第14話 VS大熊座_ミュケ消滅をかけて part【3】

 馬車に乗って移動しているアイシャの下にグレイからのメッセージが届く。彼女は、その内容を確認し、ほっと一息ついてから現在の自分達の居場所と予想される到着時間を送る。


 現在、アイシャ達は馬のスタミナ回復時間に入っており、各々外で時間を潰していた。アイシャは、馬車の中で休んでいたのだが、そこにリミアがやって来る。


「アイシャお嬢様ー、グレイさんからは何と?」


「グレイからは、今の所は順調だって。ルキフェルの存在が大きかったみたい」


「彼に関しては、私も姫ちゃんも予想外でしたからー」


「これなら、貴方の予想も外れそうね。もしかしたら、私達が着く前に決着がついてるかもよ?」


「それはどうでしょー?あそこのプレイヤーが最善の行動をとったとしても圧倒的なレベル差やステータスは覆されませんからー。それに、相手の事を私達は完全に分かっているわけではありませんしー」


「どういう事?」


「街を襲撃するモンスターなら普通、街を優先しません?それに、聞いた限りの大熊座のステータスなら、レベルは高いですけどー、街の外壁から魔法や弓矢を撃つ人と下で代わる代わるヘイト管理する人だけで簡単にハメられますよー」


「そんなのが襲撃するにはお粗末って事?」


「この後の形態がどうなるかはわかりませんけどねー。私としてはー、グレイさんが無事なら何でも良いでーす」


 その会話を木陰で聞いているユノが入れ替わった何者かは、


(このまま行けば到着前には、街は滅びますね。本当にあのルキフェルなら絶対に大熊座を二人だけで倒そうなどと考えない。現実において手負いの獣は危険視されますが、あれはそれを忠実に再現しています。最後までやるにはプレイヤーが足りなすぎる。前回も最終形態で結構な数が消えましたし)


《北エリア ミュケ》-冒険者ギルド内


 既に大熊座との戦闘開始から20時間以上が経過していた、


 現在三度目の進化に入り、俺たちは、街の中で休憩に入っていた。ここまでは、俺とルキフェルだけで持ちこたえられており、ルキフェル曰く残り四形態の全七形態らしい。予定通りに行けば後数時間程度で、次の形態になり、最終形態までにはあいつらも合流できる。


 ここまで上手く行っているのはルキフェルの存在が大きい。あいつの持っている情報でこっちは、初見で挑まずに済んでいるので、安定して削ることが、出来ている。


 俺が、街の中でアイシャとの連絡を終え、空腹値を満たそうと食事していると、ルキフェルがやって来て隣に座る。


「よっ!このまま行けば余裕そうだな」


 俺のポジティブな言葉に対して、ルキフェルは、


「馬鹿野朗。問題は、ここからだ。大熊座は、次の形態が一番弱い。そして、一番質が悪い」


「どういうことだ?」


「次の形態は、基本的に攻撃をしない。さらに、防御力も低い。ただし、次の形態までの進化にインターバルが無く、第五形態は俺たちだけじゃ絶対に負ける」


「……根拠は?」


「圧倒的な広さの範囲攻撃と回避不可の攻撃を持ってる」


「…今、思ったんだが、なんでここまで削ったんだ?」


「次が一番安全に無力化できるからだ」


「無力化?倒すんじゃないのか?」


「襲撃イベントのモンスターは、どいつもえげつない。ただし、どこかで弱い形態があるんだ。そこで攻撃しすぎると、その後のチート形態に蹂躙される。そのかわり、弱い形態は、そこら辺の街にある牢屋にでも突っ込めて、一生そこに縛れるから安全でもある。今回の最終目的は、ミュケでそうする事。いつかは倒さないといけない相手だが、一番強力な時の相手は、今じゃ無くて良い」


 ルキフェルとしては、最初からこうするつもりだったらしい。その為俺には毒を一切使わせなかった。


は、失敗した。だからこそ今回は成功させたい」


 話をしている時の彼は辛そうにしていた。


「ライオットさんには、話したのか?」


「ああ、彼には最初の方で話したよ。だからもう準備してもらってる。この街で一番大きい牢屋まで俺たちで誘導するぞ。成功すれば避難させるのに十分な時間がとれる」


「ただし、失敗すれば街中でとんでもないのが暴れ出す…か。分かったよ」


 数時間後、アルクトスの所に向かうと奴の第4形態は、最初と同じ姿に戻っていた。俺とルキフェルは、慎重に近づき誘き寄せる。大熊座はスピードは変わらない為、弱くなったと聞いても今一ピンと来ない。そのまま、南門の前まで行くと、ルキフェルの合図と共に門が開かれる。


 中では、マリアや零影少年、ライオット達が息を呑んで見守っていた。

 最初に何人かのプレイヤーを瞬殺した記憶は、解放戦線のメンバーには脳に焼き付いており、誰も手出しする様子はない。


「ルキフェル…ここだ」


 俺たちは、街中に入り数分後、罪人用の牢屋がある地下への階段の入り口に着く。


「グレイ、慎重にな」


 ルキフェルに改めて念を押され、緊張する中、俺は、アルクトスを引きつけたまま階段を走って降りていく。狭く、薄暗い場所だが、大熊座の第4形態は、最初の形態より一回り小さく、何とか階段を通ってくれた。


 そして…


「良し!閉じ込めた!」


 地下にあった牢屋の一つにアルクトスを閉じ込める事に成功した。奴は、閉じ込められた事に気付き、鉄格子に突進するもステータスはかなり低くなったようで、跳ね返されている。


「急いで上を封鎖しないと!」


 上に戻り待っていたルキフェルが階段を壊す。これで誰も通れない筈だ。


「これで大丈夫だ!しばらくはあいつも出てこれない」


 ルキフェルの言葉を聞くと、周りに控えていたプレイヤー達が歓声をあげる。


「やった!!これで街は救われたんだ!!」


 その場に居たプレイヤー達の喝采は、大きくなり俺たちの下に集まってくる。


「ありがとう!助かった!!」


 それを聞くと長い時間戦い続けた苦労報われる気がした。何せ丸10時間以上は一人でヘイトを稼いでいたのだ。疲れは半端なものではない。


 俺は、緊張の糸が切れて、その場に倒れてしまった。


《北エリア ミュケ》-南門前


 12時間後、ミュケ南門前に3台の馬車がやって来る。馬車は、街の中で止まり最初に赤い髪の女性が降りて来る。


「やっと着いた〜グレイは、上手くやったみたいね」


 それに続いて、十数人のプレイヤー達が馬車を降りる。彼らを待っていたのは、ルキフェルで、


「待ってましたよ、皆さん」


「それで、襲撃してきたモンスターは?」


「それなら、街外れの牢獄にある牢屋に突っ込んで無力化しました。今から住民を退去させる時間は、十分にとれるはずです」


「ねえねえ、グレイにいちゃんは?」


 移動時間が長く、ずっとつまらなそうにしていたサーカスが、やっと着いた事で開放されたのか食い気味に尋ねる。


「グレイさんなら、まだ休んでいるはず。案内しましょう」


 それを聞き、後発組の集団が移動する中、ユノである人物は一人ほくそ笑んでいた。


(思わぬ形で最良の展開に持っていけそうです。やはり、私がここに来ている事には誰も気づいていない。地獄の始まりは今夜、今日この街は破壊される)


 カリストの大熊戦後、俺はどうやらずっと眠っていたらしく、アイシャ達後発組が着いた頃に、ようやく目が覚めた。周りを見渡すと、冒険者ギルドではなく宿屋のようで、身体を起こすと近くで寝ているマリアの姿があった。多分倒れた原因は、睡眠値を無視した闘いと、単純に精神的な疲れだと思うが、結構心配をかけてしまったみたいだ。後で、お礼を言っておこう。


 寝ている彼女を起こさないようにゆっくりと部屋から抜け出して、宿の外に出ると丁度、後発組と鉢合わせた。


「あ、今来たんだ。ちゃんと間に合わせたぜ」


「流石ですね、グレイさん。ご褒美に今度私とデートしましょう」


「い・り・ま・せ・ん」


 リミアの誘いは丁重にお断りさせて頂く。何分嫌な予感しかしない。


「それで、アイシャ。この後どうすんの?」


「あー、とりあえずNPCをエルミネに避難させて、プレイヤーは、自力でケイトスに行ってもらいましょ。あそこならそのまま住めるし。モンスターの方は、街の外にでも引き付けて戦えばいいし」


「馬車は来てるし、急いで動いた方がいいかな?」


 俺たちがそう決めようとすると、珍しくジュノーが会話に入る。


「私、疲れたのでそういうの明日からにしません?馬も疲れてるでしょうし」


 デッドマンがぶっきらぼうに答える。


「ネカマ野郎は、勝手にしろよ。大して戦力にもなんねえんだから」


「そうさせてもらうわ。私、むさくるしい作業とか泥臭い闘いとか嫌いなの」


 そうして、それぞれが大熊座討伐に向けて行動し始める。そんな中アイシャの下に面倒くさいプレイヤーが、やってくる。


「お姉さまああああ!私と一緒に行きましょ!」


「げ、ミル!あんたは、JBと一緒でしょ!?何で、ここに居るのよ!?」


 ミルは、ぎっちりとアイシャの腕を掴み離さないで答える。


「あんなものと一緒の空気を吸いたくありませんから」


「それ本人の前で言わないでね。彼、心は豆腐より柔らかいから……」


「折れるあれも見たいですが、お姉さまのいう事でしたら勅命ですね。分かりました!」


「それなら、この腕も開放してくれない?というかJBと仕事してくれない?」


「お姉さま、良い妹というのは偶に姉に反抗するものなのですよ」


「都合いいわね……………」


 結局アイシャは、ミルを連れて自分の仕事をし始めた。


 ______________


 その夜、一人のプレイヤーが、牢獄がある場所にやってくる。そのプレイヤーが塞がれた階段に向かう。そのプレイヤーが階段の前に立つと、そこへ二人のプレイヤーが現れる。


「何をしてるの、?」


「あら、アイシャさんではありませんか?こんな夜にどうしたんです?」


 アイシャへの質問を隣にいたルキフェルが答える。


「それは、こっちが聞きたいことだ。何でここにいる?」


「まあ、何って本当に無力化したかの確認に決まっているじゃないですか。NPCの言う作戦なんて信じられませんし」


「なら、昼にでも見に行って来ればよかったじゃない。どうしてこんな時間なの?」


「いけませんか?私は、昼間休憩していたはずですよ。今見に来てはおかしいですか?」


 アイシャは、苛立ちを募らせる。


「だから、わざわざ今である必要が……「ストップだ、アイシャ」」


 アイシャの言葉を遮ったルキフェルは、階段の異常に気づく。


「瓦礫が一部どかされている……まさかッ!!」


 彼は、下に降りて行った。そして、いるはずのものがいないことに気づく。


「アイシャ!!奴がいない!!誰かが外へ出している!!!」


 アイシャは、すぐさまジュノーに掴みかかる。


「あんたの仕業!?あんたがユノなの!?」


「し、知りませんよ……私は、今来たばっかりですよ………」


 すると、街外れの墓場から地震が起き揺れがアイシャのいる所まで響いてくる。更に墓場からは触手のようなものが空中に浮き始める。


「あれは……第五形態の特徴………」


「マズイ……全員に知らせないと……」


 酒場で食事していた俺たちは、地震の揺れを感じて外に出る。外を見渡すと墓場の辺りから炎と共にスライムの触手が見える。


「おい、グレイ!無力化したんじゃなかったのか!」


 デッドマンに詰め寄られるが、俺の方が言いたい。無力化したはずなのに何故出てきている?

 

 混乱している所へ、ルキフェルが飛んでくる。


「誰かがふさいでいた瓦礫をどかして奴を解放しました。既に第五形態に突入しています」


「今ここに居ないのは……アイシャとジュノーか!」


「二人は、牢獄の所にいます。他に行方不明の奴はいませんか!?」


 俺の隣に居る大佐が答えた。


「私達、後発組は、アイシャ君とジュノー君を除いて全員いるぞ」


「くそッ!てことは、ユノがどっかに紛れ込んでるのか………」


「ユノって、管理者のこと?何でそう思うの、グレイにいちゃん?」


 サーカスに尋ねられた俺は、


「俺たちに理不尽押し付けるのは、あいつくらいだろ!シオン達は、避難誘導をしろ!後は、あれを急いで倒すぞ!!」


「寝起きを邪魔したのは誰?ミンチにしないと気が済まないんだけど」


 やる気満々のサフランに俺は、安心しているとシオンが、


「お兄ちゃん、私達も戦う!」


「全員行ったら他のプレイヤーや住民達が戦闘に巻き込まれる。こいつらに避難誘導とかは、絶対に出来ないんだ。だから、そっちでやってくれ!」


 俺のなげる様な頼みに、シオンは仕方ないなあという顔で、


「……分かった。でも、絶対に死なないでよね」


「当たり前だ。大丈夫、今回は、周りが強い」


 シオン達ヴァルキュリアが移動すると、俺は笑いながら残った馬鹿達に、


「いやーすまん。今回は、誰か死ぬかもしれない」


「安心しろ、最初に死ぬとしたらグレイだ。俺たちじゃない」


 JBの台詞が、何だか死地へ向かう言葉に聞こえてくる。


「JB、冗談だって、だからやめてよ。フラグじゃん」


「グレイさん、この戦いが終わったら……私………」


「おー、良かったな、グレイ。このフラグなら今日でストーカーから解放されるぞー」


「あのー、デッドマンさーん。後で、本気のお仕置きですよー」


 デッドマンとリミアの漫才に、俺たちの緊張も溶ける。


「良し、お前ら!獅子狩りの前哨戦だ!派手に暴れようぜ!!」










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