第11話 獅子座決戦会議 【下】

 リミアの発言に教会内の空気が静まる。彼女の発言通りだとミュケが消える?そんなバカな。聞いていた大佐は、質問をする。 


「リミア君。君とアルテシア君はどうやってその結論に辿り着いたのかね?」


「それはですねー、まず、推測から始まったことなんですがー、皆さんはー、北エリアが他のエリアに比べてかなり手抜きされている事をご存知ですか?」


 シンが、答える。


「それは、僕ら3人も疑問に思ったことだ。あの街だけ、やけに機械っぽい」


「そこなんですよー、姫ちゃんが疑問に思って推測を始めたのはー。最初は、クソゲーあるあるの異常な手抜きかと思ったんですがー。グレイさん達が行った森林地帯の平均レベルが妙に高い事とかー、現時点でのシナリオクエストが一切ない事からー、あのエリアは、本来後半から行ける様になるエリアだったんではないか?って考え始めたらしくてー、そうなると拠点用の街としては、施設が不十分である点が解せないので、新たな街が建設されるのでは?って考えたんですよー。それで、情報をさらに集めたらー、とんでもない事がわかって」


 長ったらしい説明にデッドマンがイライラし始める。


「さっさと結論をいえよ!ストーカー野郎!」


「むー、デッドマンさんには、今度お仕置きですね。調べたら東エリアの帝国内で、制御不能の生物兵器が解き放たれたって情報があったらしいんですよー。もしかしたら、それが北エリアの街を破壊するんじゃないかってのが姫ちゃんと私の見解です」


「どうして、その生物兵器とやらが北エリアに行くと分かる?普通は中央エリアに来ると予想するだろう?」


 大佐の質問に、リミアは、


「だって、寂れた街1つしかないエリアですよー?それならいっそモンスターに滅ぼしてもらってー、それを討伐後に、国から移民を行かせて街を作るってシナリオクエストができるじゃないですかー。それなら、街のNPCが機械っぽいのも直ぐに死ぬから雑なんだってなるじゃないですかー」


 JBが反論する。


「これは、VRMMOだぞ!?初期エリアの1つをそんな簡単に壊すと思うのか?」


 違う。それは、初日の時点で考えてはいけない基準だ。なぜなら今は、


「何言ってるんですかー、これは、ですよ。なら、安全エリアに引き籠られるのを阻止するためにー、こういう手段もあり得るでしょ?」


 リミアと姫が考えているのは可能性の話だ。しかし、俺にはデスゲームだからというだけでこの仮定は無視していいとは考えられなかった。


「つまり、こんな所で獅子座の対策を考えるよりもさっさと北エリアに戻った方がいいってことか」


「当たり前ですよー。そもそも何でここで作戦会議するんですかー。そもそもなんでグレイさん達北エリアでプレイヤーと揉めたんですかー?」


「まあ、表向きは追い出された事になってるけど、裏では繋がってるし…」


 リミアは、頭を抱え、


「今、連携取れてない時点でダメじゃないですかー。バカなんですかー?急いで戻らないと間に合いませんよー」


 そんなリミアにヴァルキュリアに所属するノイが質問する。


「なんで?まだ向こうから連絡は来てないんでしょ?明日出発しても余裕じゃないの?」


 リミアは、忘れてたという顔で、


「あーそうでしたー。これが一番重要で、今さっき姫ちゃんから連絡があって、もう向こうでは襲撃クエストが始まっているみたいなんですよー」


「はあ!?お前さっき数日中に消えるって言ったじゃねえか!」


 デッドマンが文句を言うとリミアは、


「だから、街が消えるのは数日中ですよー。そのモンスターが街を破壊し尽くすのにかかる時間なんですからー。まあ、北エリアのプレイヤーがそれだけ耐えたらの話ですがー、私の予想は明日の夜には全滅してるんじゃないですかねー」


 待て、俺にはマリア達からそんな連絡は来ていない。


「因みに北エリアのプレイヤー達の多くは、何故か内密に片付けようとしているみたいですよー。そもそも、エリア間の移動もままならない状況ですし、どっかの誰かさん達は、追放扱いですしー」


 マズイぞ、いくら何でも街を滅ぼすためのモンスターに今の北エリアのプレイヤーだけじゃ戦力不足だ。


 リミアは、アイシャに改めて顔を向ける。


「と、いうわけでアイシャお嬢様。意地とかプライドは捨ててさっさと決断してください。ここは、あの家ではありませんよ。貴方に発言権はあります。ここは、貴方が決められる場所です」


