第7話 ユノと俺らのロジック

 ≪中央エリア  エリシュオン王国 北部≫-ダンジョン街ケイトスー酒場内


 

 エレネとの衝撃的なお茶会が一方的に終わらされた後、俺は食事中のシンとアイシャの2人にお茶会の出来事を話した。2人の反応はそれぞれで、まずシンは、


「牙を渡してくれたのは、そのNPCなんでしょ?だったらこの話は、信じてみてもいいと思うよ。そりゃあサソリをけしかけられたのは、許せないけど、最後にみた黒ローブの話を聞く限り、僕の恩人かもしれないし。仮に運営が用意したクリア阻止の為のNPCだとしても今の所は協力的ならいいんじゃないかな。でも、これから会うプレイヤー全てを警戒しろだなんて難しい事だけどね」


 シンは、エレネの存在に対して好意的でこれからも力を借りようとしている。反対にアイシャは、


「微妙なところね。別に私はサソリの件を根に持っているわけじゃないけど、グレイが牙の存在に気付かなかった可能性だってあるわ。もしかしたら、行方不明になっていたパーティーの人達にも接触して牙を渡していたかも知れない。そうやって、色々なプレイヤーにこっそり関わって、試練めいた事をやらせてたのかもしれない。その1つがあのサソリだとしたら、次は何と、どんな状況で戦わされる事になるかわかんないわよ。彼女、あんたを手伝うって言ってたんでしょ?なら、あの時みたいなことがまた起こるはず」


 アイシャとしては、将来的に彼女と関わる事で俺たちに来るリスクを心配している。

 その辺りは、情報過多で、あの時整理しきれなかった俺のミスだ。

 アイシャは、話を続ける。


「それに、そのNPCは存在自体が。AI管理者がいて、更に話が本当だとすると、この世界を上から観てるかもしれない神様気取りの運営陣が気づかないようなNPCなんて作り出せるはずがない。さっきの否定になるけど、グレイにだけ会っていたとしても、運営は私たちが、サソリを倒した時に、グレイの過去の行動ログを見るだけで、一発で彼女の存在は、向こう側にばれる。そうなると隠れながら支援するのも不可能になる。シンのテレポートの件だってそう、あんなの自分の正体を管理者に明かしているようなものよ。なのに、彼女は管理者ユノから認識されてないと言いきれる。そんな不思議より最初から運営が周知しているプレイヤーを惑わすためのイベントNPCの方が辻褄が合うわよ」


 確かに、そう言われるとそう思えてきてしまう。エレネの件は、まだまだ解らない所が多い。だが、彼女が敵にはどうしても思えなかった。しかし、管理者ユノから認識されていないのは、どうしてなのか分からない。いちNPCが認識されないなどあり得るのだろうか。悩んでいるとシンが、


「エレネってNPCが敵か味方かの議論は置いといて、アイシャが不思議って言う所については、思いついた方法がある」


「そんな方法あるのか?」


「エレネの話が全て真実である前提だけどね。逃げる方法は、多分隔離サーバーに逃げているんじゃないかな?アクセス権がそれこそエレネしかないような。それで、肝心の認識がされないって部分だけど、管理者ユノ自体にそうプログラムされているんじゃない?特定のアカウントについては閲覧されないみたいな」


 アイシャはシンが何を言いたいか理解したようで、


「待って、つまりエレネの製作者は、ユノの製作者と同一人物ってこと?それならなんでデスゲームなんて始めておいて、そんなお助けNPCを放り込むのよ。矛盾してない?」


「そこまでの事じゃないよ、でもユノに対して気づかれる事無く、そんな仕込みを行える人なんてまずいないでしょ。理由は…心変わりとか?」


 そこで、俺は、ふとエレネとの会話を思い出す。


「そういえば、話が途中で終わったのは、ユノがこっちに来ているからって言ってたしな。これから会う人に気を付けろって事は、ユノがアバターを偽って接触しに来るってことだろうし。それなら今の運営は誰がやっているんだ…もしかして…」


 シンが、そこに被せてくる。


「それだ、ユノは矛盾に既に気付いている。でも確証が得られないからこの世界で有り得ない物を持っていたグレイに接触しようとしている。その間も運営を続けるなら、ユノと同スペックの人工知能がバックアップで存在しているはず。それも同一人物が製作者もしくは関わっていたら、今のデスゲームは、僕たちの協力者が運営している事になる」


「なら、なんでデスゲームを終わらせないのよ。一番のは、普通それをすることでしょう?でも終わらないって事は、今の運営が敵味方どっちであれデスゲームを続けるって意思なわけだし。つまり、彼女もゲームクリアする事には協力的だけど、今すぐにデスゲームから解放する事は非協力的って事よね。結局彼女は、敵なんじゃないの?」


 今すぐに結論が出る議論ではなかった。このまま、彼女の敵味方判断に時間をかけていても情報の少ない現状では、時間の無駄でしかなかった。


「この件は、再度彼女にあった時に聞くとしよう。それまでは、最後の伝言にあったこれから出会うNPCと知らないプレイヤーに注意する。後は、向こうに座っている魔王達のクエストを終わらせて、獅子…いや彼女曰く獅子座か、それを倒すことに集中しよう。倒せばまた会えると言っていたし」


 俺は、向こうのテーブルで騒ぎながら飲んでいる勇者と魔王を見てそう言った。


 ___________________


 ≪南エリア 魔導大国エル・イーリアス≫-首都ガブリエラー路地裏にて


「助けて、助けて、助けて、助けて、うわあああああ!!!」


 とあるプレイヤーは、黄金の髪をした女性から謎の光を浴びると口から泡を吹き出して壁を背にへたり込む。気を失って痙攣しているそのプレイヤーに、向かって光を放った女性が手をかざすと彼女は、気を失っている吸い込まれて消えていく。すると痙攣が納まり立ち上がった女性は、自分の思い通りに身体が動くかを確認する。


「あ、あー、ふむ。ちゃんとこのアカウントに馴染んだようですね。このプレイヤーであれば警戒されずに近づけるはず。それに、このプレイヤーは『グレイ』と接触する可能性が高いアカウントです。後は期限までに、このプレイヤーになりきらなければ」


 管理者ユノは、このゲームの1プレイヤーとなり替わった。そして、彼女はそのアカウントを操り何事もなかったかのように街へと繰り出していった。



「差し当たっての目標は、エリシュオン王国ですね。急がなければ……この口調も変えないといけないんで……だった」

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