第13話 VS大熊座_ミュケ消滅をかけて part【2】
矢が命中すると、カリストの大熊は、俺に向かって突進する構えを見せる。
「避けろ、グレイ!あいつの攻撃速度は、尋常じゃない!」
それを聞き急いで右によける。対角線から外れた瞬間、俺の真横に突風が吹いたかと思うと、その部分の大地がえぐれていた。アルクトスは、突進後のんびりとこちらを向き、また構える。それを見た瞬間に対角線から逃げるという動きを繰り返すことしか出来ない。
「マジか!こいつ、移動速度は鈍いくせに攻撃速度は、サソリより速いぞ!」
「サソリってあのさそり座か!?あれは、化け物の中でも遅い方だよ!これがこの世界のデフォルトだ」
聞きたくないこと言うなよ。これから先が嫌になって来るわ。
「スキル撃つ暇がない!ルキフェル、そっちにヘイト集められないのか!?」
ルキフェルは翼を出して空を飛びながら魔法で攻撃していた。なので、向こうにヘイトを移動させれば、こっちは一気に楽になる。
「しばらくは無理だ。こいつは、今の段階だと地上の敵しか認識しない。だから飛んでるんだよ」
「お前っ!ズルいぞ!」
「お前より俺の方がDPS高いんだからこの方が効率いいだろ!」
それを言われるとぐうの音もでない。ルキフェルは、詠唱せずに多種多様な魔法をカリストの大熊にぶつける。それは、炎、氷、雷、風とあらゆる種類の魔法を嵐の様に撃ち続ける。
仕方なく、地上で相手をする事になった俺は、とにかく奴の正面に立たない事だけを考えて立ち回る。アルクトスに乗っかっているスライムは一切動く様子が見えず、矢が飛んで来ても防ぎすらしない。
「あの、スライムもどき何の意味があるんだ?」
「あれは、第2形態までは、只の飾りだ。本番は、あれが動き出す第3形態から」
こいつも、サソリみたいに複数の形態を持つらしい。俺は、攻撃を避けながら聞く。
「それって、いつなるんだ?」
「こいつは、体力が無くなると次の形態に変化する。この世界では、基本的な形態変化はこのパターンだ。例外もいるが……」
そういえばサソリは、大して削らなくとも弱点に攻撃を当てられれば形態変化していた。ストーリーだとそういうものなのだろうか?問題は、今のあいつの体力である。俺が見えている大熊座のHPバーは、まだ半分も削れていない。
「ルキフェル!その魔法本当に通じてんのか!?」
「ボチボチって感じだな。纏ってるスライム部分が魔法抵抗力高くて基本通らないから」
こいつ、知ってて魔法しか使わないって事はサボってたのかよ。
「お前、今サボってるとか考えてただろ!違うからな?当時もこんな感じで削ってたんだからな?」
「お前近接武器ないの?」
ルキフェルは、言われて思い出したかの様に長い槍をアイテムボックスから取り出す。その槍からは、あのサソリと同じように、尋常じゃない量のオーラが溢れ出していた。
「アルカスの監視槍γ。これなら一気にいけるか」
その槍がアルクトスに向けられると、奴は、動きを止め槍をじっと見つめる。
「そうだ、こっちに来い。このまま一気に削ってやる」
ルキフェルは、槍をちらつかせアルクトスを引きつけようとする。すると、奴は、咆哮をあげる。
この時の感覚は、以前サソリとの戦いで有った進化の兆しに近かった。
咆哮の後、へばり付いているだけであったスライムもどきが変色し、赤色になったかと思うとルキフェルに向かって身体を触手の様に分裂させ素早く刺し殺そうとする。
「おい、マジか!この状態で、スライム攻撃なんて前にはなかったぞ!」
どう見ても、その槍のせいだよ。あいつ、何持ち出したんだ?
