第6話 最大効率を求める者たち

 PK。プレイヤーキラー。MMORPGにおいて必ずと言っていいほど存在し、どの世界でも悪質プレイヤーとして挙げられる人達だ。

 その世界を盛り上げる事も出来る為、必要悪として俺は考えていたが、この世界では擁護も出来ない。

 彼等は、他のプレイヤーと見分けられるように、名前が赤く表示される。

 今俺達を囲んでいるプレイヤー達も全員名前が赤くなっていた。


「冗談だろ。居るかもしれないとは思っていたけどさ…掲示板でも見かけなかったし流石に…」


「グレイよく考えてみ?デスゲームで遭遇したら殺さない限り被害報告なんて書けないって。まぁ集団PKしか居ないみたいだから、勝ったプレイヤーなんて居なそうだけど」


 それもそうだが、そんな事考えている暇はない。

 どうする?逃げるか?せめてマリアだけでもここから逃がさないと。

 他の三人は簡単にはやられないと思うが、彼女は対人戦などした事がないだろう。


 とにかく、時間稼ぎをしなければ。

 俺は、PK集団の一人に向かって話しかける。


「あんたら、何でPKなんてするんだよ?今はデスゲーム中だぞ?」


「その方が効率いいからに決まってんだろ?知らねえのか?プレイヤー殺すとそいつが稼いだ分の経験値が入るんだぜ。それにデスゲームだからって関係あるかよ。むしろデスゲームなら仕方なかったで、殺人が許されるかもしれねえんだ。こんな世界気持ち良すぎるだろ!」


 ユノの奴、厄介なシステムを作りやがって。デスゲームでもPKする人間を一定数稼ぐ為か。それに、性根が腐ってやがる。

 PKの一人は、俺のプレイヤーネームを確認すると、猛烈に喜び始める。


「てかお前グレイじゃん。ラッキー!お前を殺せば俺らも一気にレベルMAXだぜ!」


 彼の言葉を聞いて、周りのPK達もやる気を出したようだ。どいつもこいつも人間以下のクズで、俺たちをここで逃す気は毛頭無いらしい。


 なら仮にマリアを逃がしたとして、その後はどうする。

 この状況では彼等と戦うしかない。相手はレッドネームで自らPKを自覚していた。なら、倒してもレッドネームにはならない筈だ。

 これは、襲われたから仕方なくやり返す正当防衛に当たる筈で、コロシテモ罪ニハ…

 俺が判断に迷っていると、アンナ姐さんが指示を出す。


「グレイは、マリアを連れて突破しなさい。リミアは右の五人。あたしは左五人受け持つわ」


「了解でーす」


 それは、いくら何でも危険過ぎる。せめて絶壁含め四人で対応しないと、人数差で押し切られる可能性がある。

 万が一の可能性さえも潰したい。


「待って、姐さん。俺も参加するよ」


「そうです。ヒーラーだっていた方が…」


 俺達が、戦いに参加しようとすると、アンナ姐さんは俺に向かってる強い口調で否定する。


「ダメよ!子供に人殺しなんてさせられない。あんた達は殺人なんて絶対にしちゃダメ」


「子供ってマリアはまだしも俺はもう20…」


「20なったくらいで人殺しに簡単に納得出来るわけないでしょ!」


「グレイさんはー、とりあえず奇乳とマリアちゃんを連れて離れてて下さーい。さっきのフラストレーションはここで爆発させます」


 相手の数は10…いや隠れている奴らがいればもっと多い筈。それでも二人なら間違いなく勝てる。

 しかし、これは勝ち負けの問題じゃない。俺は二人だけを人殺しに出来ない。マリアも流石にアンナ姐さんが心配なようだ。


「お母さん…」


「再会して直ぐにこんな事になっちゃったけど、安心して逃げなさい。こう見えてママ強いから」


俺達の為に覚悟を決めているのだから、ここは逃げるのが二人を立てる行動なのかもしれない。

だがしかし、本当にそれでいいのか?次に似た奴らと遭遇した時も逃げるのか?

そんな逃げ腰じゃ、いつかは破滅する。

こんな時、あいつらなら……


状況はアンナ達とPKが互いに武器を構えており、迂闊に手を出せない状態が続いていた。

そんな中膠着状態を嫌い、動き出したPKを見た俺は、そいつの足に向け矢を放つ。


「グレイ聞いてなかったの?あんたに人殺しをさせるわけには」


「悪いけど、恩人を人殺しにさせるほど馬鹿じゃねぇよ。機動力を奪って、一時的な戦闘不能状態に追い込むだけだ」


そうだった。シンなら余裕で無力化する。アイシャなら殺す覚悟を決める。他の誰であろうともここで『逃げる』という選択は選ばない。

そして、そんなわがままが出来る程、通る程彼らは……


「甘くない?そんな事して失敗したらどうするの?誰かしらは死ぬわよ」


「お生憎様、俺はそんな甘い事を!ノーリスクで!出来るくらいには上手いんだよ!!」


いつかは、俺もPKを殺す事があるかもしれない。だからこそ、ここで二人を見ているだけなら、いざその時に俺は今の二人の覚悟を無駄にした事になる。


そんな恩知らずにはなりたくない。

ならば、今は最高最善で最大効率の未来を目指す。


そんな俺の意見を聞いたアンナ姐さんは、向かってくるPKの一人から武器を弾き飛ばして、大きく蹴り飛ばす。


「はぁ、見ない間にでかい口叩くようになっちゃって。リミア、プラン変更よ、グレイのわがままに付き合って頂戴」


「了解でーす。私初めてグレイさんがー自分を強いっていう所を見ましたー。そんなナルシストさもまた好きになりそうです」


「きゃはは、久々にグレイに会ったけどまた面白くなってんね」


「あ、あの私も及ばずながら力をお貸しします!」


さてさて、俺の偽善に付き合ってもらうからには必ず全員ノーデスで終わらせてやる。


「ポラリス、突然変異メタモルフォーゼコード『アロンダイト』」


エルミネが普段使う折れない聖剣に姿を変えたポラリスを持ち、それを彼らに向けて宣言する。


「この戦い、誰も死なせずに終わらせる!」


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