第4話 三週間の限られた使い道

 俺がマリアをギルドへ連れて帰ると、残っていた二人はギルドの休憩スペースで何か大変な事になっていた。


「フウロ、どうしたらいい?あたし、もう無理かもしれない。ここでも聖女ちゃんに嫌われたら人権がなくなっちゃう」


「既にないですよー。だからさっさと引退すればよかったのにー、無駄にグレイさんに構うからー。後何度も言いますけどー、ここでは『リミア』と呼んでくださーい」


「フウロ~昔の好で何とかしてよ~。小さい頃おむつ変えてあげたじゃない」


「話聞いてください!というか何時の話してんですか!あれはもうさんじゅ…あ、グレイさんマリアちゃんお帰りなさーい」


 何か言いかけていたリミアは、俺たちの姿を見て何もなかったかのように呼びかけてくる。

 隣でシュンとしているプレイヤーは、アンナ姐さんだろう。

 彼女はマリアと顔を合わせないように出来るだけ逸らしている。そんな姿に呆れたのかマリアは、自分からアンナに近づき首を捻って無理やり向けさせた。


「……いいですか。グレイさんへのお礼で私は一緒に行くだけです。母さんがここにいる理由は取り敢えず聞かないでおきます。ここでも家と変わらないならその時は……」


「分かった、大丈夫、お母さん頑張る、絶対守る」


 それを聞いたマリアは、アンナ姐さんから離れて俺の隣に戻ってくる。

 取り敢えずメンバー内のわだかまりが無くなった事で本題の『冒険』に入るわけだが、具体的な目的地は決めていない。


「それで、姐さんは何処に行きたいの?」


「えーとあたしはその…『ゴルディオン』にちょっと…用が…」


 ゴルディオンって、西の獣人国家ゴルディオンか?なんで初期エリアに今更行くんだ?てかそれなら中央エリアで待ち合わせでもいいのに。


「じゃあ、今からでも向かう「ちょっと待った」」


 この流れ、メトロイアの教会でもあったような…


「グレイさーん。私はゴルディオンに行く前にー行きたい所がありまーす」


「え、姐さんの行きたい所に行くんじゃないの?」


「何の為にケイトスを待ち合わせ場所にしたと思っているんですかー。ここが一番近い未踏地域があるんですよー。それにー私を呼びつけた代償は高いですよー?」


 どうやらリミアはリミアで行きたい所があるらしい。まあ、時間はあるしもう一つ行くところが増えた所で支障はないだろう。


「リミアの目的地はどこなんだ?」


「私の目的地はー『エルフの里』でーす。前々から行ってみたかったんですよねー。未踏エリアだから他のプレイヤーもいないでしょーし。何よりNPCが言うにはー特別なアイテムが貰えるらしくて興味がわきます」


『エルフの里』って何か解放戦線でアイシャの奴隷やってた頃に彼女がそんな話をしていたような、してなかったような。

 おそらく情報の出所は姫か掲示板だろうな。時間はあるだろうし、レイドに向けてアイテム集めは重要なことだ。


「じゃあ、エルフの里を見つけて、ゴルディオンに…そうだ、マリアはやりたい事ある?」


 ここまで来たなら、彼女の意見も取り入れるべきだろう。

 マリアはいきなり話を振られて困惑しつつも答える。


「わ、私ですか!?えーと、レベル上げがしたいなぁって」


「レベル上げなんていらないですよー。前回の獅子座のお陰でもう50カンストしてますしー。クラスアップだけ、ゴルディオンでやっちゃいましょー」


 リミアはさらっと否定しているが、アンナ姐さんとマリアはまだレベル30近い数字で、未踏エリアに行くには心許ない。

 前回、グラフィラス森林地帯にシンとアイシャの三人で行った時は、雑魚モンスターですらレベル90と異常なまでの高レベル地帯だったのだ。

 エルフの里までの道のりがそう簡単とも思えない。よってレベル上げは必須だろう。

 それにレベル上げをするならクラスアップもしなければならない。俺は、大熊座、獅子座を経て80までレベルが上がった。

 どうも、経験値は分散式で高レベルになるほど指数関数のように必要量は増えている。

 二次クラスの上限は100なので、あと少しに見えても実際はもう一度80レベルまで上げる分の経験値が必要になるだろう。


「レベル上げと、クラスアップは最優先事項な気がするな…うーん、どうしよ」


「グレイが決めちゃって、あたしはそれに従うわ」


 アンナ姐さんの意見に二人も賛成のようなので、一旦三人の目的地を俺は、頭の中で整理する。

 アンナ姐さんの目的地ゴルディオンは、獣人国家で西の初期エリアだ。今はデッドマン、ミア、シンの三人がいるはずだが、何かのクエスト目的だろうか。

 対して、リミアの目的地エルフの里は、ここから北東の何処かにあると、各エリアのNPCが示唆しているらしい。これもシナリオクエストかアイテム目的だろう。

 最後に、マリアの目的であるレベル上げだが、これは是非俺もやっておきたい。何せ次のレイドボス発見前に、不意にストーリークエストが発生するかもしれないのだ。それまでに必ず役に立つことは強くなる事。強くなる事がゲームクリアの妨げになる事は流石にないだろう。


 レイドボスまでは後一ヶ月程度。俺は目的地がないから三人の目的地の中から選ぶとしても、一つだけでは時間が余りそうだし……

 俺が、どうするか悩んでいると、アンナ姐さんからフレンド申請と共にメッセージが送られてくる。

 そういえばまだだったなーと申請を受領し、メッセージに目を通すと、そこには姐さんがゴルディオンに行く理由が書かれていた。文の最後には、ゴルディオンは後に回してくれ、と書かれている。


 ……ああ、これそもそも行かない方がいいな。この流れで行ったら本当にマリアに嫌われる。


 俺は、脳内でこの一ヶ月の計画を決め三人に向けて話し出す。


「よし、最初にレベリングをして姐さん、リミア、マリアを二次クラスに上げる。終わったらエルフの里。最後にゴルディオンだ。これでいい?」


「「「異論なし」です」でーす」












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