第16話 VS大熊座_ミュケ消滅をかけて part【FINAL】

 巨大な熊がこちらへ進撃してくるのに向かって、彼らを乗せた大鷲が飛び立っていく。その姿を見ていることしか出来ない多くのプレイヤーの中で、彼らは動いた。


「マーロック、ティナ、この馬車は出しなさい。フリン、コリン!私達は、あそこへ行くわよ!」

「不本意ですが仕方ありませんね」

「……………フリンが行くなら…………」


 エルミネ達は、グレイ達の後を追おうとする。彼らをライオットは、引き留める。


「おい、待て。今更行ったところで住人はもう助からないぞ。あれと戦う気なのか?」

「しょうがないでしょ、あそこに不本意だけど!!私の仲間がいるんだし。それに………」


 エルミネは、声をしぼめた後、呼吸を整えて、


「私、なの。だから皆の危機は救わないとね」


 彼女は、笑って言うと走って行く。それに二人も続いていく。

 そして、馬車から降りたティナもついていく。


「ちょっと!あんたは守んないわよ!」

「お構いなく。私ルキフェルさんに会うまでは死なないので」


 エルミネは、嫌がりつつも無理にティナを突き返そうとはせずに走って行く。

 当たり前の様に死地へと向かう彼らを見て、ライオットは、


「やっぱり俺では、敵いませんよ……アイシャさん……」


 一方ヴァルキュリアは、


「私達も行こうよ、助けないと!」

「ノイ、無理言わないでよ!さっきみたいな攻撃に何度も付き合ってられない。あんな一度喰らったら即死攻撃なんて強すぎるわよ。私達も逃げましょう、今なら逃げ切れる。私が間違ってた、簡単なんかじゃない。このゲームは理不尽すぎる。ストーリークエストだってこれより強いかもしれない。私は…まだ死にたくないの…」


 ノイは、付き合いの長い友人であるマナロがこれほどまでに弱っているのを見て、強く言えなくなる。


 諦めて逃げようとすると、パーティーから二人の少女が飛び出して行く。


「「お兄(姉)ちゃん!」」


 シオンとルリが大熊座に向かって走り出して行く。


「待て、二人とも!」


 アオイの静止も聞かず走って行く二人をノイも追いかける。マナロは、ただ見ている事しか出来なかった。


(行かないで…三人とも…)


 ____________________


 ジュノーのワシに掴まれながら俺たちは、大熊座にたどり着く。


「ジュノー、あれの身体の上で降ろして!」


 シンの言葉を聞いたジュノーは、シンを大熊座の身体の上で落とす。

 空中から落とされたシンは、剣を大熊座刺して落下を止め登り始める。


「あとは、あいつらを見つけないと…」


 俺が本体側の担当を探していると、前足の部分に、この体格差で攻撃している集団を見つける。


「見つけた、ジュノー!」


 大ワシは、急降下してその地点へ向かう。大熊座は、それを見て大ワシに向け前足で踏み潰そうとする。


「コーちゃん!!」


 ジュノーの叫びと共に、大ワシは急旋回を始め、迫る前足から離脱するように飛ぶ。何とか逃げ切ったところにルキフェルが飛んでくる。


「最終形態は、火力で押し切らないと負ける。俺も切り札を切る。そっちの最大火力は?」


「私のヴァイオランスと…」

「俺のライトニングレイか。足りるか?」

「難しいな…でもやるしかない」


 俺たちは、時間差で発射する事にして、分散する。大熊座は、まず大ワシの方を向く。そこへ、ルキフェルが


「行くぞ!『最大解放フルバスター英雄魔法Eバースト』!」


 放った魔法は、直撃し、大熊座が怯む。すかさずアイシャと俺がスキルを打ち込む。


「消し飛ばせ、『ヴァイオランス』!」

「貫け『ライトニングレイ』!」


 俺たち三人が出せる最大火力のスキルは、奴に直撃し、スキルによる爆発と衝撃によって、辺りに爆風が巻き起こる。

 数秒後、俺たちが大熊座を確認すると、奴は、傷を覆いながらも凌いでいた。


「まだ、足りないか…ッ!大技来るぞ、逃げろ!」


 ルキフェルが、声を上げたタイミングで、大熊座は大きく息を吸い込み、口から巨大なビームを放つ。


 ルキフェルを狙ったそれは、振り回す様に、大ワシにも向けられる。

 途中、大地を抉るその威力は、街に甚大なダメージを与える。


「くそっ!俺達の努力を一瞬で…」

「まだ、負けたわけじゃない。何か………ちょっと…何でこっちに向かってるのよ…」


 アイシャの掠れるような声を聞き、街の中心部を見るとそこには、こっちへ向かって来ているエルミネ達、そしてシオン達が見えた。


「「ジュノー!!」」

「貸し2つですよ!全く!」


 俺とアイシャの同時の叫びに大ワシは、大熊座の背後をとろうとする。

 すると、スライム触手が分裂に大ワシに向け降り注ぐ。


「コーちゃん、頑張って!」

「グア!!」


 元気良く返事した大ワシは、降り注ぐスライムの雨を避けながらビームの方向を変える事に成功する。

 やがて、大熊座の身体を反対方向に変えた。


「これなら、あっちには届かない。でも……」

「こっちは、あのビームを避け続けないといけないんですよ!!何ですかあれ!ガス欠しないんですか!?」


 この状況で俺は、さっきよりも威力のあるスキルについて考えていた。


(三人同時に撃つか?いや、それではあのビームと相殺がいいとこだ。さっきよりもダメージは与えられない。何かもっと致命的な程の特効があれば……特効…あれだ!)


