第6話 《私は必ず貴方を勝たせる》

 魔王ルキフェルが勇者パーティーと共にエリシュオン王国の中心、王都メトロイアに向かう事が決まった翌日の朝、村の前には勇者パーティーの4人と俺たちプレイヤー3人そして魔王ルキフェル……と何故か準備万端の格好をした村娘ティナの9人が揃っていた。勇者は嫌そうな顔でティナに聞く。


「本当について来る気か?遊びに行くわけじゃないんだぞ」


 対して、ティナは真剣な顔で、


「あなた達を放っておいて魔王さんが無事に帰って来る保証はありません。ならば、私がついていく事は当然のはずです。王都に行けば私はあちらに住むつもりですから心配されることは何一つありません」


 俺たち3人からすれば、あまり気にするようなことでもないし、エルミネ以外のパーティーメンバーも反対する気はないらしい。魔王は一緒に王都に行けることを喜んでいた。エルミネは唯一の望みであるティナ母に、反対しないのか?と聞いていたが、


「娘の旅立ちなんて、こんなに嬉しいことはありません!」


 と言っており、結局エルミネが折れた。


 村の人々に見送られた俺たちは、勇者パーティー先導で2時間程かけて歩き、昼前にダンジョン街『ケイトス』に辿り着いた。街に入る時に門番達が立っていたが、エルミネの勇者パワーによって魔王に何の疑いもかけられぬまま簡単に街に入ることが出来た。マーロックが使う高速馬車の手配をしている間、俺たちは街の散策でもして時間を潰す事にしていた。それぞれが武器だ防具だ食料だと散っていく中で俺は、時間潰しにダンジョンを見に行こうと思い中央にそびえ立つ塔のような所目掛けて進んでいた。


 こうして街を歩いていると、街の住人達は、ミュケと同じように活気に溢れている。しかし、あの街では基本的な返答が決まっており、武器屋でポーションが欲しいと言っても、薬屋を勧められるだけであった。それ以外の会話は発生しない。この現象は未だ北エリアのみとなっている。それに対して、この街の住人は住人同士でも会話しており、生活感が出ている。とてもゲームとは思えないほどだ。そんな街を歩いていると横道も何かあるのではと気になってしまい、近くの横道に入っていった。その道は、灯りが届かず暗く狭い通りであったが一店舗だけ店がやっていた。俺はその前を通るときにその店の名前に目を惹かれた。店の看板には、


『エレネ商店~貴方を待ってます~』


 と書かれていた。エレネってあの牙をくれた少女と同じ名前だよな。

 

 俺は、興味本位で店のドアを開けて中に入る。店の中は窓が一切なく電球のような物がチカチカ光っているため薄暗く、商店という割に品物は何も置いてない。しかし、ガラス製のカウンターの向こうにミュケの墓であった時の同じ姿の少女が微笑みながらこちらを見ていた。彼女は、優しい声色で話しかけてくる。


「久しぶり、約束通りまた会えたね。グレイ」


 彼女に話しかけられてもクエスト発生のアナウンスもメッセージも来ない。シナリオクエスト中はストーリークエストが発生しないのか?もしくは別の理由が……


「そんなに考えても答えは出ないと思うよ、とりあえず椅子を出すからこっち来て座りなよ。このお茶会の間は、さそり座を倒したご褒美に色々質問に答えてあげるよ」


 彼女が指を鳴らすと部屋が明るくなり、カウンターが消えて、そこにはテーブルと2つの椅子が現れる。彼女の装備は、カジュアルな服に早変わりし、テーブルの上にはティーポットと紅茶が注がれたカップが2つ置かれている。彼女は椅子に座り俺を呼ぶ。


「早く座って、紅茶冷めちゃうよ」


 俺は、戸惑いつつも椅子に座り彼女と向かい合う。彼女は、紅茶を飲みながら話し始める。


「さて、グレイは何が聞きたい?あのサソリを倒した牙の事?それとも不思議な魔王の事?時間が許す限り答えてあげるよ」


 そう言われると聞きたい事が山のように出てくるが、まず聞きたかったのは、


「エレネ、君は何者なんだ?」


 彼女は、待ってましたと言わんばかりの表情で、答えた。よく見ると眼が光り輝いて見える。


「よくぞ聞いてくれました!私は、エレネ。スーパーNPCエレネ。君たちプレイヤーをゲームクリアさせる為のお助けキャラだよ!」


 お助けキャラって、デスゲーム運営が普通そんなの用意するのか?


