第13話 漆黒の記憶、紅蓮の大地
またまた数日後……
「グレイ、なんで3本同時に同じ所に命中させられるの?」
毎日の様に話していたお陰か、かなり砕けた態度で接するようになったタオと俺は今日も弓の修行をしていた。
「これはあれだよ。弓の極地に至らないと出来ない究極の技だから」
因みにこれは半分程嘘である。実際はゲーム内での命中補正が仕事している為当たりやすいのと、10年以上VRをやってた際で体に感覚が染み付いている。
淡々とタオが矢を撃ち続けるのを見ていると、この特訓もそろそろ終わりを迎えている事に気づく。
しかし、告白の条件を入れた所為かタオは精度が上がってもわざと何本か外し始める。
どんだけ行きたくないんだよ……
仕方ない、最終兵器を使うとするか。俺はタオの隣でアンタレスを出して矢を引きつつ話し始める。
「昔さ、俺好きな人が居てその人と仲良くなって定期的に会うようになって、どんどん会いたい気持ちが抑えられなくなった事があるんだよ。多分初恋」
相手は母親同士が学生時代の親友である少女で初めて出会ったのはお互い5歳とかそんな時だろうか。毎年数回会っては遊ぶ友達、でも俺は女の子の友達が彼女くらいしか居なかったので自然と惹かれ始めていた。
なので、姐さんの言うミステリアスとか一切関係ない、それは断言できる。
「へえ、グレイにもそんな事が」
「なんかムカつく言い方だな。まぁいいや、でも相手の立場が俺よりずっと上になって、もう叶わない恋だなって思い込んでいたんだよ」
元々化け物みたいに強かったので俺は彼女に勝つために日夜ゲームしていた気がする。年に数回彼女がアメリカからウチに遊びに来て俺と戦うという事が我が家の行事になり始めていた。
そんな中、お互い14になった時に彼女は、アメリカでプロゲーマーとしてデビューした。俺は当然だろうなくらいに考えていた。しかし、その半年後モデルデビュー更に三ヶ月後女優デビューそして15の時には歌手デビュー、そのデビュー曲はビルボードランキング一位と才覚を溢れんばかりに開花させた。付いた二つ名がアメリカの救世主。ほんとあの時は、絶対サーシャには勝てないと思っていたよ。
「……それでグレイはどうしたの?」
「色々あったんだけど覚悟決めて告白したんだよ、でも相手が違う国の人でその国の方法でそれっぽく愛してますって言ったの。そしたらさ、なんか上手く伝わんなくて最初は聞かなかった事にされた」
ネットで向こうの愛情表現を調べてわざわざ英語で言ってあの結末…
「それって辛くない?」
「この後がもっと辛い、何度か言い回しを変えたり挙句ストレートに『好きです』って言ったりしたら漸く相手にしてくれて…それで……『今は友達のままがいい』って一番後が辛い答えが帰って来た」
「うわぁ……」
「結局今も友達としては付き合ってる。でも最近会うのが辛い、友達以上恋人未満の関係ってホントに好きだとめっちゃキツイ。絶対に叶わないって分かってて定期的に会うのは心が折れそう。未練がましいな」
因みに、振られた後はマジで部屋から一歩も出れないし動けない状況が続いた。なんせサーシャは必ずウチに泊まるぐらいだったから、絶対成功すると思っての玉砕。だけど年に数回家族で家に遊びに来る。もうサーシャの顔が見れないよ。
「よく…立ち直ったね」
「まーその数日後に人生最高の親友に出会って立ち直れた」
だからありがとな、親友。あの日投げやりな気持ちでやったあのゲームでお前に会わなきゃずっと引きずってた……でもあの馬鹿を倒すために魔境漬けの生活始まったから結局はプラマイゼロかもしれない。
前言撤回だよ、ふざけんな悪友。
「結局俺が何言いたいかって言うと、思いは抱え込まない方が…って俺のこれオチ以外失敗体験だから役に立たねえ!むしろネガティブ過ぎる!ちょっと待って今の話半分嘘だから」
