第25話 電子の姫君
「そうか。そっちは何とかなりそうなんだな?了解」
デッドマンは、メモを取りながら連絡した相手との内容をまとめていた。
「リミアのところも説得成功。これで三人からの連絡は来たから確実に二日は稼げるはずだ。後は姫から例のブツを借りて明日にでも終わらせて…」
一手一手状況を詰めに向けて進めていたデッドマンのところに着信音と共に新たな通信が届く。
「お、そっちも終わったか。どうだ、マリア?このガキの秘密は掴めそうか?」
デッドマンの通信相手は先日の一件でミヅハの異常を目撃したマリアである。
彼女は、デッドマンに頼まれて一人だけ候補者陣営ではなく、中立組織とされていた『イカロス教団』に向かっていた。
彼女のクラスが神官クラスであり聖女クラス派生であることを生かして何か情報は手に入らないか?と考えての作戦である。
デッドマンは、自身に膝枕されて寝ているミヅハの頭を傷つけないように、優しく撫でつつ結果を尋ねる。
「え、と、その…」
途切れ途切れの声に、何か言いずらそうな雰囲気。通信してきた時点で何らかの進展があったかもしくは緊急事態なのは明らかであるはずなのに、妙に黙り込むマリアに少しずつ苛立ちがたまり始めるデッドマンであった。
「早く言えよ。通信してきたってことは何かしら情報があんだろ?」
少々強引な手段だが、こうでもしないと進まない予感がしたため強気の口調で、圧をかける。
しかし、デッドマンは慌てて話そうとしたマリアを遮り、急に割り込んできた声の主に驚かされる。
「それじゃあダメよ。情報は餌にして脅すことが大事…相手に貴女が持っている情報の価値を高く誤認させる。さぁもう一回!」
通信越しに聞こえて来たのは、全く異なる女性の声。デッドマンは、この声に嫌と言うほど聞き覚えがあった。無駄に可愛い声、それと情報の価値を必死に説いて自分の考えを押し付ける性格。挙句、この話を自分にわざわざ聞かせる捻くれ者。
そんな人物に一人しか心当たりがない。
「…この声姫か!?なんで居るんだよ!南でアイドルやってんだろ!?」
姫ことアルテシア。獅子座決戦会議の時にリミア経由でアイシャを振り回し、このゴルディオンではデッドマンと共同戦線を張った情報戦の王。
人海戦術と集めに集めた情報量で裏から支配し、幾多のオンゲーを疑似魔鏡に仕立て上げた張本人。
彼女は、マリアと話す時や普段行うアイドル活動での可愛子ぶった声からは想像もつかない荒っぽい喋り方になる。
「はぁ?それいつの情報?やり方も趣味も古いくせして情報まで古いとか…ないわ。くそったれリミアよりマシだと思ったけどないわ」
リミアを悪く言うのは特に何も思わないが、何故か自分をそれ以下に見られることには不満を感じていた。
「あいつより下に見られんのは無性に腹立つな…で、いくらほしい?」
姫が入ってきた時点で交渉が始まると思ったデッドマンは、おきまりの言葉で取引を始めようとする。
しかし、姫は跳ね上がるような声でマリアに、情報の大切さを念入りに説く。
「ほらね?向こうが勝手に価値を付けたわ。それも私がここにいるだけの理由によ?何度も言うけど情報は…」
「いいからさっさと教えろや!!」
「…先に言っとくけど高いわよ?」
「で?」
デッドマンの声からそろそろ本題に入るべき時間と察した姫は、話を切り出す。
事は、彼女が南でアイドル活動にひと段落した頃、時期的には獅子座討伐が終わってすぐである。
「…妙な噂を聞いてね。ゴルディオンにあるイカロス教団には危険な実験場が存在するっていうやつ」
「情報戦の女帝が噂話に耳を傾けることがあるのかよ」
「女帝じゃない姫ね。おおかたこの辺に居る市民から聞けるシナリオ向けの噂なんだろうけど、問題はこの情報は二週間前から未だに進展がない。要は真偽を確認されてない」
「わざわざお前が確認しに行くほどの情報かそれ?」
「調べに行ったファンの子達は全員音信不通。それ聞いたら黙っていられるわけないじゃない」
普段は面倒なファンを見つける度に親衛隊に消させてた女帝が随分と丸くなった…なんて考えたデッドマンだが、そんなことをしている時間はない。
「情報を信じるならそこは、かなりヤバい場所だな。ウチの身内で固めないと危なすぎる」
「ええ、それで偵察に来たらこの子が教団に正面から入り込もうとしてたわけ。どこからどう見ても怪しさしかないから捕まる前に止めてあげたのよ……」
