第8話 首狩りのアルデミラン

 エレネとの再会した日の午後、ケイトスの正門、つまりこの街に入った際に通った門の前に行くと、そこには勇者と魔王達と一緒に、大型の黒い馬二頭が引く馬車2台が並んで止まっていた。どうやら来たのは俺が最後のようで、シンとアイシャは既に後方の馬車に乗り込んでいる。俺に気づいたマーロックが、


「来たか!お前さんで、全員だ。早く乗れ!出発するぞ!」


 俺は、後方の馬車に乗り込むとシンとアイシャの他に見知った顔の4人が乗り込んでいた。フリンとコリンの姉妹、さらに魔王とティナだ。魔王は白いローブを深く被っている。シンとアイシャの近くに俺が座ると、馬車が動き出す。魔王がいた村で聞いた情報通りならば、明日には王都メトロイアに着く予定だ。それまでは、かなり長い旅になるだろう…………なると思っていた……………………しかし、勇者の威光は予想以上であった。


 現在馬車が動き始めて4時間後の昼休憩、マーロックに今どの辺りなのか聞くと、


「今は、もう王都まで半分のところだ。今日中には辿り着くだろう。運が良い、ケイトスに我々が来た時に使った馬より速い馬である『神馬種』がいて。乗せてもらう代わりに警護を任されているが、それはこちらでやっておく。あまり、あれを人目にさらすわけにもいかないのでね」


「それに関しては、構わないけどこんな馬を所有しているなんて、どんな人なんだ?」


「ノーコメントだ、そして忠告する。お前さん達は、我々の方へは決して来るな。何があってもだ」


 念入りに忠告された俺は、その後馬車に戻るとシンとアイシャにその話をしていた。


「いったい誰なんだろうな?そんな金持ち、出来る事ならお友達になって馬借りたいけど」


 すると、珍しくメッセージが届く。差出人は、目の前に居るアイシャだ。メッセージを開くと


「それは、多分エリシュオン王。出発前にチラッと見えた姿が発売前パッケージに映っている絵と一緒だった。それと、この事は全力で知らないふりをしてなさい。そっち関連のシナリオクエストとか受けたら最悪東の連中と殺し合いよ。そんな厄介事、絶対に抱え込みたくない」


 …………了解と、返信完了。寝るか、俺も。


 3時間後、熟睡している所に


「…………襲……敵…………敵襲!!グレイ、起きなさい!!」


 その声にはっと目が覚める。アイシャに起こされ、外に出ると既に空は夕暮れ時、王都はもう既に目の前に見えていた。それと同時に何故か盗賊団らしきものに取り囲まれていた。数はざっと100人はいるだろう、見ただけで強そうとわかる装備を付けた男がシンと戦っている。おそらく頭領だろう。高らかに笑い声を上げながら切り合っている。


「ぎゃははは!お前面白いな!俺と互角に戦えるとは、そこの金持ちから金ふんだくるつもりがこんなに楽しい事になるなんて!」


 このタイミングでの盗賊襲来は、お決まりだがそこは、魔王みたいにもっとズレててほしかった。


「何で王都の目の前で盗賊に襲われるんだよ。こんなに近いんだから王都の騎士がいるだろう」


「それなら、あそこに首が転がってるわよ。集中しなさい、どうやら新しいシナリオクエストが始まったみたいだから」


 何を言っているんだとメニューを開くと、ログ欄に、しっかり書かれていた。


「シナリオクエスト王国編『首狩りのアルデミラン』が開始されました」


 急展開に慣れてきたのか俺は、一息ついて、アイシャの方を見る。


「なあ、これって絶対に面倒な奴だよな?何で巻き込まれてるんだよ」


「知らないわよ、雨男ならぬシナリオ男でもいるんじゃない?とにかく魔王は外に出せない。勇者ちゃん達は、国王陛下の守りで精一杯。シンが大将首取るまで、この雑魚を相手するわよ。あの弓出しなさい」


 言われなくてもそのつもりだ。俺は、アンタレスを取り出して構え、集団目掛けて5本放った。それは10本に倍増し、命中する。矢の残り本数からして、半分くらいは減らせるだろう。次の矢を番えていると、馬車の上から盗賊の1人がジャンプ切りをしてくる。矢の発射は間に合わない、思わず弓で受け止める。すると相手の剣がなんとへし折れた。戸惑いつつもゼロ距離射撃で盗賊を倒すと、それを見ていたアイシャが、片手でメニューをいじりながら、