「もういいよ。グレイの失敗体験は聞いててキツイけど、僕が振られても気持ちをわかってくれる人が居るって事は分かったから。だから…僕も今日義姉さんに想いを伝えて見ようと思う。ダメでも僕より酷い人が目の前にいたら何とか持ちこたえられそう」
タオは笑いながらそう言ってくれた。俺の恥ずかしい過去を話したが、これは日本でも紫音くらいしか知らない話だ。これでクエストクリアできるなら喜んで話そう。
彼と話していると、急に光が差し込んでくる。太陽が彼に祝福を与えているのだろうか?一人の漢の人生を賭けた突撃に世界が祝っているかの…違うな。太陽はもう沈みかけているが、この光は東から来ていて真逆だ。俺は、その方向を向くと、かつて見た光と同じ黄金の輝きを目にする。
「あの光……もしかして!」
俺は、光の方に向かって走り始める。思い浮かべるのは、一ヶ月前にこの森で絶体絶命のピンチの時に見た最後の希望。
あの金色に輝く雌鹿が近くにいるとしたらもう一度見てみたい。ある種の中毒性があるほどにあのモンスターは、神々しく見たものを虜にする魅力があった。
やがて、光の下にたどり着くとそこには、かの雌鹿が凛とした佇まいで森の中で日が刺す中、森の中を流れる川の水を飲んでいた。
「声は出さず…静かに調べる…」
この前は、見とれているだけに過ぎなかったが、今回は何者なのか解析までしっかりやらねばと思い、中央エリアで買った簡易解析アイテムを使う。
名前:狩猟神の使い(偽名)
レベル:150
HP:測定不能
MP:測定不能
名前は狩猟神の使いと書いてあるけど偽名って……ポラリス対策か?あれ名前が分かってないと変身できないからな。でも神の使いというのは、なんか納得できる。あの鹿から感じる神々しさはそれが理由だ。
ついてきているはずのタオにも見せてやろうと、彼を探すと既に横にいた。しかし、その顔は血の気が引いて真っ青に染まっており、まるでトラウマを強制的に思い出させられているかの様である。
「あれは絶対に触れてはいけないこの土地の守り神で…捕まえればあいつが…あいつが……あいつって誰だ?今何で僕は、誰かが強くなるって確信した?このノイズは何だ?この地獄は何だ?この光景は誰の死だ…?」
「おい、タオ?何の話だよ?」
「僕は…あの時、只みんなに自慢出来ると思って……たかが鹿型モンスター1匹を捕まえた所為であんな結末を迎えると思わなくて…違う僕が殺した。%&’さんもクラリスも……みんな」
「タオ!何を言ってんだ、おい!」
「ああ…あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”」
叫び声を上げながら、狂ったように近くの木に向けて頭ををぶつけ始めるタオを俺は慌てて抑え止めに入る。今言ったこいつの言葉…この光景には覚えがある。
まだ言っている事を全て理解できているわけじゃないが、NPCらしくない自問自答の兆候は
タオの大声によって狩猟神の使いは俺たちに気づく。奴はこちらを見ると何を思ったのか近くの木に向かってわざと突進し、その際に折れた自らの黄金角を口に加えると俺たちの前に来て傍に置いて去っていく。
里まで何とか帰ろうと目の前までやって来ると、突如雷鳴と共に空に稲妻が走り円状にかたどられた雷の魔法陣から里に向かって雨の様に雷が落ちてくる。
その雷によって民家は炎上し、里のエルフたちも逃げ惑っている。
「何だあの雷は?あの里にモンスターはいないんだろ?」
状況が今一つかめない俺は、里にいるはずのリミアに連絡を取ろうとする。その直ぐ傍にいたタオは、おぼつかない足取りで里に向かって歩き始めていた。
「タオ、クラリス達に何かあったにちが…タオ?」
「義姉さん…嫌だ、もう失いたくない!あんな結末望んでない!」
走り出す彼を追う俺の目の前に、アナウンスと共にいつもと違った
「シナリオクエストエルフ編E『樹海の神秘』クリア」
「
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