 俺は大声でルキフェルを呼ぶが、ビームの影響でこちらに近づく事が出来ない。あいつの力が必要な状況で苦しんでると、急に大熊座のビームが止まったかと思うと叫びながら左に倒れる。倒れた大熊座の上でシンが剣を突き刺し立っている。


「詰めは、任せた!」

「ああ、任された」


 俺は、ルキフェルを改めて呼ぶ。


「ルキフェル、アルカスの監視槍を出してくれ」

「お前、あれはあいつを強くするだけだって言ってもう一生出すなって」

「後で幾らでも謝る!今はあれが必要なんだ!!」

「グレイ、どうする気?」


 アイシャの質問に俺は自信を持って答える。


「アルカスの監視槍をライトニングレイで発射する。一撃で終わらせてやる」


 俺の案を聞いたアイシャは笑顔になり、


「それじゃ、向こうから走ってくる馬鹿達と協力して、撃ちなさい。私達は、露払いしてあげる」

「仕方ありませんねぇ!貸し3つですよ!」


 ジュノーとアイシャは、大ワシに乗って飛び去って行く。ルキフェルは、納得したようで、


「時間はない。直ぐに決めろよ」


 そう言って、その場に降り立つ。俺は、走ってきたデッドマン達に、作戦を伝える。


「次で仕留める。手を貸してくれ」


 彼らは、作戦を聞くと、


「ちっ!グレイに花持たせんのは癪だが、あれに有効打は俺は持ってねぇ。手伝ってやるよ」

「俺もそんな感じー、大佐とJBとミルは、シンの方に行ったから僕とデッドマンそれにサフランで手伝うよ」

「では私はー、グレイさんを全力でお守りしまーす」


 そうして、俺のアンタレスを横向きにし、デッドマンとサーカスが支える。サフランは、目を眠そうにこすりながらも武器構える。準備が整うと同時に、大熊座が起き上がり、俺の方を睨みつける。


 後は、ライトニングレイのクールタイム解除後に発射するだけだ、時間稼ぎは頼むぜ。


 空中を飛ぶアイシャ達は、スライムの相手とグレイにヘイトが向かないようにしていた。シンには、アイシャから作戦を伝えられる。


 地上にいるシン、大佐、JB、ミルの元にエルミネ達が合流する。


「驚いたな…まだ戦えるのか」

「こっちに来たなら手伝ってもらうよ。これから数分の間こいつを意地でも抑えなきゃならない」

「それで具体的にはどうするんですか?」


 シオンの質問に、シンは得意げに答える。


「いつも通りだ、全て避けて全て当てる」


 そこに来ていたエルミネ達やシオン、ノイ、ルリは、言葉の真意が理解出来ない。


「頼むよ、皆。ルリちゃんとシオンちゃんに何かあったら二人に顔向け出来ない」

「安心して下さい。お姉様の妹=私のお姉様です。命がけで守り抜きます」


 そう誓った直後、彼らの元にスライム触手が狙いすましたかの様に撃ち出される。


「さあ、5分死んでも稼ぐよ!そうしたら勝ちだ!」


 3分が経過…


「まだか!グレイ!」

「後2分だ、それでクールタイムが終わる!」


 現在は、挑発持ちが順番にヘイトを受け持っているが、時折アイシャや他のプレイヤーにも効果のある範囲攻撃をする為、挑発の意味をなしていない時が多い。


 更に1分半経過。


「ルキフェル、出せ!」

「来い、アルカスの監視槍!」


 呼び出された槍が大熊座の視線に入った事で、赤いオーラが噴き出される。サソリの時と同じだ、ここが、決着点。


「残り、10秒!」


 あと僅かというところで、大熊座は、こちらに向け口を大きく開ける。


「クソが!あれかよ!!」


 残り5秒…ダメだ向こうの方が僅かに早い。

 残り4秒…もうビームが発射される。

 残り3秒…発射されたビームが既に目の前を覆う。

 残り2秒…ルキフェルが防御障壁を作り出すが、直ぐに壊れる。

 残り1秒…急にビームの射線が右にズレる。アイシャのヴァイオランスだ。


 そして……残り0秒。


「落ちろ、『ライトニングレイ』!」


 アルカスの監視槍を矢として放ったライトニングレイは、ビームを引き裂いて、大熊座に突き刺さり、貫通する。瞬間、何かが砕ける音と同時に、大熊座は、内側から破裂していった。


 轟音と共に、内部から弾け飛んだ大熊座は、その場にて絶命し、ポリゴン化する。そこへ朝日が昇り始める。


 朝日によって照らされたミュケの街並みは、大熊座の攻撃によって手痛いダメージを負っている。

 街並みは、攻撃によって滅茶苦茶になってしまい、跡形もない部分もある。


「これは、勝ったのか…それとも負けなのか…」


 俺は、崩壊を止めるために来たはずの街の住人が大半殺されていると知って、それしか言えなかった。


「勝ちだろ、何言ってんだ」

「ルキフェル…」


「お前が来たお陰では死ななかった。なら、十分だろ。あんなバケモノ相手なんだ。これでも奇跡だよ」


「congratulation!!襲撃クエストV『悲哀の北斗七星』をクリアしました」


「大熊座のアルクトスの討伐報酬が参加者全員に配布されます」

「大熊座のアルクトス討伐MVP:グレイ」

「大熊座のアルクトスの討伐参加者とMVPに称号が付与されます」


 解放戦線のプレイヤーそして、大半の住人が犠牲になりながらも俺たちは、ミュケの街の崩壊をどうにか阻止した。


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