第12話 VS大熊座_ミュケ消滅をかけて part【1】
≪北エリア 南部 アッティカ原野≫-アハルネス平原
俺は、夜風を浴びながら彼に話しかける。
「悪いな、寝てる最中に起こした挙句、こんな事やってもらって。今はプレイヤーに近いから眠気とかあるんだろ?」
俺を担いで運ぶ彼は、嫌そうに答える。
「全くだ。デスゲームに戻ると言ったが、最初にやる事がこれとは…まだ、NPCのふりをしていれば良かったのかもな」
「そう言うなよ、ルキフェル。それより、お前そっちが素なのか?前の礼儀正しい態度はなんだったんだよ?」
「あのセンスのないキャラは、このゲームの魔王のデフォルトだ、安心しろ。しかし、お前も頭のおかしい事をやるんだな。襲撃型のボスは、最弱で適正レベル80オーバーだぞ。お前今レベル幾つだ?」
「50。クラスアップした後、まんま放置だし。でも、勝つつもりだよ。あいつらが来るまでに、5割は削るつもり」
「本気かよ…勝ち目が薄い勝負をするなんて、あいつそっくりだな…」
あいつって誰だよ。誰だか分からないが褒められているとは思えず、聞こうとすると、ルキフェルが、声を出す。
「…見つけた。北東の方に何かがいる。……待て、本気であれと戦うのか?あれ俺が知っている中でも最強クラスだぞ」
「あんた、色々知ってんだろ?何で教えてくんないんだよ。教えてくれれば楽になるのに…」
「なんか、NGワードに引っかかるみたいでな。例えば……☆#$¥は$♪☆〒○=て何言ってるか分かるか?」
俺には、よく分からないノイズの様に聞こえていた。
「全然分からん。エレネは色々教えてくれたのに…」
「誰だよ、そいつ………いや、あいつの事か?」
ルキフェルが勝手に一人で解決していても俺には、さっぱり分からん。
「もう、いいや。とりあえずそのまま俺を担いで飛んでてくれ。あの速度なら先に街に入れるから」
「分かってるよ…くそ!俺もテレポート使えればこんな面倒な事には…」
≪中央エリア 王都メトロイア ≫-王城前
翌日の朝、昨晩教会にいたプレイヤーは、グレイ以外全員集合場所に集まっていた。
「遅いな、グレイの奴。寝てんのか?」
「逃げたんですかね?あの人錬金術師ですから戦闘に向いてなさそうですし」
中々やってこないグレイを待っていると、そこにエルミネ達がやってくる。
「遅れてすまない。アイシャとシンは謁見可能だ。許可に手間取ってな」
アイシャはそれを聞くと、
「そう。なら行きましょう。さっさと始めないと」
「ちょっと待ってくださいー。グレイさんが居ませんよー」
リミアの確認にエルミネが答える。
「何も言っている?グレイは、ルキフェルが襲撃が真実かどうか確かめるために深夜に北の街へ連れて飛んで行ったんじゃないのか?」
それを聞いたリミアは、アイシャに詰め寄る。
「おいニート、何のつもり?私のグレイさんに何させてんの?」
アイシャは、嗤いながら答える。
「あら、あなたキャラ崩れ始めてるわよ。注意しなさい。しょうがないでしょ、ルキフェルはテレポートみたいな便利な技は使えないけど抱えて高速移動なら1日以内に移動出来るって言うし」
「本当に襲撃が始まってたらグレイから連絡来るでしょ。まだ無いって事は、大丈夫なんじゃない?」
シンが補足する。
「えーグレイにいちゃん、一人で遊んでんのー。早く僕らも行こうよー!」
サーカスに急かされたアイシャが、
「じゃあ、皆んなそこで待機してて。行くわよ、シン、エルミネ」
そう言って、三人は、中へ入っていく。
待っている間、アオイが大佐に聞く。
「すまないが、今聞きたい事がある。ちょっといいか?」
そこにキャラを作り直したリミアが割り込む。
「はいはい!アイシャお嬢様のMBOでの様子ですね!不詳このアイシャお嬢様専属メイドのリミアがご説明させていただきます!」
昨日では、皆んな突っ込まなかった部分にJBが触れる。
「なあ、昨日は色々あって突っ込まなかったんだけど、リミアとアイシャって現実での知り合いなのか?普段を見ている俺には、リミアがからかっているようにしか見えないが」
アオイが、JBの質問に答える。
「彼女は、家のメイドなんだ。特に妹…アイシャ専属のな。だが、VRゲームを趣味にしているとは聞いてなかった。隠してたのか?」
「いいえー、私がお嬢様方の家に行ったのはー……」
「「「「「「グレイのため(ですね)」」」」」」
その場に居た、デッドマン、サーカス、JB、大佐、ミル、ジュノーが声を揃える。
「それ以外考えらんねぇ。この悪魔がアイシャを直接助けてる所なんて見た事ねぇ」
「同感。にいちゃん以外に、この人が何かしでかす事なんてまず無いし」
「俺が近づくのを唯一初対面で諦めた人種だもんな…」
