第11話 越えられない一線

 タオが去った後、仮住まいとなった古民家の中で、俺達はこれからの計画について話し合いをする事になった。


「グ、グレイさん!ここここ恋人というのはやはり節度を持ってまずは手を繋ぐことからだと」


「じゃあ、リミアは里のエルフに何人か目星を付けて挨拶だけでもしてきてくれ。姐さんは女王に会えたら条件について細かく話を聞いてきて。俺はタオにもう少し聞いてみる。マリアは…ごめん何か言った?」


「…知りません。もう寝ます」


 マリアは、部屋の一つに入ると鍵を閉めて篭ってしまう。

 アンナ姐さんが、気まずそうにしながら俺の方を見る。


「ごめんなさい、形だけとはいえもう少し相手をしてあげて。作戦はあたし達が考えとくから」


「はー分かってましたよーこうなるのは。どーせグレイさんはサーシャさんが好きなんですよー知ってますよー前言った結論だって適当ですからーいいですよねーモデルで歌手で女優でプロゲーマーの彼女って。何でそんなバケモン居るんですか」


 本当に途切れてしか聞こえなかっただけだって…だからあいつの話だけは…


「そんなつもりは無かったけど、誤解は解いて置いた方が良いな」


 もうマリアは寝てるかもしれないけど、明日になって口も聞いてくれなくなっていたら俺は今日の罪悪感で押し潰されるだろう。俺は姐さん達に寝ると言ってマリアの部屋の前まで行く。


「あーそのちょっといいか?寝てたら申し訳ないんだけど」


「……」


「その…さっきはごめん、途切れ途切れ聞こえてはいたのに全く相手にしなくて…前に自分が同じ事されて嫌だって分かってた筈なんだけど、今は一旦時間を置こうと思ってやってしまった」


「……」


「だから本当にごめん!」


「…許すなら一つ条件が…」


 部屋の中からマリアの声が聞こえてくる。ああ、何とか怒りを鎮められたようだ。


「グレイさんって本当の彼女居るんですか?」


 ドアを少し開けたマリアがジト目で聞いてくる。 

 …そういえば俺もマリアに居るか聞いてなかった。居たら普通に不味いよな。


「俺は本当に居ない。因みに……」


「…私も居ません。ふふっ良かったですね、お互い」


「ああ良かったよ、じゃあおやすみ」


「はい、おやすみなさい」


 _______________


 翌日


 朝日が昇り始め里に日が射してきた頃、早くに目が覚めたいた俺は、里を見て回ろうとあちこち歩きまわっていた。すると、一人のエルフが弓を担いで森に入っていくのが見えた。


 あれって…タオか?ちょうどいい、話したいしついて行こう。


 彼の後を追っていくと、森の中に入って15分程歩いた所で立ち止まり、木にお手製の的を掛け始める。俺は、隠れる様に近くの木の裏に潜み様子を見る。


 弓の練習か?エルフらしいな…


 タオは的を何個か付け終わると、離れた所から弓を構えて矢を引き絞り狙い撃ち始める。

 彼が放った100本の矢の精度に俺は驚かされる。世界は広かったよ、シン。


 だってこれは凄い…100本の矢が全て…


「全て外れてる。どんだけ下手くそなんだよ」


 あ、思わず声に出てしまった。勿論だがタオにも聞こえていたらしく、彼は声の主を探そうと此方を向く。

 もう隠れる意味もないと思い俺は姿を見せる事にした。


「貴方…確か人間の…見てたんですか?ずっと?」


「エルフが弓下手くそなのも仕方ないって。これも全部ユノって奴が悪いんだから」


 とりあえず意味があるかも分からないフォローを入れるが、普通下手くそな事に自覚のある人が隠れて練習している所を誰か知り合いに見られたら取る行動は大体同じである。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


「はい、ストーップ!逃げるな逃げるな、気持ちは分かるけど落ち着いてくれ」


 逃げようとしているタオを捕まえると、落ち着いてもらおうと必死に説得する。

 ここで縁切られると非常に不味いが、反対に上手くいけばクエストクリアに一役買ってくれるかもしれない。


「落ち着こうぜ。下手なのはよーく分かった。分かった上での提案なんだが」


「ああぁぁぁぁぁ!!!」


 タオの筋力は俺より強くこのまま行くと逃げられてしまう。

 そうだよ俺かなり筋力ステ低いんだった。


「俺が弓の使い方を一から教えてやる。だから女王の前でこっちに味方してくれ」


「ああぁぁぁ……え?」


「ちょっと貸してくれ、それとよく見てろよ」


 俺はタオが使っていた弓と残りの矢を何本か借りると、50メートル程先に見える的に向けて狙いを定めて矢を引き絞る。


 今風は吹いてない、さっき見てた感じだとこの弓なら大体…


 俺が放った矢は、綺麗な放物線を描き的の真ん中に命中する。続けて、残りの矢をどんどん放ち彼が用意した的の真ん中に次々と命中させる。最後に3本纏めて番えて放つと、放たれた矢は綺麗に的に横並びで命中する。

