第8話 樹海の秘境 part【1】
≪中央エリア エリシュオン王国≫-王都メトロイア
PK達から逃げ出した俺達は、当初の目的でもあったクラスアップの為に中央エリアに戻っていた。
「あはははは、何だかんだ楽しかったよ。じゃーねグレイ、じゃーね貧乳共」
「………やっぱ消す…」
「いや、ダメだから!しかも身内でしょ!」
俺達は、からかいながら街の中に消えていく絶壁を見送り、クラスアップをしてくれる教会へと向かう。
「絶壁の奴もクラスアップしていけばいいのに、「やる事がある」って言って別れちゃったな」
「要りませんよーあんな歪な女。それよりも中央エリアのクラスアップってここでしたっけー?」
「ああ、教会の地下でやってもらうんだよ」
「そうなの?あたしが掲示板見た時には、専用のギルドみたいなのがあるって聞いたけど」
???前回クラスアップした時は、ルキフェルが変えた後に、司祭に尋ねたらあっさり地下に連れて行ってもらえたが、本来は違うのか?
そんな事を考えていると、いつの間にか教会前に到着する。奥で祈りを捧げている司祭に
事情を話すと、二つ返事で地下に連れて行ってくれた。
「では、始めましょう。まずはそこの敬虔な女性から…」
「あたしね!敬虔な女性って言えばそれ以外…」
「いえ、そこの桃色の髪をした神官のお嬢さんからで」
「お母さんが敬虔って何の冗談?いい加減自覚して」
娘にズバッと言われて凹んだのか、アンナ姐さんは洞窟の隅に体育座りをして頭を埋めている。
「あの人は最後にしてさっさと始めましょー」
それから一時間程経ち、三人のクラスアップは無事終了した。
「では、またお待ちしております。グレイ様とご友人方」
教会の入り口まで司祭に見送ってもらった後、今日の宿を俺達は探し始める。
「意外、あんなに派生先があるなんて思いもしなかったわ」
「ここが特別なんでしょうねー。グレイさん様々です」
三人は、それぞれの二次クラスに満足しているが、実は俺達四人は、とある問題に直面している。
宿がない。
王都に多くのプレイヤーが中央エリアに進出して来た事で、入れる宿が無くなっていた。
普通は、ゲーム内の休憩スペースとして、全プレイヤー用の宿はどのエリアにも用意されていると思ったのだ。
しかし、初期選択エリア外だからなのか、王都メトロイアでは部屋の数に限りがあった。
どこかないかと王都をうろうろしていると、前方から見知った集団が談笑しながら歩いて来ていた。
「あ、ルキフェルじゃん。こっち戻ってたんだ」
「ミュケ以来ですね。グレイさん」
そうだ、こいつ人前だと変なキャラで通しているんだった。話しづらい…
マリアやリミアもミュケの街で話した事はあるのか勇者パーティーの面々と挨拶している。問題のアンナ姐さんはというと…
「何この双子超かっわいい!!」
フリンとコリンの二人を思いっきり抱きしめていた。それはもう抱きしめられている二人の顔が青く見える程の強さで。
案の定、暴走した姐さんは周りによって無理矢理剥がされた後、一部始終を見ていた娘に汚物を見るような目で説教される。
「…死ぬかと思った。やっぱりグレイの知人は怖い…」
「面目無い…」
「わーグレイさん達じゃないですか!」
沈んだ場が切り替わるように、明るい声で話しかけて来たのは、先程まで姿が見えなかったティナであった。
彼女は、既にミュケの時と違い装備をしっかりと揃えていた。
「仮にも勇者パーティーの一人よ?装備が貧しかったら私達まで低く見られるじゃない」
そんな事をエルミネは言っているが、単に心配なのだろう。ティナの防具は、エルミネのより高級ように見える。
そんな彼女の気持ちを、既に知っているのかティナは、話を進める。
「それよりもグレイさん達は王都に何の用ですか?私達は、また明日ミュケに戻りますけど」
「クラスアップに来たんだけど、何故か宿空いてなくて…」
「それでしたら我々が貸し切っている宿に空きがありましたので、そこを使用して下さい。勇者様もそれで構いませんね?」
「まあいいわよ。その代わり、あっちの変態はフリン達に近づかないでね」
「では、私は装備の新調に向かいます。用事は私だけですし、皆さんは宿に向かって下さい」
ルキフェルは、そう言って集まりから離れていった。
「あ、俺も防具新しく作りたいし、ちょっとあいつに付いていくよ。後で合流する」
俺は、リミア達が何か言う前にルキフェルが歩いていった方へと走っていった。
取り残された面々は、急な行動だった為、何も言えなかったが、二人一緒なら迷う事もないだろうと判断し宿へと向かう。
その中でリミアだけは、二人の行動に不信感を抱いていた。
(あの二人って大熊座を止める時も先行してましたよね?ただのプレイヤーとNPCの関係にしては進みすぎのような…)
「フウロ〜置いてくわよ〜」
アンナの声で、我に帰ったリミアは、後で聞けるところまで、本人に聞けば良いと考えて移動し始めた宿組に合流する。
__________________
「ここでいいか、グレイ」
「ああ、場所は割と何処でもいいしな」
防具を新調しに行くと言った俺達は、現在王都を守る防壁の天辺に登り、二人きりの状態になっていた。
ルキフェルが集団から離れる時、彼は俺の横をわざと通り、小さな声で「付いて来い」とだけ言って街の中に消えて行った。
その言葉を信じて追いかけた結果、路地裏からここまで連れてこられたわけだが…
「まずは獅子座討伐おめでとう。あれは初見殺し要素満載なんだが、よく犠牲者なしで突破した」
