第21話 鉄壁の獅子座 part【FINAL】

「上は気にせず走れ、露払いは俺がやる!」


 シンは、俺の指示を信じて、駆け抜ける。その顔には、迷いも恐怖もなく、ただ俺を信じて突き進むという意思を感じる。


「2人とも、何する気!?」


 いきなり走り出したシンに驚くアイシャは、俺にどういう状況か尋ねるが、説明している暇はない。

 すまん、終わったら2人で幾らでも説教される覚悟は決めた。

 先の影打ちの弱点は既に分かった。隕石の対処も策はある。後は俺の武器とシンの攻撃次第。


「影打ちは月に照らされた場所からしか出てこないはず。なら空を全て塞ぐ!」


 影打ちは、穴が空いてから出始めた攻撃で、サフランのソナーで的確にプレイヤーを狙っている事が分かっていた。

 隕石の速度は、予め予測していないと避けれない速度である。ゲームの世界だからなのか、着弾時の周囲への被害はない。それならば、落ちる前に全て蓋をすれば良い。

 俺は、刀身が液状化し始めたポラリスを振るう。液状化部分は、ゴムの様に伸び始め、ぐんぐん空へと延びていく。


「穴をふさげ、ポラリス!」


 俺の手元から完全に離れたポラリスは、上空でぽっかりと空いた空を青い色で覆い染め上げる。その上を隕石が落ちるたびに、青いスライムが衝撃を吸収するように延びて威力と速度を抑え込む。


「ポラリス!着弾2秒後に変異解除しろ!」


 俺の指示を受けたスライムは、青く延びた部分を徐々に解除していく。そこからまた隕石は、降り始めるが、既に落下予測地点にシンはいない。


 月の光が消えた事で一直線に獅子座に近づいていくシン。獅子座もシンに向けて攻撃態勢に入る。


「グレイ、あれは魔法じゃ弾けねぇぞ!」


 デッドマンに言われた事など既に分かっている。その為のポラリスだ。切り札は本当の最後の最後の最後まで取っておく。それが俺の必勝法だ。


「ポラリス、突然変異メタモルフォーゼコード『The deadly scorpion』」


 獅子座の前足を弾くように、その巨体が現れる。あまりの反則性故に、持続時間は僅か数秒。

 しかし、変身したさそり座は、ガワとはいえあのストーリーボスだ。同形態なら一撃を弾くステータスはある。

 さそり座は、あの戦いで進化の果てに辿り着いた強靭なハサミで、獅子座の攻撃を弾く。


「なに…あのバケモノ………」


「あれ…もしかしてさそり座?獅子座より強そうなんだけど、にいちゃん達本当にあれ三人で倒したの?あり得ないでしょ…」


 シオンがその禍々しさに引き、サーカスがあり得ないと、討伐に疑問を持つ。それくらいのバケモノの一体。ここから先は、命を賭けたあいつに全力を出させる為の全力の露払い。


「シン、尻尾に乗れ!」


 シンは、疑うことなくさそり座の尻尾に乗る。同時に、大森林の巨人を一撃で葬った槍が獅子座に向けて発射される。

 この槍はあそこに必ず届かない。元々さそり座模倣コピーは、一瞬だけステータスを維持できる限度で、尻尾に威力を乗せたまま使う事は出来なかった。だから、使うとしたら精々ロケット代わり。

 それでもチャンスは、作った。たった一度のチャンスを決定打に変えられる男に、繋ぐ事は出来たのだ。あとは、任せるしかない。


「ゼロから1にはしたぞ、後は頼んだ」


 射出される尻尾は直ぐに消えていく。親友が作ったこの一回限りのチャンスで、この槍は何が何でも獅子に一撃届けなければならない。


「決めるよ、スキル『ディア・カリスト』」


 アルカスの監視槍が獅子座の頭に突き刺さる瞬間、槍の先端は溶け始める。僅か一秒足らずで消える槍先。これでは届かない。


「しまっ……」


 シンの目で見えるステータス画面には、急速に減る体力のゲージバー。状況を理解したヒーラー二人が一生懸命ヒールを送るが、焼け石に水と言った所で、シンの体力も後もって数秒。流石の彼も思考が崩れ始める。しかし、脳裏に浮かぶのは前回の敗戦。また武器の所為で負けるのか。


(ふざけるな、こんなことで…また二人に謝罪しながら死ぬのは嫌なんだよ!)