潜入させるつもりだったが、マリアは馬鹿正直に正面から行こうとしたらしい。
デッドマンは、自分が聖女であることを活かせ、なんて行く前に言ってしまったのが失敗だったなぁと振り返る。
「どーも、後で親衛隊の誰かに報酬金渡しとくよ」
その言葉を待ってましたと言わんばかりの嬉々とした声が通話越しに聞こえてくる。
「それにしても…実験場、か…」
「シナリオでメタ張るなら人間から何かのモンスターを作っているあたりが鉄板ね」
姫の言う通り、普通のゲームならそんなところが話のオチだろう。
そして、今回もそのパターンであることには違いない。だが…作られたのはおそらく…
そうして、デッドマンは自らの膝で寝ている少女に目線を落とす。
「多分その読みは半分正しい。作ったのはおそらくモンスターじゃない。NPC、いや第四王女だ。こいつはおそらく…………」
デッドマンが語った推測は、突拍子もない空想だが、ここが現実でなくゲームの一つであるからこそ可能性を捨てきれないものでもあった。
「その結論、ありえない…とも言い切れないか。まぁゲームなら自然とも言えるかな…後βテスターって何よ?初耳なんだけど」
「それに関してはグレイに聞け。俺も昨日聞いたが、ぶっ飛んでるからな」
そう言ってデッドマンは、自らのいる場所をメールで姫に直接送りつける。
あとは、直に会って話す内容だ。いつまでも通信している時間だってない。
姫がそれを見たのか通信を切らせようとすると、デッドマンは急に思い出したかのように慌てて用件を述べる。
「そうだ!姫、別件であるプレイヤー達を呼んでほしい。一人は今頃どこにも入れなくて路頭に迷ってるバカ。もう一人は…」
デッドマンが頼んだのは、助っ人になるプレイヤー達。一人は以前勝手に出て行った少女だが、一度陣営を決めた以上は他所に移ることが出来ないクエスト。今頃どこかで帰るに帰れずウロウロしていることだろう。
そして、もう一人はメールでしかやりとりのしていないプレイヤー。彼は、ピジョンのように伝説は残していないが、新しい伝説を作ることが可能な腕を持つ職人である。
「まぁ前者はいいわよ…でも、もう一人は間に合わないかもよ?あの人まだ東で武器作りに命賭けてるし」
「あの人だっていい加減ドロップ武器に負けたまんまは嫌だろうから、すんごいの作ってる頃だ。頼むわ、報酬は昨日撮ったシンの寝顔写真な」
この時、姫の隣にいたマリアは、そんなもので簡単に取引が成立するのか不安になっていた。
しかし、姫は先程よりも真剣な面持ちでデッドマンに詳細を聞いていた。
「まじで?生半端なやつだと怒るよ?」
「大丈夫だろ。グレイからもらったやつだし、おまけで森で遭難時の弱ったやつとかあるぞ」
『グレイからもらったやつ』その言葉が姫にとっての品質保証になっていた。
「よしっ!交渉成立よ!それじゃあ作戦よろしく、私達が着くまでには頼むわよ」
そう言って通信を切らせた姫は、マリアを連れてデッドマン達の拠点へと向かう。
「さてと…作戦の確認を…」
デッドマンが机に向かおうとすると、誰かが扉を開けて中に入ってきていた。ふと気づいた彼が確認すると、その人物は第一王女ヘリオスのところに向かっていたプレイヤーだった。
「グレイか?どうしたんだよ?」
グレイは沈んだ表情のまま握りこぶしを強く握って口を開く。
「すまん…俺にはできなかった」
グレイは唐突に謝り始めるが、デッドマンには心当たりが存在しない。
「さっきヘリオスとの交渉は成功したって…」
「そっちじゃない。ピジョンの方だ…俺にはあの人に勝てないよ…」
ピジョンのところに行ったなんて話は聞いていない。いずれ誰かに行ってもらうつもりではあったし、グレイに行かせるつもりだったので問題はない。ないが、予想とは違う結果になったようである。
「どういう意味だ?っておい!」
デッドマンが詳細を詳しく聞こうとすると、グレイは取り合おうとはせず、外に出て行こうとする。
「得られたものは後で送る。それだけ言いに来た。今日は…ちょっと休むわ」
そう言って出て行ったグレイは、デッドマンにとって初めて見る悲壮感と焦燥感が混じりあった顔であった。
「あんな表情初めて見たな…少し保険をかけとくか」
取り急ぎデッドマンは、
デッドマンは、そう信じ作戦の確認作業へと戻っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます