第18話 鉄壁の獅子座 part【1】

 ≪北エリア ミュケ ≫-東門前 

 

 十数人のプレイヤー達は獅子座討伐に向けてこの地に集合し、門の前で各々大熊座の戦果を確認していた。彼らは戦果として得られた武器の性能なども確認に時間を費やしていた。

 その中でアイシャは、戦果の内特に称号を確認しながら彼の到着を待っていた。


(報酬武器は殆どのプレイヤーがアルカスの監視槍とかいう武器、グレイだけは別のが追加であったらしいけど…それと称号は……あぁいつも通り英雄種特攻ね。あとは、親子特攻?なにこれ、よくわかんないのも入っている事が有るけどこれは一番意味不明ね)


 彼女達が待っているのは、毎度のごとく遅刻の常習犯グレイである。彼はこういう時必ずといっていいほど最後に来る。

それは分かっている、いつものことである。


 しかし、それと同時に問題を抱えてやって来る事も多かった。例えばそう…今回のように。


「あ、アイシャ、グレイ来たよ」


 シンに言われてようやくかと彼の方を見ようとする。いや待て、ってなんだ、ここにいないのはグレイだけのはず。他に誰か忘れていた?


 彼女が顔を向けるとヴァルキュリアのパーティーの共に歩いてくるグレイの姿が見えた。緊張の色も見える彼女達だったが、アイシャはそんな事は、目にも入らない。来ない、いや来させないつもりだった彼らがいた。リミアに流されるままに大熊座に連れて行ったのはいい。

 しかし、彼女達は目を見張る活躍をしたかといえばお世辞にも言えない。

 だから、彼女達を傷つけないように、街の修復という体で自分たちと引き離したのだ。

 それなのに……彼女達はここに来ている、来てしまっている。

 彼女達と共に歩いてきたグレイは、アイシャに向かって早速説得を試みる。


「アイシャ、俺はヴァルキュリアも連れてくぞ。文句ないな?」

「大有りよ、私言わなかった?復興支援させるって」

「ライオットに許可はもらった。ここにいるのは彼女達自身の選択で強制はしていない」

「関係ない、足「アイシャ」」


 アイシャの言葉をグレイは、最後まで言わせなかった。その言葉を彼女の口から言わせたくなかったのだ。


「逆ならお前はどうした?二人に従った?」

「…………………」


 アイシャは、ルリの眼を見つめていた。真っ直ぐと自分を見つめる妹の瞳をみながら、グレイに言われた事を考える。もし、私なら……

 しばらくした後、説得は諦めたようで、くるりと背を向ける。


「勝手にしなさい」

「お姉ちゃん…」


 結局アイシャは、同行は認めたが快く迎える事はなかった。しかし、メトロイアの時とは違い完全に拒絶しなくなっただけ、彼女にも思うところがあったのだろう。こうして、総勢18人のプレイヤーが獅子座討伐に向けて、出発していった。


◇◇◇◇


 ミュケの街から出た後、洞窟に到着したアイシャ達は、突入に向けて最終確認に入っていた。シオン達ヴァルキュリアが各々覚悟を決める中、彼らはと言うと。


「良し、サフランレーダー。お前は灯りと索敵担当な。お前のが頼りなんだ、頼むぜ?」

「最悪、一昨日の所為で、変な担当になった」

「聞いてた通りだと、眼と口内は斬撃が通る可能性があるんだよね?ボクのナイフなら余裕だね」

「女性6人を守りながら戦う騎士プレイか。俺に合ってるな」


 サーカスとJBは、今から戦う事が嬉しいように見えるのに対して、ジュノーとミアは、不満もあるようだった。


「はあ…洞窟内にいるっておかしいじゃない…コーちゃん使えないし」

「結局またモンスター……」


 そんな彼らをノアは、不思議そうに見ていた。


「変な人達だよねえ。これからめちゃ強い奴と戦うのに、当たり前の事をするみたいにリラックスしてる。ジュノーさん達は文句を言ってるけどやる気あるみたいだし」

「頭のネジが外れているんでしょ。MBOって何?そんなゲームあったなんて知らなかったわ」


 マナロの言う通り、シオンはグレイがやっているから知っているだけで、TVのCMなどでも見かけたことのないゲーム名である。月下は、彼の所為ヒューガで知ってはいたがプレイはしておらず、アオイとルリも同様であった。


「知りたい?MBOの事?」


 シオン達が後ろから急に現れたサフランに驚き声をあげる。


「ごめん。驚かせるつもりはなかった。話が聞こえてつい…」


 サフランは、シオン達を驚かせるつもりはなかったのか、ばつが悪そうにしている。彼女は今聞こえてと言ったが、先程話していた所からマナロは、周りに聞こえないくらいの小さい声で喋った筈。なのに、彼女は当然のようにと言っていた。


「あんまり聞いた事ないゲームだなーって」


 ノイがそう言うとサフランは、


「そうかも、古いし宣伝もあんまりしてない。というか運営がテキトー、だけどプレイヤーは親しみを込めてこう呼んでる。『人類排他魔境』って」

「何それ?やってる人は人間じゃないって事?」

「そうじゃないけどそうと言うか…難しい。こういう事はアイシャるーざーとか大佐の方が得意」


 ルリは、少しむくれて聞く。


「何でお姉ちゃんの事、敗者ルーザーって言うの?」

「それは、彼女の在り方の所為、彼女は、シンに。だから敗者るーざー、あの魔境で最初にシンへの勝ちをから」


 ルリにとっては、アイシャが諦めた理由が分からない。一昨日も圧倒的強さを見せつけたはず。それなのに、彼女の友人達はこぞってその呼び方を変えない。


「何してんだ、サフラン。お前が来ないと始まんないだろうが」

「時間、後で話そう。じゃあね」


 サフランは、デッドマンの下に戻り洞窟に先頭で入っていった。それに続いて他のプレイヤーも突入していく。彼らの獅子座捜索が始まった。


 先頭のサフランが前方に光源を飛ばしつつヴァルキュリアをその他のプレイヤーで囲うように進行していた。サフランは、立ち止まる事なくすいすい進みシオン達もモンスターと一切遭遇しない。シオンは隣で欠伸しながらマッピングしていたサーカスに尋ねた。


「サーカス君、サフランは、どうして初めて入るマップで迷わないの?」

「あーそれはねえ、彼女がだから」

「そんなスキルがあるの?」

「違うよ、元から。つまり、。サフランは五感がとんでもなく鋭いんだよ」


 曰く、プールに一滴加えたシロップの種類がわかる。400m先の看板が裸眼で読める。1km内なら集中すれば、音を発信源から正確に拾える。舌は絶対味覚で肌は僅か0.1℃単位の温度変化にも気づけるらしい。先程シオン達の話を聞き取ったのは特化聴覚によるものだろう。


「めちゃすごじゃん!そんなの有りなんだ!いいなあ、毎日面白そう」


 隣で聞いていたノイが目を輝かしているのに対し、シオンは、疑問を抱いていた。


(そんな人いるとしてもゲームで再現できるの?いや、出来ているから凄いんだろうけどさ)


「サーカス君とかサフランちゃんってMBO何位なの?」


 何気なく気になって聞いた質問、普通なら快く返すような問いなのに、サーカスの顔は険しくなる。


「今まで他の人にその質問してないよね?にいちゃんは聞かれたら優しいから言うんだろうけど、他の人には聞かない方がいいよ。これは忠告、一つ言うなら俺らに順位なんてもの1位とそれ以外しかない。1位でないなら皆同じ。アイシャは、最初に2位を認めてしまった。だから彼女は、負け犬なんだ」

「………それって、シンさん以外は皆順位はあってないようなもの?」

「そんなものじゃない。あの世界に1位以外は本来価値を付けてはならない。それが鉄の掟だよ。俺がにいちゃんの事を尊敬してるのは、初めて…いやいつもか…シンさんに勝てるから。1位に勝てるという事実だけでもあの世界では価値が生まれる」


 狂気的なまでの首位至上主義。シオンは、兄がいた世界がただのゲームで片付けられるような世界でない気がしてきていた。そう片付けるには、彼らは特別過ぎる。


 数分後、前を歩いていたサフランが急に止まる。合わせてパーティー全体の進行も停止した。


「見つけた。皆、この先によ」


 彼女が光球を前方に浮かばせると、大きな扉が見えてくる。


「なんだこれ?おい、シン!こんなのあるなんて聞いてねえぞ」

「おかしいね。前来た時はこんなの見なかったと思うけど…」

「でも間違いなくここから異質な風を感じる」

「んじゃまあ、行ってみますか」


 サフランの感覚を信じたデッドマンが扉を押し開けると、中は大きな空洞となった空間になっていた。俺達が奥に進むと、壁に設置されていたランプのようなものに次々と灯りがつく。

 そして、暗闇から銀のたてがみに黒い体毛の獅子が押し潰すプレッシャーをまき散らしながら出てくる。隣のシオンは、緊張しているようだが足は震えておらず、しっかり戦えるようだ。前にいるデッドマンは笑いながら、


「ハハハ!最高だな。こんな機会滅多に味わえないぞ、お前ら」

「本当だよ、こんな戦い一生に一回で充分だ。勝ち筋は俺が作る。後は頼むぞ、皆」


 獅子座は、前足に力を込め威圧するように咆哮する。二つ目のストーリークエストが始まる。


「これより、ストーリークエスト『光飲み込む、黒の暴君』を開始します」




 名前:The Impregnable Leo鉄壁の獅子座

 レベル:閲覧不可

 HP:閲覧不可

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