 一部始終を見ていたタオに向かい直した俺は、改めて提案する。


「どうだ?中々上手いだろ?だからさっきの交換条件を「教えて下さい!!」」


 よし、これで後はこいつが的を射抜けるようになったら女王の前に行ってクリアだ。今回はルキフェルの時と違って案外簡単に終わりそうだな。


 ……女王についての話はまた今度でいっか。


「よし、早速始めるぞ、まずは撃つ時ぶれる姿勢の正す所から」


「よろしくお願いします!」


 そんなこんなで夕方まで一通り教え切った後、タオと別れて家に戻る俺は、ようやく大問題に気づく。


 …これ、結局マリアを放置する事にならない?


「どうしよう。明日からはリミアにお願いするか…」


 家に戻った後、それぞれの進展を話す報告会が始まった。最初に報告したのは里のエルフから情報を集めることになっていたリミアである。


「では私から、里で権力のあるエルフを何人か見つけてー話掛けてみましたがほとんど中立というか女王の意思を尊重するって意見ばかりでしたー」


 つまりは女王が全て決める統治国家みたいなものか?尚更クラリスに認めてもらう必要がある。

 次に報告したのは、女王に会いに行く予定だったアンナ姐さん。しかし、結果は芳しくないようだった。


「こっちは、女王に会わせてすらもらえない。謁見自体特別って事ね」


 最後である俺は、タオの間に起きた出来事とクリアする事によって彼の力も借りれるかもしれない事を説明した。


「…で、これは明日からリミアに頼みたいんだけど」


 意外な事に三人の反応は、三者三様のようであった。俺は賛成されてリミアが向こうに行くで結論が出ると思ったのだが。


 アンナ姐さんは、わざわざ俺がやる必要性が感じられないのだろう。何せここには俺以外にも人間族のリミアがいる。彼女にやらせるのが負担を考えると妥当である。

 彼女は、俺が言った後意見を即答する。


「そうね、それは……フウロに任せてみたら?流石にそこまであんたがやる必要ないわよ。聖女ちゃんもそう思うでしょ?」


 反対にマリアはこの件をじっくり考えていた。自分の意見の参考にしようと母親であるアンナに一つ重要だと思った事を確認する。


「お母さん、これはグレイさんにしか出来ない事なんですよね?リミアさんに押し付けるまで少し言葉に詰まってました」


「え!?ま、まあ、フウロでも出来なくは…ない…よ?(出来なくはないんだけど、いざ教えるとなるとこの子は…)」


 リミアは、行動理念が基本的に一つなので意見は頭数に入らない。


「私が教えるのも可能ですがーグレイさんから始まった話ですしー私の代理が認められるかわかりませーん(よしよし聖女ちゃんとグレイさんが離れるチャーンス!!)」


 二人(リミアは恣意的だが)の意見を聞いて、マリアの考えは纏まったようであった。


「ならグレイさんがやるべきです。最後まで責任を持つべきです」


「え?いいのか?正直先行き見えないし、いつ終わるかも不明だぞ?」


「それは分かってます。でも失敗だけは絶対に出来ません。ここは確実に出来る人がやるべきです」


 ぶっちゃけ、マリアには俺がやると言ったら絶対に批判されると思ってた提案なので、この結果に俺自身が一番驚いてる。


 アンナ姐さんは、マリアが納得してしまったらこれ以上言うつもりがないらしく、マリアの提案に賛成のようだが、作戦をほとんど俺とリミアで決めた為か軽くリミアに嫌味を言っている。


「はぁ、あたし達のやる事がほとんどなくなっちゃったわ。若い子二人に任せっぱなしってのも、ねぇ?」


「私も若いですよー!まぁ、グレイさんがやると決めたら従いますよ。私、グレイさんに尽くす系ヒロイン目指してますから」


「三人共ありがとう。特に姐さんとマリアには迷惑かける」


 俺には頭を下げる事しか出来ない。今回もかなりのワガママを言っているので、それを許してくれる彼女達には感謝しかない。


「いいわよ。あんたの尻拭いなんて昔よくやってたし、あんたは勝手に近道を見つけるけど一度相談しにくる分サーシャよりはマシよ。あっちは勝手に解決して事後報告する子だし」


 もうあのヒトは別枠でいいと思うよ……













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