「リミア君は、グレイ君以外は、人間とすら思っていなそうですし」
「グレイさんへの接し方だけは、ミルがお姉さまへする接し方と同じです」
「気持ち悪いくらいグレイに付きまとう人ですからね」
アオイは、口を揃えてそう評価されるリミアにジト目を向ける。
「お前、普段はそんななのか…」
「皆さんよくわかってますねー。花マルです!その通りです!メイドをしているのは、彼女をMBOに復帰させる事でグレイさんが私の事を許す口実を作るため!それ以外には、特にありません!」
「清々しいくらいのグレイ一筋だな…」
デッドマンがそう言っていると、シンとアイシャが帰ってくる。
二人と一緒に馬車が数台やって来る。
それを見たマナロが聞く。
「本当に借りてきたんですか?」
アイシャは、残念そうな顔で、
「流石に最速は無理だったわ。でもこの馬なら明日の昼には着くみたい。これで行くわよ、全員乗って」
全員が馬車に乗り終わると、馬は走り出す。
アイシャは廃人達と、シンはヴァルキュリア達と一緒の馬車に乗っていた。
「とりあえずなんで僕をこっちに呼んだの?シオンちゃん?」
シンは、本来なら勇者組と乗るつもりだった。
デッドマンとは、乗りたくないし、ヴァルキュリアの方にはリミアとかアイシャが乗ると思っていたからだ。
しかし、乗る前にシオンに呼ばれた事でこっちに来てしまった。
シオンは、シンに質問する。
「すみません、兄について聞きたいことがありまして…」
シンはそれで合点がいく。
「ああ、なるほどね!いいよ、グレイとは、あの中だと付き合い一番長いし、多分答えられると思う」
「では…、兄って強いんですか?」
シンは、その質問に沈黙する。
腕を組み真剣に考える。
その様子に、マナロが、
「ほら、やっぱりあの錬金術師はそんなに強くないんじゃない。なんで、一人で先行するのよ。いい迷惑だわ」
「おい、マナロ言い過ぎだろう。すまんな、彼女は、あんまり錬金術師のような非戦闘職が今回の作戦にいるのが納得いかないようでな」
アオイが抑えるも、シンは気にした様子はなく、
「いや、それはどうでもいいんだけど。グレイが強いか弱いかで言ったらどうなんだろうって結構難しくて……ぶっちゃけあの中のランカー組と戦ったら普通に負けまくると思うよ。ただなーMBOで僕に勝てるのグレイだけなんだよなあ。うーん、例えるなら
「何その例え?トランプのカード名?」
「あれ?大富豪って知らない?やっぱり古いのかなぁ。大佐とリミアぐらいしかこの例え通じなかったし」
どうもヴァルキュリアのメンバーには、分からないらしい。
大佐の話だと今のVRが普及される前には、みんな知っていたそうだ。
しかし、VRの普及によって、アナログゲームは衰退し、トランプはVRゲーム版をやらない限りは、学生が見ることも無くなっていた。
「要は、最強のカウンターだよ。最強に対して唯一対抗できる存在。実際僕は、あの辺のランカーには、今まで一度も負けなかったけど、グレイには、まだ勝率7割とかで負ける事もちらほらあるんだよね」
「じゃあ兄って強いんですか?」
シンは、悩みながらも答えは出たようで、
「まあ、少なくとも今のヴァルキュリアよりは強いよ。それだけは言える」
その言葉には、誰も納得いかないようであった。
「あはは、そう怒んないでよ。向こうでどうせ気づく事なんだし。というかヴァルキュリアも強いとは思うよ?ただ今回は、格上相手と戦うだろうし、そういうのは慣れてないんじゃないかなーって」
シンは、軽い態度で言うが、シオン達は、自分達が南エリアで一番強いクランとして、活動して来たので、それが信じられない。
いくらストーリークエストをクリアしたとはいえ、その内容は不明のままなのだ。
「この話は、ここら辺にして。折角だから僕からも聞いていい?」
「あ…はい。どうぞ…」
「どういう経緯でヴァルキュリアって生まれたの?」
マナロが答える。
「私とノイ、ルリ、シオンは、元々友達で一緒に始めたんです。アオイさんとも最初にルリと一緒にログインしててそのまま。月下さんは…」
「あー私は、別の友人と一緒にやるつもりだったんだけど、そいつが約束破って、別のエリアから始めたみたいでね。それで、合流するまでの仮パーティーのつもりだったんだけど……むう、今でも納得いかないわ。何が帝国の方が好き勝手できそう!よ…」
シンは、その言葉にとある一人のプレイヤーを頭に思い浮かべた。
「……あのーもしかして、その変人、ヒューガとか言うサイコでマッドな奴じゃ?」
「あいつの事知ってるの!?」
「うわあ…やっぱ、彼かあ…その内会えると思いますよ。今回は、味方だといいなあ……」
シンが意味深な事を言うので、マナロが詳しく聞こうとすると、馬車が止まる。