「その弓どうなってんのよ!?その辺の剣なら全部へし折れるんじゃない?」


「当人である俺ですらチートスペックに若干引いているぐらいだ。それでも前衛がいないのは結構厳しいぞ。二人とも近接向けのクラスじゃないだろ」


「それでも、やるしかないんだから気合い入れなさい。まず向こうの集団よ、大技で、削るから後詰めをお願い」


 ロングスタッフで、盗賊の1人を殴り倒しながら、彼女は俺がまだ見ていない新しい魔法を唱え始めた。


「ブリザード」


 彼女のスタッフが指す先の範囲に居た盗賊達がどんどん氷漬けになっていく。それを何とか逃れた奴らを正確に狙い撃つ。


 アイシャのブリザードは、その後2発使われ盗賊団の人数も残りは、頭領を残すのみとなっていた。最初は、シンが倒すのが先だと思っていたが、相手側もかなり強いようで、正面から斬りあっている。下っ端を片付けた事で手の空いたマーロックがこちらにやってくる。


「あの戦いは恐ろしいな、援護したくとも入る隙が見当たらない」


 何故かアイシャは得意げに、


「当然よ、うちのエースですから。でも案外相手も強いわね、このままだと武器差で泥沼化しそうだし…………よし、グレイ!アルデミランの頭をスキルで射抜ける?」


 無茶ぶりだ、ちなみにそんなことは出来ない。出来たら格好いいが、一瞬止まってくれてそこに予測で、撃っても当てる事は、出来ない。あいつと切りあえる人間なら絶対に感覚だけで判断し、。MBOでの経験がそれを裏付けられる。


「無理だ、あいつアンタレスのスキルでも避けられるぞ。それでも、援護はできるかもしれないが」


 マーロックが信じられないような顔をする。


「本当にそんな事が可能なのか?お前さん今、相手に矢は避けられると言っていたじゃないか?」


「当てらんないよ、だから隙ができるように避けさせる。剣を持っている右手が矢を避けた直後のシンの攻撃に間に合わない形が理想」


 そう言って矢を番えて狙いを定める。放つ矢は、1本スキル効果で倍の2本。そして、アルデミランの真後ろからを放つ。毒矢は、2本とも真っ直ぐ彼へ向かい顔に命中する寸前に回避される。やはりアルデミランは、思っていた通り、見ずにギリギリで避ける。そうすれば矢はシンにとって予想外の攻撃になるからだ。


 でも勘違いしてるぞ盗賊。そいつシンは、そんな物弓矢。シンは、剣を持たない左手で1本の矢を掴み腕を振りぬき鏃をアルデミランの首をかっ切る。互いに剣先は、下を向いている状態でシンの突然の攻撃にアルデミランは対処出来なかった。シンプルな理由で、ただそれだけの事だ。傷は浅いが、これは毒矢だ。時間をかければシンの勝ちは確定だろう。


「おい!何をしたんだ!あの剣士は!?」


「何って、撃って来た毒矢を掴んで攻撃に使った。あの盗賊は、俺の矢を避けてシンに当てようとしたから一瞬判断が遅くなった。だから切られた」


「完全に死角からの発射だったろう!もし剣士が避けられなかったらどうする!?死んでいたかもしれないんだぞ!?」


 なんだ、そんな事か。こういう事は、向こうじゃたまに掲示板とかで言われていたな。味方を巻き込んだ攻撃は二流だとかなんとか。


「あいつは絶対に。例えどんな事があろうとそれだけは不変の真理だ。当たらないと分かっているなら巻き込んでも構わないだろう?むしろ今回みたいに有効利用してくれるかもしれない」


 エルミネは、血の気が引いた顔で俺を見ていた。いつもそう、向こうMBOでもこの話は、そういう風に捉えられる。これを笑って聞くか、真剣に捉えたりするのは、あの魔境馬鹿MBOランカーどもくらいだ。


「こんなことができる人もいるって頭の隅に入れておけばいいよ。そろそろ、あいつ勝ったかな」


 戦いの結果は、当然のことで地面に倒れているアルデミランと余裕の表情のシンの姿であった。シンに俺が呼びかける前に今まで勇者が守っていたが声をかける。


「そなたたち、誠に大儀であった!時間があれば城に来てくれ。そなたたち程の強さになら頼みたいことがある。では、城で待っておるぞ!」


 それだけ言うと、馬車を走らせて王都に入っていった。残された俺たちは、


「とりあえず、王都に入ろうか。さっさと魔王をクラスチェンジさせよう」


 そう言って、馬車を引き始める。馬車の中で気づいたのだが、魔王に国王を守らせるシチュエーションを作れば、良かったんじゃないか?とアイシャに提案したところ、


「ばかね、そんな簡単に上手く行くわけないでしょ。もしも、グレイが街中で、指名手配犯の殺人鬼に殺される所を、同じく指名手配の殺人鬼に助けられたら、その人を正義の味方とほんとに思えるの?」


 なるほど、それは当然の事と納得してしまった。やはり、そんな都合よくは行かないらしい。


「シナリオクエスト王国編『首狩りのアルデミラン』をクリアしました」

「クエスト参加者全員に称号が配布されます」

「クエストMVP:シン」

「クエストMVPに称号とアイテムが配布されます」



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