しかし、ルキフェルにヘイトが移動した事で、こちらに攻撃の機会は増える。
「スキル、白雷神槍!」
アンタレスのスキルであるこれは、俺の手持ちのスキルで最も強力だ。攻毒者になった事で毒系統の威力や持続時間などは改善されるも、レベルが足りず攻撃系スキルは、まだ覚えていない。
「良し、ダメージは入ってる!」
スキルをくらったアルクトスは、大きく吹き飛ぶ。やはり、ストーリーボスドロップは、チートスペックみたいだ。
「俺も☆¥$ー#3%%の武器があればなー。悉くあいつらに取られたから手に入んなかったんだよなあ」
ルキフェルの言葉は、一部分聞き取れなかったが、恐らく運営サイドが知られたくない情報だろう。それだけこの武器は、恐ろしい事になる。
と、そんな事より問題は、あの馬鹿が出した槍のせいであいつが強化された事だ。
「その槍、明らかにあいつを強化してんじゃねえか。どっから持ってきたんだよ」
「これか?これは、3%¥€2%#☆→1<で………」
「もう、いいよ。今の時点だと非公開情報なのは、充分に分かった」
「これ、熊特効あるから良いと思ったんだけどなー」
逆に、アルクトスが強くなっちゃ意味無えじゃん。
「で、どうすんだよ?あのバケモン熊。こんなの街に入れたら時間稼ぐ以前に滅ぶぞ」
「とにかく、第2形態にさせるしかないね。そしたらスライムも動かなくなるかもしれない」
寧ろ、それでスライムが動くままだったら最悪だな。
「とりあえず、それしまえよ。持ってる状態で第2形態にした時に意味ないかもしれないし」
俺に言われたルキフェルが武器をしまうと、アルクトスは大人しくなり、スライムはまた背中に張り付く。
「………その槍一生出すな」
「………そうする」
そこからまた2時間程二人で削り続けた。そして……奴が丸くなり始める。
「良し、グレイ!第2形態への進化の時間だ。暫くはあそこから動かない!今のうちに街に入るぞ!」
それを言ったルキフェルは、俺を抱えてミュケに飛んでいく。現在1日目の午前11時と、まだまだ先の長い戦いになりそうである。
街に空から入ると既に南門にはバリケードが作られていた。NPCの姿は無く、門の前にプレイヤー達が集まっていた。
ルキフェルと共に降り立つと、ライオットが来る。
「どうだ?行けそうか?」
「正直ここからって感じだな。あの熊が何時目覚めるか分かんないし」
「6時間は目覚めませんよ」
ルキフェルが突然言い出す。
「元魔王とか言ったな?何故知っている?」
「それは、俺が前回戦った時そうだったので」
こいつ、それ言って大丈夫なのか?
「前回?どういう事だ?このモンスターは、まだ未確認生物の筈だが?」
「私のとっての前回と言うのは、過去勇者に封印される前の大昔の事です。その頃に一度戦ったんですよ」
そういえばそういう設定だった。こいつ、知っている事は、全部それで押し通す気だな。
「あの大熊座は、弱る度にああやって進化し強くなりますが、その為に平均6時間程力を蓄える時間が必要になります。全部で7形態程ですかね」
「それを信じられる根拠は?」
「……特にありませんが…私は、自分の経験を信じて今から休憩に入ります。流石に寝ずにあれと戦い続ける事は出来ませんので」
そう言って、街の中へ歩いて行った。ライオットは、俺の方を見て聞く。
「グレイ、君は彼の言葉をどう思う?」
「今は、信じるしかないんじゃないんですか?元々あいつがいなきゃ全滅してたかもしれませんし。とりあえず、俺たちを助けはしてくれると思いますよ」
申し訳ない、ライオットさん。今は全部言えないんだ。あいつについては、現状三人だけで共有する事にしてるんだ。
「まあ、アイシャさんが送り出したなら大丈夫か…」
「そう考えて貰えるとありがたいです」
ライオットは、納得したようで、
「とりあえずお疲れさん、グレイ。君も休むといい。宿は使えないが、ギルドに仮眠室を作ってある。私は、今の説明で納得しないであろう人間に、見張りでもさせてるよ」
そう言って、解放戦線の所に向かって行った。前に話した時と違って、俺の事も認めてくれているみたいであった。プレイヤー達も前より増えており、順調にクランを育てている事は直ぐにわかった。だからこそ、ここで壊させるわけにはいかない。
俺は、ギルドに向かい、そこらじゅうに敷いてある布団に横になって寝ることにした。
午後5時
ギルドで寝ていると誰かに起こされる。
「グレイさん!起きて下さい!時間ですよ!」
俺を起こしてくれたのはマリアのようであった。身体を起こすと周りで何人か寝ていた。
「ん~よく寝た〜。マリア、あれから熊の様子は?」
「ルキフェルさんの言った通り、今もまだ動く様子は、ありません。でも、念のためにと起こしてほしいと頼まれました」
状況を理解した俺は、マリアに礼を言い、南門前に行く。南門の前には、ルキフェルも来ており、既に準備が終わっていた。
「来たな。じゃあ、俺達がさっきみたいに外で戦って、アルクトスの体力を減らしていく。もし、何らかのトラブルで街に侵入した場合は、あのモンスターの正面に立たず、遠距離攻撃に徹してろ」
ライオットは頷き、解放戦線のメンバーに細かい指示を出す。基本二人一組で剣士は、盾を持ち遠距離攻撃する者の護衛に徹してもらうようだ。ルキフェルの指示だろうか?
俺をルキフェルが抱え飛び立つと移動時に聞いてみた。
「なあ、あれってお前の指示?」
「違う、彼が俺の情報を聞いてすぐに判断した。良い指揮官だな。行動するまでが早いし、味方の生存を優先してる」
もう、前とは別人ということか。俺が言うのも偉そうだが、それは心強いな。
アルクトスの近くに着くと、奴は、丸まったままであった。
しかし、その数分後、徐々に脈動し始めたかと思うと、体毛が白く変わり爪は、伸び始める。身体もさっきより一回り大きい。
「来るぞ!第2形態だ。氷魔法と範囲が広くなった爪攻撃に気をつけろ!」
さあ、第二ラウンド開始だ、必ず明日あいつらが来るまで持ちこたえる。
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