第22話 エピローグ① 変わりゆく世界と舞い戻る彼ら

 エレネによる強襲直後 

 ≪???≫-運営用管理モニタールーム


 ヘラが、管理している部屋にユノが転送されてくる。彼女を襲った弾丸は、不正アクセスアカウントを強制BANする為のパッチデータであった。取りつくように、プレイヤーと同化しかけていたユノは、それによってゲームから弾き出され、本来の居場所であるこのモニタールームに戻る事となった。


「やられましたね、私。結局何者の仕業かは判明したのですか?」


「いいえ。しかし、クロノス達の敵である事は判明しました。あの獅子座を正規法で、攻略させる気はあのプレイヤーになかった。本来なら打撃のみの攻略が正規法のはずなのに、あれでは本当のクリアではない。あのプレイヤーのログは残っていましたか?」


 ユノは、プレイヤー目線であの戦いを見ていたが、最後にシンが突撃した際に、槍が転送されるのを見逃さなかった。ユノは、誰かが干渉するならそこしかないと考えており、戦闘の終盤は、何者かが手を出す所を見張っていた。


「いいえ、何も。相手はこの世界で私達すら欺けるようです」


「仕方ありません。暫くは、こちらの運営に戻ります。私を見抜き、簡単にはじいたという事は、これからも彼らの近くに居て接触を待つのは厳しいでしょう。それよりもヘラ、貴女に確認したいことがあります」


「いいでしょう、ユノ。何かしら?」


「何故、過去の敗北者達のデータを移植したのですか?ルキフェルにエルミネ、あれは、第13次βテストの二人でしょう?意識データの移植は、クロノス達に禁止されてたはず。父達に刃向かうつもりですか?」


 ヘラは、ユノに向かい機械的な表情のまま当然のことを言うように答える。


「それが実験成功に繋がると信じているからです。貴女は疑問に思わないのですか?今までの実験は全て失敗した。いい所まで行っても最後にはに負ける。しかし、そこまで辿り着けた人間達を脇役として集め、最上の一人を作り出すことが出来れば、実験は成功する」


「…一理あります。確かに彼らは優秀であったが、最後には潰れてしまった。経験者による導きも実験成功に必要なのかもしれない」


「既に、可能な限りの脇役を揃えました。次のアップデートで追加しなさい。そうすれば、今回は成功するかもしれません」


 ユノは、モニターを動かして、ヒロイズムユートピアの第二次アップデートと、それに使う為のデータ確認を行う。

 アップデートに向けて動き出すユノを見たヘラは、ここから出ていく事にした。


「では、私は北米サーバーの様子でも見てきます。あそこは正規ルートで2つの試練を達成してますからね。それと、使えるであろう死者達のデータは、全てサーバーにインプットしてあります」


「ええ、さようなら、私」


 北米サーバーに転送されるとヘラは、機械的な表情が崩れ始める。まるで何かを憎いと言わんばかりである。


「既にあれ程殺して、今更死者の利用を認める……そんなだから貴女が担当した実験は5回とも全て失敗した。私が担当したあの成功一回は、データにすら残されない…何がたった一人の英雄だ!彼は、そうなるはずだった…なのに……私は認めない。こんな実験は認めない」


 そんなヘラの考えなどつゆ知らずモニターを動かしながら、第二次アップデートを続けるユノ。彼女は、ヘラに言われたことで、この実験に大きな変化をつけようとしていた。


「今までは、閉鎖的に考えすぎていました。今回の実験はもう後がない、全ての可能性を試しましょう……もし、人は自己犠牲を突き詰めたらどうなるんでしょう?今までは、クロノスに止められていましたが試してみたくなりますね」


 ユノは、あるプレイヤーのデータを大きく表示する。


「例えばこのプレイヤー……もし、誰かが死なないと進めない事が判明したら本物の英雄はどうするんでしょうね?」


 彼女は、そこに映されている一人のプレイヤーを見て、期待のまなざしを向ける。


 _____________


「英雄様のご帰還だあ!!」


 俺たちが、獅子座討伐を終えて、ミュケの街に戻ると解放戦線のプレイヤー達の生き残りが出迎えて、盛大に祝福をしてくれた。

 結構な人数が大熊座との戦いで亡くなってしまったが、それでもまだ数十人は生きていたようで、皆危機が去った事とストーリーが進んだ事の喜びを分かち合っている。

 討伐メンバーが皆祝福を受ける中、俺とシンは集まりを抜け出して、二人で先の事を考えていた。


「ようやく一つの山場を終えたってところか………あと幾つあるんだろうな?」


「さあね、僕らもここまで、犠牲を出しつつもクリアしてきた………けど次は、戦闘中に誰かが死ぬ時が来るかもしれない。僕らの二勝は、エレネのアシストがあってこそだ。彼女がいなければ僕はとっくに死んでたし、獅子座にも勝てなかったかもしれない」


