし、月下ちゃんは音信不通らしいし、クランが崩壊寸前なのよ……って、それよりラムの方でしょ!」
「あ〜うん。レッドラム、今はロイヴァスって名乗ってるんだけど、俺は死んだ所を見てないんだよ」
「なら、貴方はどうやって知ったの?」
「ケートゥスで一方的に審判役が言い切って終わり。フレンドはどうやら向こうに解除されたみたいで事実確認が出来ない」
死んだ時に誰かが近くに居た可能性はある。何故ならあの時、レッドラムはマナロと一緒に行動していた。肝心の彼女が射手座の今、聞くのは難しい状態だが。
「生きてる可能性が浮上した根拠は?」
「話ややこしくなるけど良い? それに長いよ?」
「いいから早くして。事と次第によっては緊急会議なんだから」
そこから俺はマナロに会って彼女が射手座となっていた事、攻撃された事、地下に逃げ延びた事、そして地下で会ったブロンクス達の話をした。聞いている間の絶壁は、一々驚く事なく淡々と続きを求めて耳を
「——こんな感じだったよ」
「ふぅ……ややこしくなりすぎよ。つまり、ラムはβテスター。マナロが射手座。そして同じβテスター達からラムの生存を
「簡潔にするとそう…正直、俺一人じゃ背負いこめない」
そう言って溜め息を吐くと天を仰ぐ。
「まぁ、聞いた感じラムは放置で良いんじゃない?」
「そうか? 危険人物なのは変わらないと思うけど」
「優先順位の問題よ。ラムの目的は?」
「確か…エンヴィア、ケートゥスの
ケートゥスで再会した時に彼はそう口にした。
「なるほど…なら貴方がやる事はマナロちゃんの解放ね」
「そうか……待て。解放…解放って言ったな、何かあるのか!?」
さらりと口走ったその一言に食いついた俺は彼女の肩を掴んで詰め寄った。
「アーク…それが何か覚えてる?」
「魔導書館の秘宝だろ、それを取りに行ったんじゃないか!」
「そう、そうね…中は読んだ?」
「いや、まだ……」
そう答えた俺のメニューにはアイテムが送られた事を知らせるメッセージが届く。絶壁の肩から手を離しプレゼントを確認すると、そこには『アンチ・ユートピア・クライム』と書かれた薄い本が入っていた。両手の上に呼び出した俺はパラパラとページを捲っていく。
「アンチ・ユートピア・クライム、要は
「——うっかり仲間を殺してしまった時に蘇生する方法…お気に入りのキャラが敵になった時の……解除もしくは洗脳方法!」
「運営サイドの理不尽に抗うための技が魔法スクロールとして残されてる」
今に最も適したアイテムの登場に俺は期待に胸膨らませて本を読み進めていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます