第19話 鉄壁の獅子座 part【2】
「それじゃあ行くわよ、グレイ!」
「了解、『ライトニングレイ』!」
俺が放つのは、最初から全開のスキル。放たれた矢は、当然命中し対象を毒状態にする。
ここまでは、さそり座戦前に決めていた作戦で、これが決まらないと始まらない重要な一撃。ここは、称号により確定で毒状態にできる。だから心配はしていない。問題はここからで、体力の底が見えない奴と限界ギリギリの持久戦をしなければならない。
「作戦通りに三人ずつに別れてタンクに入って。後衛は全力攻撃!いくら防御が高くても僅かなダメージは入るはずよ!」
獅子座との戦闘はシンが持ち帰った情報を基に、前衛を3チームに分けて、代わる代わるヘイト管理をする事で何時間かかるか解らない持久戦を凌ぐ作戦となった。
最初にヘイトを取るのは、シオン、大佐、サーカスである。一番DPSが期待できるミル、シン、JBの三人は、攻撃に集中してもらい、デッドマン、ミア、アオイの三人がシオン達と交代でヘイトを取る。
予想通りミルの打撃攻撃は、獅子座に通用しており上がったレベルも相まって、目に見えるダメージを負わせている。
しかし、それ以上にシンは、先の大熊座戦で手に入ったアルカスの監視槍εとクラスアップした二次職『騎士』としての槍に対する適正補正、
さらに、さそり座でも報酬である防具『スコルピアーマー』の英雄種特攻と毒状態特攻により、ミルを超えるペースでダメージを出していた。
彼ら前衛の役割は、あくまで敵を引き付ける事だが、シンが前に思いついていた対策とは、常識的に考えて肉質の柔らかい所なら斬撃を通るのではないかというもの。
つまりは、さそり座や大熊座でも行っていた眼や口内への集中攻撃である。シン曰く、ずっと色んな敵相手に試し続けていたらしく、この手段は救済措置だとか何とか言っていたが、俺からすれば、常時そんな所を狙い続けられる奴用のギミックなど救済措置でも何でもない。
「シオン君は、なるべく獅子座の攻撃後に攻めて下さい。サーカス、貴方はなるべく攻撃してくださいね」
「はい、分かりました!」
「は~い」
軽い返事をするサーカスだが、飛びかかってくる獅子座の攻撃をころんと前転して避けて、すれ違った振り向きざまに、自分の何倍もの大きさの獅子座の小さな眼球目掛けて正確にナイフを投げる。
「俺、身長小さいしナイフだしでシンさんみたいに部位に届かないから、
「ですが、その投擲技術の高さが貴方の売りでしょう?」
「ま~そうなんだけど。今回は、あんまり活躍できそうにないね~」
シオンは、吞気に会話しながら獅子座と戦い続ける二人に比べ、攻撃を見極めるのが精一杯で攻撃にはまだ参加できそうになかった。
しかし、完全に避けきれるわけではない。そのため被弾時用の盾を装備し、なるべく攻撃を受け流しながらタンクとしての役割だけは果たそうと、必死に食らいつく。
ヴァルキュリアが獅子座に加入したことの最大の利点は、ヒーラーが増えた事である。元々リミアしかいなかった為、範囲攻撃や必中攻撃で半壊する可能性もあった。
しかし、ルリという神官がいることによって、パーティーの前衛三人を安定して生かせる事が出来ていた。そもそも、あまり被弾しないような奴らではあるのだが…
戦闘開始から1時間半経過した頃、獅子座の体力は、明らかに減り始めていた。主に、アイシャやミルのお陰だろう。シンの攻撃もすさまじかったが、現状の最強魔法職は伊達ではない。アイシャの魔法によるダメージは、使用間隔こそ長いものの与ダメージは、ずば抜けている。
彼らによって、獅子座の体力は目測で残り8割といった所である。そうなれば当然あれがくる。体力の減った獅子座は、一旦俺たちと距離をとる。
「おい、アイシャ何か変だぞ。このパターンは…」
「来るわね。予想の範囲内よ」
さそり座でさえあった現象だ。恐らく形態変化による最適化。形態変化が終わったのか獅子座が進化の雄叫びをあげると自身の周りに火球を浮かべて、それが
かのさそり座は、部位を増やして攻撃範囲を広くしていた。対して獅子座の形態変化は、防御に寄せた変化。物理攻撃要員でダメージ源になれるプレイヤーが少ない現状で最も辛い変化である。
「こいつ、遠距離を殺しに来やがった。アイシャ、プランBで行くぞ!」
「了解よ、グレイは今入って!」
現在のタンク役はシオン達である。サーカスと大佐は、動きの変化に追いついているがシオンは急な変化にまだ追いついていない。
大佐が挑発スキルでヘイトを引っ張るが範囲攻撃がそろそろ来てもおかしくない。となれば、ここで切り札を切る。
「さあ、お披露目だ。ポラリス!」
大熊座との戦いでMVP報酬として渡されたこの何か。変幻自在ポラリスとされているその何かは、かの勇者エルミネが持つ聖剣と変わる。
俺は、シオンと獅子座の間に割って入り、ポラリスを獅子座の引っ搔き攻撃に合わせて振りぬく。ぶつかり合う互いの矛は、引き分けという形で、相殺に持ち込む。その武器を一番近くで見たシンは俺に聞いてくる。
「それ、エルミネの剣じゃん。今度はどんなチート武器?」
「アンタレスほどチートじゃない。これはコピーだ、贋作であって本物じゃない」
『変幻自在ポラリス』。スキルは、『セブンスミラージュ』。一日一度ずつ予め登録した七種類のアイテムに変化できるスキル。今回は、俺がエルミネの聖剣デュランダルを登録していたのでその形で現れた。欠点は、見た目に大きくリソースを割いているのかステータスは、1から100%までバラツキが多く、ものによっては、ほとんど模倣出来ないのもある。
「でも、折れない剣なら充分だ」
シオンも庇う形で、前衛に入った俺は、出来る限り時間を稼ぐ。流石にシンみたいな芸当はできない。だけど、耐える事は出来る。
火球という範囲攻撃の対象範囲に後衛が入っても、それを俺が防ぐ。前と違い対策されても自分の出来る事を増やせば勝利につながる。勝ちを目指して、それを掴むならこれしかなかった。
「グレイさんって錬金術師系列のクラスじゃ…」
後ろで見ていたマナロは、弓をメインにしていたグレイの動きが他の前衛組と遜色ない事に驚いていた。
「当然。グレイは、あれでも私達とタイマン張れるぐらいは動ける。変なところ自己評価が低い。絶対シンの所為」
隣で支援魔法主体に切り替えていたサフランは、マナロに自慢げに話す。
「あんたも原因の一端よ、というか私達全員が原因でしょ」
アイシャは、日頃サフランのような超感覚、シンのような超直感、そして反則ギリギリのラプラスと戦い続けられる人間がまともな反射神経を持っているわけがない事とただ彼らに勝ち越せないだけで自己評価が低めになる
「あの魔境を普通とだけは思ってほしくないわ…」
ため息をつきつつ、彼女は、アルカスの監視槍βモデルを構えて、アオイ達のチームに合流する。そして、そのまま前衛に加わる。
「そうだよね…グレイさんが出来るならあの人も出来るんだよね…」
マナロは、後衛の常識をぶち破るような二人を見て力の差を感じていた。
更に、2時間が経過した頃、獅子座の腹の部分が真っ赤に染まる。
「何かヤバいのくる!全員僕の後方に避難して!」
シンの警告と指示に従い総勢17人が彼の後ろにつく。獅子座の腹部で真っ赤に染まったそれは、徐々に上へ登り始め喉元に届く。そして、辺りを焼き尽くすような業火の熱風が吐き出される。
「来たね、『ヴェノムサンクチュアリ』起動!」
シンを中心に半径10メートルに紫の花畑が広がる。獅子座の業火は数秒にわたって吐きつけられるが、その聖域は何物もを寄せ付けない完璧な守護結界となっていた。
「一日一回限定のスキルだ。あらゆる攻撃を完全に無効化する」
耐えきった俺たちを見た獅子座は、黒く染まる体毛を怒りを表すかの様に赤く染め上げて形態変化する。
残り5割、勝負は後半戦へと突入する。
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