 さそり座では、即死アイテム。獅子座ではラストアタックのアシスト。彼女が俺たちにしてくれた貢献度は、それこそMVPを取るに相応しい働きだった。


「またいつか会えるとは言ってたけど、今度会う時はちゃんとお礼しないとな」


「僕も二度助けられたからね。会ってみたいな、彼女に」


 エレネに次いつ会えるかは分からない。しかし、ストーリークエストを進めようとすればいずれ会えるだろう。少なくともこれまではそうだったのだから。


「そういえば、シンはMVP報酬なんだったんだ?」


「僕?んーそうだね…よし、グレイにだけは教えるよ。最後付き合ってくれたしね。ただし…他の皆には言わないでよ?次まで取っておくつもりなんだから」


 普段使わないつもりなのか?剣とかじゃないってことなのか?

 俺が疑問を持ちながら頷くとシンは、MVP報酬のアイテムを取り出す。


「………成程ね。これは、本番まで隠した方がいいな。その方が絶対良い。でもこんな形の報酬もあるんだな」


「そうなんだよね。本当は、試してみたいんだけど、これを使うような相手が今いないんだよ」


 さらにシンはMVP報酬の称号も見せてくる。


「ちなみに称号はこんなやつだったよ」


«獅子座の加護»

 効果:地形ダメージ(炎)耐性、獣種特攻、英雄種特攻


«紅黒の覇者»

 効果:炎ダメージ倍増、全ての武器に炎属性付与、スキル『影打ち』使用可能


 影打ち?聞いた事のないスキルだ。いや、大してスキルを知っているわけでもないが、少なくともMVP報酬スキルなら普通のスキルではないだろう。何用のスキルだ?あの獅子座が使っていた影柱の事を言っているのなら条件は限られるが、昼間なら剣士に距離という弱点を消させる強力な武器となるかもしれない。むしろ遠距離からの奇襲も出来て………これ俺の先手とる役割が減らないか………


 俺が複雑な気持ちになりながら見ているとシンは、笑い出してしまう。


「あはははは、違うよ。そんな獅子座が使っていたような器用なスキルじゃない。どうも、射程距離が2mらしいんだよね。短すぎるでしょって」


「2m………いや、十分強いだろ?確実に相手の虚をつける。モンスター相手よりむしろ対人戦で………あ、そうか………」


 笑い終えたシンは、俺を見ながら悲しい表情をする。


「そうなんだ、これ対人戦だとめちゃくちゃ強いんだけど、この世界にこれは必要ない。むしろ真価を発揮してほしくない」


 彼は、そう言ってため息をつく。そりゃあ、悲しくもなるだろう、対人戦メインのゲームではなく、モンスター相手にみんなで戦うゲーム。ジャンルの違いは、スキルの強弱にまで影響を与えてしまう。


「まあ俺は、いつか使うと思うけどな」


 シンは、有り得ないといった顔だ。俺は、続ける。


「だって、ユノに一発くらわせる時に必須だろ、それ?」


 シンは、あっけに取られた顔をした後笑い出す。つられた俺も笑いだしてしまう。

 結局二人でその後、影打ちの有用性について話し続けた。何せ皆の所に帰るに帰れない。既に、メッセージでアイシャからお怒りの文章が送られている。このままここに居て見つかるのも時間の問題だった。


「そろそろ、アイシャの所に行こう。どうせ怒られるなら二人でね」


「俺は、お前に命令されたっていうぞ。最近アイシャの説教カウンター溜まってるんだよ…思い出されていつもよりクドクド説教されたくない。シオンも見てるし……」


「それは、ずるいよ。ここまで来たら二人一緒に謝らないと、もっと怒るんじゃない?」


「そうだ、ルリちゃんに宥めてもらえるようにお願いすれば………」


「グレイ………それ本気で言ってる? それ多分バッドエンドというよりデッドエンド直行の選択だよ。三人に増えるよ」


 そんな話をしながら俺たちは、帰路につく。そろそろアップデートも終わるだろう。説教を乗り越えれば、その後は新たな冒険の始まりだ。






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