第15話 VS大熊座_ミュケ消滅をかけて part【4】

 大熊座が墓場から街の中心部へと進行し始め、住民達が逃げ惑う中、俺たちはその反対方向へ駆けてゆく。


 目視で確認できる距離になると、ルキフェルからグレイに向けて指示が出される。


「グレイ、もう毒矢は解禁だ。思いっきりぶちかませ!」


 言われるまでもない、と俺は、アンタレスに久々に毒矢を番えて、功毒者にクラスアップした時に覚えた新スキルを使う。


「『毒強化』《プラス・ポイズン》、『毒攻撃威力強化』《パワード・ポイズン》」


 更に、称号効果による強化を含めて、アンタレスのスキルで放つ。


「『白雷神槍』《ライトニングレイ》!」


 一直線に飛んでいったレーザーのように太い矢は、大熊座に直撃し、そのまま奥へ吹き飛ばす。


「うっはあ~何だよそれ。チートじゃねえか」


「いいなあ、にいちゃんの武器。獅子座倒せば僕ももらえるかな?」


 デッドマンとサーカスが羨ましそうにアンタレスを見つめているとシンが、


「MVPならこのぐらい強い武器がもらえると思うよ。参加者だった僕の防具も強いけどここまでチートじゃないし」


「それを聞いて獅子座とやらと戦うのが楽しみになって来たぜ。なあ、ミア」


 デッドマンは、今日まで殆ど話さず寡黙についてきた相棒の少女に話かける。


「…………………………」


「おい…黙ってないで何とか言ってくれよ。悪かったって、お前はこいつらと戦いたかったんだもんな……でも、後で、必ず殴り合う時間は作るから」


「何言ってんの、犯罪者。僕は、そんなのごめんだからな」


「…………なら、いい…………後で、こいつと戦う」


 ミアは、短剣を取り出して、手元でクルクルと回しながら、


「…………約束…守ってね…」


 それだけ言うと、短剣を逆手に持って、大熊座に突っこんでいく。


「あー、僕も行く~」


 短剣を取り出したサーカスがそれに続いていく。


 大熊座が俺のスキルから起き上がった所に、ミアが切り込んでいく。

 彼女は、大熊座のスライム攻撃を軽々とかわすと足を切り刻んでいく。

 すると、スライムの先端が細くなり色が変わる。


「気を付けろ!回避不可の攻撃が来るぞ。タンク役が挑発で受けろ!」


 あれ?ウチにタンクっていたっけ??シンがそんなスキルを持っていたようななかったような…


挑発タウント!」


 スライムの攻撃は、挑発スキルを使用した大佐の方へ向かっていく。ルキフェルがそれに合わせて、


「『防御力上昇』《ディフェンド》、『持続回復』《ターンヒーリング》、『急所無効』《クリティカルカット》」


 支援魔法を受けた大佐が装備している盾と片手剣で、何とか受け流す。HPは8割近く削られていた。


「あんた、かなり防御寄りのビルドだな。お陰で凌げそうだ」


「いえいえ、君の支援がなければ今ので私は、死んでいましたよ」


 そういえば、こういうタンクに向いてそうなあいつは何やってんだ、とミルを探すと彼女は、大熊座の懐に飛び込み、殴り込む。


「はああああ!!!」


 彼女の素手による重い攻撃を受けつつ反撃しようと、背中のスライムを動かす大熊座の眼に投擲された短剣が刺さる。


「ヒット!ちょろいね!」


 サーカスが4本の短剣をジャグリングしながら言い放つ。


「あ、ミル~僕の短剣ついでに抜いといて~」


 ミルは、両手で二本の短剣を抜き取り後ろに放り投げる。

 サーカスは、それを受け取り直ぐにジャグリングさせる。


「な~いす」


 俺は、ミルと行動していた大佐に聞く。


「ミルの奴タンクじゃないの?絶対そういうタイプだと思ったんだけど」


「ああ、ミル君はアイシャ君を絶対に離さない為に、STR極振りのビルドにしているらしい」


「当然です。私は、お姉さま以外からの接触は断固拒否していますので!!一流は、どこまでも拘るものなのです!!」


 聞こえていたのか、ミルは殴りながら俺の質問に答えていた。

 俺は、また弓を構えると隣のデッドマンも弓を構える。


「なんだ、お前も弓使いにしたのか」


「ちげえよ、これならモブを暗殺しやすいだろ?」


 デッドマンは、やはり犯罪者デッドマンであった。

 こいつ、どうせ盗賊とかだろうなあ。

 俺とデッドマンの放つ矢を前衛で戦っているミルは、見ずに全て避けきる

 。そのかいもあり、矢は大熊座に全命中する。


「ミルの奴、どんどんシンに近づいてる気がするんだけど…」


「あいつ、アイシャがいねぇ時は、ちゃんとしてんだよ。いると腑抜けるけどな」


 そこへシンとJBが走って行きミルとすれ違い様に入れ替わる。


「ミル、僕と交代!大佐、カウントの待機時間は?」


「後15秒といった所だ」


「グレイ、調整よろしく!JB、当たるなよ!」


「お前と並んだら当たるわけにはいかないだろ!」


 シンに押し付けられたのは、第五形態の範囲攻撃警戒と回避不可攻撃の対応指揮だろう。


「分かったよ!とりあえずルキフェル、光源が欲しい!視界が悪い」


 ルキフェルが炎魔法で周辺を火の海に変えた。


「これで、見やすくなるだろう」


「やり過ぎだよ、バカ!光の玉を空中に浮かせる魔法とかないの!?」


「馬鹿め、そんなの魔王が使えるわけないだろう」


 ドヤ顔で言うんじゃねぇ!!


 すると、隣で見ているだけだったサフランが光源用の光の玉を空中に上げる。


「『光よライト』これでいい?」


「サンキュー、サフラン。ルキフェル!もうお前全体に支援魔法だけ掛けてろ。範囲攻撃は、俺がノックバックさせる!回避不可は、大佐が次に受ける一回までで仕留めるぞ!」


 大熊座は、スライムを更に分裂させ、本体も二本脚で立つ。


「グレイ、範囲攻撃のモーションだ、スキルで噴き飛ばせ!」


「これで落ちろ!」


 スキルが直撃した事で大熊座はその場で硬直する。すると直ぐに、スライムが本体から切り離され、大熊座とそっくりの姿になる。そして、スライムの方は、街の中心へと飛んでいく。


「第六形態の分裂だ。街に入られた方を止めないと蹂躙されるぞ」


「シン、俺らは戻るぞ!大佐、そっちは頼む!」


「気をつけてください、シン君、グレイ君」


 俺とシンは、本体の相手を皆んなに任せて、街の中心へと走る。


 _________________


 シオン達、ヴァルキュリアのクランはエルミネ達やライオットと共に、プレイヤーやNPCの避難誘導を続けていた。


「マナロ、これで、全員!?」


「とりあえずこの辺りは、終わり。おじさん馬車出して!」


 マナロの指示で馬車が出ようとすると、彼女は、上空に何かの気配を感じる。

 頭上を見上げると、何かの物体から触手が伸ばされ、その場に居た全てのプレイヤーに向けて放たれる。

 その場に居たライオットが、指示を出す。


「全員、逃げろ!!」


 ヴァルキュリアのメンバー達は、各々で攻撃を避け切るが、他のプレイヤーや馬車に乗り込んでいたNPCは、間に合わない。

 エルミネが一台だけ、聖剣の力で何とか凌ぎきるが他二台には、防御に入れる人手が足りない。


「しまった!誰か、頼む!」


 エルミネの叫びと同時に、零影とアオイが馬車の上に登り防ぎきろうとする。


「ダメです!二人のレベルじゃ防げるか分かりません!危険です!!」


 マナロの言葉を聞き、二人の足が一瞬止まる。

 その間に目の前に大熊座の攻撃が振り下ろされる。

 シオンは、上空から飛び降りて地面に着地した大熊座がここにいる事に衝撃を受ける。


「何でこいつがここに…まさか、お兄ちゃんは……」


「落ち着いてシオンちゃん!」


 棒立ちになりかけるシオンを呼び戻したのは、ルリであった。


「向こうを見て…まだ、光が見えるでしょ。ということはあっちも戦ってるんだよ。まだ、グレイさんは、生きてるよ。絶対」


 ルリに言われて見た街外れの方には、爆発と共に、様々な色の光が見える。

 まだ、向こうの戦いは、終わっていない。ならば、このモンスターは?


「解析魔法が終わった。こいつは、分身体みたい。でもレベル90のままだわ」


 月下の言葉によって、全体に緊張が走る。

 向こうからの援軍に期待するにしても数分は時間を稼がなくてはならない。

 形を保つのが難しいのか、大熊座の体は崩れかかっている。


「とにかく遠距離攻撃持ちは、攻撃して!」


 アオイの言葉に解放戦線の魔術師や弓使い達とマナロ、コリンが同時攻撃をする。

 しかし、目に見える効果はないようで、分身体は身体を赤く変色させ、身体から触手を何本も生み出す。


「各自警戒!来るぞ!」


 ライオットの警告の後、直ぐに、分身体の範囲攻撃が始まる。

 分身体は触手の先から小さいスライムを上空に素早く打ち上げる。

 そしてそれは、雨の様にのようにプレイヤー全体に降り注いだ。

 防ごうと盾を構えている者はその盾ごと貫通し攻撃を受けていく。


 攻撃範囲内にいたプレイヤー達は、皆喰らうまいと躱していくが、一部のプレイヤーは、数の多さに押し切られて避けきれず、攻撃を受けていく。

 そのプレイヤー達の殆どが一撃で死んでいくのを見るとルリは、恐ろしくなる。

 急ぎ僅かに生きているプレイヤーへ回復魔法を使う。

 しかし、それによって分身体のヘイトがルリに代わってしまう。


「ッ!ルリ!前!」


 シオンの声をルリが聞き、分身体の方を見た時既に、ルリを標的とした触手攻撃が放たれていた。


 とっさに目をつぶるルリ。

(お姉ちゃん…助けて…)


「星を貫け!『ヴァイオランス』!」


 ルリに向かってきた触手は、一人のプレイヤーが放った現状唯一のによって分身体ごと消し飛ぶ。

 ルリが目を開けて、後ろを見ると巨大なワシと共に、彼女が良く知っている一人の魔導士が立っている。


「…お姉ちゃん」


「人の可愛い妹に向けて何してんのよ、スライム野郎」


 アイシャは、数日前に、手に入れた現状最強の杖である『紫焔の杖』を僅かに残っている分身体に向け構える。

 すると、巨大な魔法陣が彼女の後ろに何重にも重ねて現れる。


「焼き尽くせ、『ヴォルケイノ』!」


 呪文が唱えられたのと同時に、分身体の足元に魔法陣が映し出され業火の竜巻が巻き上がる。

 十数秒後、跡地には、スライム一滴たりとも残っていなかった。


「やりますねえ、アイシャさん」


 アイシャを運んできたワシの背からジュノーが降りてくる。アイシャは、にらみつけながら、


「こんなの持っているならさっさと出しなさい。あんた一々癪に障るのよ」


「これでもリミアさんよりは、優しいほうですわよ。それに、これは私の召喚獣てもちで一番隠しておきたかった子ですし」


 ジュノーは、ワシを撫でながら微笑んでいる。


「あれを引き合いに出すんじゃないわよ、あれは……」


 アイシャがリミアを罵倒しようとした所で、ルリに抱きつかれる。


「お姉ちゃん…ありがと…」


 アイシャは、ルリの頭を撫でながら、小さく呟く。


「これで、少しは償えたかな……」


 アイシャが想いに馳せていると、そこへ走ってくる二人組がいた。


「あれ?アイシャとジュノーで倒しちゃったの?僕ら無駄骨だったね、グレイ」


「全くだ、あー疲れた」


「遅いわよ、二人とも。今回は、私がMVPね」


 アイシャが軽口をたたいていると再び地震が起き揺れが伝わる。そして、見上げる程巨大な大熊座が立ち上がる。


「これってもう最終形態だよね……お姉ちゃん」


「でしょうね。ジュノー!その鳥借りるわよ!」


「私も行きますよ、この子は私以外の言う事聞きませんし」


 アイシャとジュノーは、ワシに乗って飛び立とうとする。


「あ、ジュノー。俺たちも乗せてくれ!」


「仕方ありませんねえ、コーちゃん」


 ジュノーが指示を出すと、ワシは俺とシンを足で掴み飛び立っていく。


「いや、ジュノー!これおかしいだろ!」


「私、汚らしい男は、乗せたくないんですわ」








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