「おっと、休憩かな?流石に馬の方が持たないか。じゃあこの続きは、また今度で」
そう言ってシンは、馬車を降りてった。残されたヴァルキュリアのパーティーは、今の話を整理する。
「つまり、シンさんが言うには、シオンのお兄さんは、めちゃ強いって事かな?」
ノイの言葉を聞くシオンは、少し嬉しそうであった。
マナロは納得していないようだが、勝手に推論を並べて、仲間の兄を蔑むのはやめた様で、黙っている。
ルリは、大好きな姉の友人というだけで信用している。
アオイと月下は、様子見ということで話しに決着がついた。
≪北エリア ミュケ≫-南門前
ルキフェルに担がれて移動し、夜が明けてから数時間後の昼下がり、ミュケに到着した俺は、マリア達に迎えられた。
一応飛んでいる時に、メッセージは送っていたので、飛んでいる所を撃ち落とされる事はなかった。
門の前に降り立つとそこには、北エリアの解放戦線に所属しているであろうプレイヤー達が集まっていた。
マリアは、俺の所に来ると、
「グレイさん、本当に戻ってきたんですか!?……シンさんとアイシャさんは?それと、そちらの方は?」
「シンとアイシャは、明日着くよ。こっちは、現在の最強戦力であるルキフェル」
俺の言葉に、マリアは明日着くという言葉には不安そうになるが、ルキフェルのレベルを見てあっと驚く。
そこに、ライオットもやって来る。
「君が来たのか。アイシャから連絡は来ていたが、今日持ちこたえれば本当に勝ち目はあるんだな?それで、そっちは………なんだこのレベル!?150!?」
それに、つられて他の解放戦線のプレイヤーも寄ってくる。
彼らに対してルキフェルは、
「初めまして、ミュケの街のプレイヤーの皆さん。元魔王、現勇者パーティーのルキフェルです。今日は、よろしくお願いします。」
丁寧にキャラを作りお辞儀する元魔王は、案の定解放戦線のプレイヤーを混乱させている。
「まあ、こんな感じの奴だけど。この中で一番強いから心配とかはいらないと思うよ」
実際、会わせればルキフェルは問題ないと思っていた。問題は俺の方だ。
当然、追放扱いされたようなプレイヤー、しかも非戦闘職である俺が戻って来て納得いかない連中もいる。
「こいつは良いとして、なんで、シンやアイシャじゃなくてお前なんだ!一番弱いじゃねえかよ」
この問題は、恐らく今回目の前で証明しなければならない。昨日作戦会議前にしたクラスアップの成果を。
「安心しろ、クラスアップはした。前よりは戦闘職寄りだ」
「そういえば、中央エリアにもクラスアップ施設はあったな。それで、君はなんのクラスになったんだ?ありそうなのは
「それでも良かったんだけどさ。今回は、派生先クラスの
今回のクラスアップで二次職として俺が決めたのは、
「それで、君は何か作戦があるのか?」
「ああ、それは……「来たぞー!!」」
その言葉を聞いて、俺は平原の方を見る。すると、奥の方から《スライムを纏った大熊》》が歩いてくる。
来たかと俺は、アンタレスを構え、矢を番えていた。
隣にいたルキフェルが耳打ちする。
「気を付けろよ、グレイ。あれは、大熊座のアルクトスだ。俺が昔戦った時は、平均レベル120でレイド戦をした耐久お化けだぞ」
ん?思った以上に強すぎるんだけど?
「え、それいけんの?」
「お前……5割削るとか言ったんだから責任取れよ……とりあえず弱体化してるかもしれないから解析しとく」
ルキフェルが解析している間、俺はアイシャ達に戦闘開始のメッセージを送り、ライオットに作戦を伝える。
「作戦は、毒入れて、籠城しながら街中で持久戦だよ!」
そんな作戦ですらないような俺の言葉を全員が聞くわけもなく、何人かは突撃していく。
そして、彼らが大熊の薙ぎ払いで、纏めて街の門にたたきつけられ、死んでいくのを見ると、解放戦線の足が止まる。
「解析終わりました。やはり、アルクトス。弱体化しているとはいえレベル90のモンスターです。皆さんは一旦街に入って下さい。ここは、俺達で撤退の時間を稼ぎます。そのうちに、街中で避難と迎撃の準備を」
ライオットは、どうやら直ぐに理解したようで、残りのクランメンバーを連れて撤退する。
残ったのは俺とルキフェル、そして向かい会うアルクトス。
魔法陣を展開するルキフェルが忠告する。
「言っておくが、まだ毒は使うなよ。作戦がある」
「了解。さあ、日没まで死ぬ気で耐えるぞ。この街は、何が何でも消させない」
俺は、そう言って矢をアルクトスに向けて放った。
それと同時に、アナウンスが現れる。
「襲撃クエストV『悲哀の北斗七星』を開始します」
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