「随分と上から…って、そうか。お前は倒してるのか…」
「実際は、もっと大勢で挑み多くのプレイヤーが犠牲になって初めてクリアしたけどな」
彼は、悲しそうに空を見上げていた。
そんな彼に聞くのは、悪いと思っていたが、聞かなければならないことがある。
「悪いがルキフェル、今は悲壮感に漂う前に教えて欲しい事がある。今お前はどこまで話せる?」
「ーそうだった。その話をする為に俺が呼び出したのにな。すまん、切り替える」
ルキフェルは、頰を叩き深く息を吸い込む。
「今までは、ゆっくり話す時間がなかったからな。俺が話せる範囲なら話そう」
「とりあえず気になったのは、お前プレイヤーだったんだよな?」
「ああ、死んだけどな。とあるボスに殺されちまった」
こいつクラスを殺すボスというなら、恐らくはストーリーボスの一体だろう。その情報は手に入るのなら是非欲しい。
「残念だが、あまり知りたい事を話すのは出来ないと思うぞ。前にも言ったが、この世界で、未だ発見されてない事柄については、ロックがかかる。精々グレイの質問に少し答えられる程度だ」
「そうか…少し待ってくれ。質問を纏める」
そう言って俺は、ここまでの冒険で疑問に思ったことを思い出して、頭の中で整理する。
「ーよし、まずは一つ。この世界のストーリーボスは全部で12体か?」
これは、今までのストーリーボスがサソリ座、獅子座と続いた為に感じた事だ。このままいけば全部で12体。朝の占いでも見かけるあの星座達の筈だ。
「一つ足りない…このぐらいは流石に許されるか」
一つ…つまり全部で13体…
「13体目は黄道十二星座とは別枠で、それがラスボスか…」
「尤も俺は見てないし、これは俺が生きてた時に考察班達の検証結果に基づく仮説みたいなものだけどな」
なるほど、俺達ももっと進めば考証が進んで彼らと同じ結論に至れるかもしれない。
「よし次だ。エルミネとティナも元プレイヤーなんだな?」
「ああ、俺も含めて三人ともβテストの人間だよ。エルミネと俺は最後の八人まで生き残ってた。因みに現実では今はいつ頃だ?」
「ゲーム発売は2049年6月だから、えーと…」
「そこが分かればいいや。そうなると俺が死んだのは多分今年の2月辺りだろうな。閉じ込められて1年は経過してたし」
1年か。俺達もそのぐらいの時間は、覚悟しなければならない。
三人の事情も聞きたいが、それよりも先に聞きたい事が俺にはあった。
「これは、答えにくいかもしれない。アルカスの監視槍εモデルのβテストでの持ち主はエレネか?」
「……そのプレイヤー名を俺は知らないが、誰の事を話しているかは想像がつく。エレネか。わざと名前を変えているのは俺達の為か、それともあの女…」
「それとも、なんだよ?」
「これはいいや。とりあえずエレネと俺が思い浮かべているあいつを同一人物として話を進めるぞ。エレネ、彼女は間違いなくβテスト最強のプレイヤーだ。#/_@@!&だったしな」
最後の方は聞き取れない。つまり、秘匿情報の一つか。
「最後はやっぱダメか。まあその内わかるから気にするな。逆に質問なんだが、どこから槍とエレネが繋がった?あいつ、目の前で槍を出したのか?」
俺は、シンから伝え聞いた話をそのままルキフェルにする。この際ついでだと、今までの出会いから話を始める。
話を聞き終わった彼は、腕を組みながら考え込んでいた。
「なんだろうな…俺の知っているあいつはテレポートスキルなんて使えない筈なんだよ。でもεモデルを持っていたのは確かにあいつだ」
「なら別人に槍を渡したって事は?」
「それはない。そこ以外は、ほぼ同一人物と見て間違いないんだ…あの後何かあったのか?」
彼は、しばらく考え込むが結論が出なかったのか、あっさり諦める。
「…なんか考えがあいつにもあるんだろう。そういう事にしておくか。他にあるか?」
「うーん、あ、そうだ。アンリカって人知ってるか?最近エレネの使い魔からもらった変なポーションの製作者なんだけど」
「誰だそれ?初めて聞いた名前だ。あいつ個人が知り合ってたNPCかもな」
ルキフェルが知らないという事は、直接本人に聞くしかない。
「これ以上は、エレネの方が知ってそうだ。今度会った時にでも聞いてみるよ」
「そうした方が良い。今の時点で俺から言えそうな事はこんなもんだ」
ボスの数と、βテストの存在が確認出来ただけ収穫とするか。
「ってもう夜だ。あんまり遅いと、そっちの連れに不審がられるな。そろそろ戻るぞ」
「そうだ、最後に一つ。『エルフの里』が何処にあるか知らないか?」
「エルフの里?…ああ、あそこはクエストを受けないと行く事が出来ない特別な場所だぞ?」
「それ初耳なんだけど。そのクエストが受けられる場所とか知らないか?」
「そうだな…あそこは、エルフ族NPCとの会話がキーだ。街にいる奴に声をかけとけばいいんじゃないか?でもフリンだけはやめとけ。絶対にダメだ」
そこまで言うには、何かしらの理由があるのだろう。
ルキフェルは、俺を抱え王都の中にある宿まで運び、目の前で優雅に着地する。
扉を開けようとする彼は、何か思い出したかのように、俺の方を向く。
「あ、そうだ。最後に先輩からのアドバイス。恋したらさっさと告白しろよ〜。俺みたいに死ぬまで胸に秘めておくのはオススメしないから」
「えっ、は???」
突然の事で戸惑う俺を放っておいて、彼は扉を開けて中に入っていく。
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