 閃光と共に彼の手に一本の槍が現出する。その槍は僅か数秒前に溶けたあの槍。はっとしたシンだったが、残った力でそれを押し込む。槍が刺さった瞬間、爆風と共に吹き飛ばされる。


「シンッ!!」


 爆風に吹き飛ばされて落ちてくる親友を俺は、全速力で受け止めに行く。

 ………そういえば、受け止めきれるか分かんないや………

 先程リミアよりも弱い筋力と分かっていたのに、咄嗟に飛び出してしまう。

 案の定、俺はシンに押し潰されてしまう。


「あはは、ごめんグレイ。クッション代わりにしちゃった。着地するつもりだったんだけど、自由に身体が動かないんだよね」


 そう言って、俺の上に座っている親友は、爽やかな笑顔を俺に見せる。

 謝る前にどいてほしい…そう思っていると、沢山の足音が聞こえてくる。


「シン!」


 アイシャが俺を踏みつけて上のシンに抱きつく。続けて、他の馬鹿達が俺をワザと踏みつけて、シンに抱きつきながら彼の栄光を讃える。


 散々踏み台にされる中、なんとか集団這い出た俺の前には、シオンがしゃがんで待っていた。


「お疲れ、お兄ちゃん。全部シンさんが持っていっちゃったね」


「次は、俺が最高にカッコ良い所見せてやるから楽しみにしとけ」


 シオンは、柔らかい笑顔で俺に手を差し伸べる。彼女の手を掴み起き上がった俺は、今も揉みくちゃにされてるシンの方を見る。

 大きく空いた穴からは、昇り始めた朝日が見え始める。不意に、シオンは俺の話をする。


「でも、お兄ちゃんもカッコ良かったよ。今までのトップ3に入るカッコ良さだった」


「因みに今の一位は?」


「内緒っ、だから最高にカッコいいお兄ちゃんが見れるの待ってるね」


 そう言って、今度はいたずらな表情で笑うシオンを見て、俺は必ずこいつを守り抜くを深く胸に誓う。


「congratulation!!ストーリークエスト『光飲み込む、黒の暴君』をクリアしました。これより、≪Heroism Utopiaヒロイズム・ユートピア≫の第二次アップデートを開始します」


「The Impregnable Leoの討伐報酬が参加者全員に配布されます」

「The Impregnable Leo討伐MVP:シン」

「The Impregnable Leoの討伐者とMVPに称号が付与されます」


 討伐参加者達に揉みくちゃにされつつもシンは、手元にあるもう一本のアルカスの監視槍εモデルに、疑問を持つ。


(あの時現れたこれは一体どこから…ステータスも僕のじゃない。グレイの言う彼女の仕業かな?)

 __________________


 獅子座が地に伏せ、その隣で喜びを分かち合うプレイヤー達。そんな光景を洞窟の上から覗き込むように見つめる少女がいた。彼女は、満足そうな表情で小さく拍手していた。


「最高にカッコ良かったよ、グレイ。それに、私の望み通りの終わり方だ」


 彼女の首に巻きついていた蛇は、何かを訴える。


「ああ、あれ?いいでしょ、超耐熱コーティングしたアルカスの監視槍εモデル。この世界にある火に連なるもの全てに対して、絶対の耐性を誇るんだよ。昔、みんなでふざけてやった武器強化の限界突破チャレンジで生まれた究極の一品だよ。思えばあの時、この槍を耐熱コーティングしたのは運命だったのかもね」


 蛇は、呆れたように頭を落とすと、穴の中ではしゃいでいるプレイヤー達を見て、唸り声をあげる。


 聞こえるはずのない小さな音。しかし、そのはしゃいでいたプレイヤー達の内一人は、エレネの方を向く。


「うん、あれユノだね。流石に、グレイにずっと付きまとわれちゃダメだ。それに入物にされてるあの人もこの世界に帰ってきてもらわないと。私が見えれば彼女は一旦諦めるはず」


 エレネは、煌びやかな宝石が飾り付けられたマスケット銃を魔法陣から自らの手元に呼び出す。

彼女は、真っ白な弾丸を一発だけその銃に装填し狙いを定める。


「ラルド、特別弾頭装填『エクソシスト』チートで弾き出せ


  彼女が引き金を引くと、弾丸は音もせずに、一直線に一人のプレイヤー目掛けて発射され、あるプレイヤーに命中する。すると、そのプレイヤーは、その場に倒れこみ気絶する。グレイ達が、そのプレイヤーに駆け寄るのを見たエレネは、いつもの様にフードを深く被る。


「また、会おうね、グレイ。さ~てと、次はアメリカの救世主に会いに行くか~」


 瞳の色を青く変えた彼女は、テレポートと唱えて、また何処へと消えていった。


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 獅子座討伐時同刻

 ≪???≫-英雄の扉

 

 獅子座が消えた事で、扉に新たな変化が示される。獅子の絵の水晶は、瞬く間に緑色に輝き始める。それにより、さそりの時とは明らかに異なる変化が訪れる。扉全体が光出し、暗闇に染まっていた扉の全体像が映しだされる。

 さそりと獅子、その二つと同じように、水晶が埋め込まれた大きな絵、その数残り十体。

 それぞれが鮮やかな色をした生命であり、進むべき道を阻む敵となる。今この時、勝利に酔いしれている彼らがたった一人まで消えたとしても、最後の一人はここに辿り着かなければならない。




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