 アイシャは、リミアに言われて納得はしたのか立ち上がり、ヴァルキュリアに頭を下げる。


「分かったわよ……ヴァルキュリアの皆さん、どうか私に力を貸して下さい。襲撃と獅子座の討伐に協力してください」


 アオイは、アイシャを見て、不服そうではあったが、


「次に、ルリを泣かしたら例え妹のあんたでもただじゃおかないわよ」


「アオイお姉ちゃん!やりすぎないでよ!?」


 何とかアイシャの方は解決したが、まだ移動手段も問題が残っていた。


「移動手段は、どうするんですか?」


 質問したのは、ヴァルキュリアの弓使いマナロだ。


「そもそも北エリアのその街までどのくらいかかるんですか?それによっては、行く意義が見いだせなくなります」


 シンが答える。


「馬車ならざっと3日か4日ってところだね」


「なら、行ったところで全滅しています。北エリアの方々には申し訳ないですが犠牲になってもらって私達は、次のストーリークエストに向けて準備した方がいいと思います」


「お前、北エリアの人を見捨てろって言うのか!」


「貴方…確かシオンのお兄さんでしたよね。バカなんですか?物理的に考えてどうやって1日でたどり着くつもりですか?」


 アイシャが横から口出しする。


「出来なくはないわよ」


 その言葉で俺は、そんな方法あったのかと考える。考えて、出たのは今日可能性となったアレについてだった。


「どうやって………てあれ今使えるのか!?まだ今日起きたばっかのフラグだぞ!?」


「ああ、あれか。アイシャ僕たちだけでいけるの?」


 シンと俺に思いついた手段は、国王に頼んであの馬鹿みたいに速い馬を借りることだった。


「私達だけで行っても無理でしょうけど、エルミネ連れてけばいいのよ」


「うわ~勇者をそういう風に使うんだ……」


「あの子、どうせ暇してんだからあの集団ごと連れていくわよ。最低でもルキフェルは連れていく!あれはやってくれるはず」


 大佐は、アイシャに確認する。


「つまり、今回の作戦は、どうするのだ?三人だけで話が完結しても我々は、わからないぞ」


「ああ、ごめんなさい大佐。方法は、現在最速の馬車を所有している国王から勇者経由で、神速馬を借りて行く。あれなら数時間でミュケまでたどり着く。これしかない」


「あり得ません!相手は国王ですよ!?いくら勇者と知り合いだからって……待ってください、さっきフラグって」


「気づいた弓使い?もう国王編クエストで謁見はできんのよ。可能性はある。ならやるしかないでしょ?」


 大佐が話を纏める。


「決まったな。明日の朝、謁見可能の時間になったら即行動開始だ。各々準備はしておけ」


 それを聞いた廃人達は、一人また一人と教会から出ていく。


「頭おかしいんじゃないですか…?こんなの国王が許可しないで終わるに決まってるのに…」


「それは分かんないわよ。というか、ダメなら勇者の馬車借りるし。それなら1日ちょいで着くからリミアの予測が外れてたら間に合うわ」


 シオンが俺に聞いてくる。


「本気なの?お兄ちゃん?大丈夫?」


「心配すんな、もし、国王がダメでも…」


「ダメでも?」


「まあ、お前は気にすんな。明日行くことだけ考えてろ」


 俺はシオンの頭の上に手を置くと優しく撫でる。


「ちょっ!子供扱いしないで!別に心配してないよ!じゃあおやすみ!」


 ヴァルキュリアのパーティーも帰った後、教会には、俺達三人が残る。


「さて、あんな事言ったけど、絶対の保障はないわよ。例えクエストを受けたとしても、馬車使うかは分かんないし。というかあの馬車国王専用だろうから王様一回助けたくらいじゃそんなの借りれそうにないわね」


「それに関しては、僕も同意見だね。あのままだとあの弓使いの子にその場の意見が流され……いや、何だかんだ皆んな行ってくれるだろうけど。やっぱり時間がなあ」


 俺は、一つの可能性に賭けることにした。


「俺は、絶対諦めるつもりはないぞ。まだ、あっちには言ってないが頼る奴がもう一人いる」


 二人とも検討はついてるようで、


「それがありなら、最初から悩まないし、全員もいらないんだろうけどなあ」


「そうね。まずは聞いてみようかしら。彼、今寝てるわよね?」


「ああ、あの魔王様に賭けてみる。だからお前らさっさと来いよ?じゃないと俺とあいつで倒す羽目になるからな」


 解散した後、ユノであるプレイヤーは、先程の会議で有り得ない名前を耳にして驚いていた。


(エルミネ…ルキフェル…聞き間違いでなければ、恐らくはあの二人の事でしょう。あり得ません、デフォルト設定である勇者と魔王の名前と異なっている。ヘラは何をするつもりでしょう。過去の実験で死んだ人間のデータを持ち出すなんて。目的を聞き出したい所ですが、先に当初の目的を果たさなければ……)


 彼女は、疑問を抱きつつも目的の人物探しを優先する事にした。















  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る