「あ、今デスゲーム運営が普通そんなの用意しないとか考えてたでしょ。そりゃ、あの管理者と開発スタッフの殆どは、私が存在している事なんて知らないはずだよ。知っているのは、私を作ったとごくわずかな《協力者》》だけ。そんなお助けキャラがいたらダメってスタッフ達は考えているし」


 今、なんて言った?ゲーム開発者やゲーム管理者すら知らない存在?そんなキャラが有り得るのか?


「ありゃりゃ、ちょっと困惑してそうだね。勿論、私の事は向こうには認識されてないはずだよ。まあ、ログとか見られたら不可解な所が出てるかもだけど。」


 つまり、エレネは俺たちの味方で、この事は殆どの人間が知らない。


「君の事はなんとなくだけど分かってきた。なら、さっき言っていたゲームクリアの為に俺に牙を渡したのか?」


「んー、アレはあの子がお礼をしたいって言って聞かなかった所もあるね。お礼の品に困ってたんだけどグレイがグラフォラス森林地帯の奥地に行くって聞いて、丁度いいからさそり座をここで倒させようと思ってね」


 ん?待て、その言い方だと........


「ちょっと待った、その言い方だと俺達がサソリに会うのが分かってたみたいだけど」


「分かってるも何もさそり座を嗾けたのは私だよ。普通に王道ルートで森林地帯から脱出しちゃったから慌ててさそり座を配置したんだよ」


 なっ!!


「あれで俺達は死にかけたんだぞ!」


「それに関しては謝るよ、ごめんなさい。でも、ベノムマンティス弱らせて放置したり、グレイ達がモンスターにエンカウントしないように間引いたりしてたんだよ。私だって再会の約束を自分から破るつもりはなかったんだから」


 あの弱ったベノムマンティスは、エレネのおかげだったのかよ。


「それに関しては、その…礼は言うよ…………」


「まあ、私のこれからの目的はグレイをクリアさせる事に決めたから。これからは、ちょこちょこ会えるかもね」


 え?どうしてそうなった?


「なんで俺をクリアさせる事が目的になるんだよ。普通全員じゃないのか?」


 すると、彼女の眼は黄色から真紅の色に変わる。足を組み始めてテーブルの上にのせる。それによって、纏う雰囲気も別人のようになる。


だって聖人じゃねえんだ、楽してクリアを待っているような雑魚をなんで助けなきゃなんねぇ」


 口調まで変わり、別人と話しているようになる。エレネ?は続ける。


「そもそも、このゲームは元々クリア率0%のクソゲーなんだよ。お前らは、クリア出来る可能性があるだけマシだと思え」


 言いたい事を言ったのかエレネ?の眼は黄色に戻る。彼女は、小さく咳払いをして、姿勢を戻した。完全に今のは無かったことにしようとしている。しかし、顔や耳は真っ赤になっていた。


「ゴホン、今のは噓。ちゃんと全員助けるよ。でも、クリアするのは、誰か1人でいいでしょ?さて、話を進めると次の質問は、恐らくなんで君が選ばれたかどうかなんだろうけど、これには、理由があってね。1つはちゃんとトレミーシリーズ、つまりボスの事ね、これと戦える事。ボス戦で戦力にならない人を手助けする意味はないしね。もう1つは、グレイがこのゲームをクリアするのに必要な物を持っているから。これは、自分で考えてね」


 なんだ?クリアに必要な物って、アイテム.......いや、アンタレスの事か?


「実際は、アメリカサーバーや、EUサーバーにもグレイみたいな候補者達はいるんだよね。今回は、どこかでサーバー合併させるつもりらしいけど」


「サーバー合併!?というかサーバー分けられてたのか?」


 エレネは、さも当たり前かのように話す。


「そりゃあそうだよ。だって、このゲーム世界中で発売してるんだよ?ダウンロード販売すれば誰だって買えるよ。サーバーを分けているのは1つの大陸じゃ全員入り切らないから、いずれ纏める時が来ると思うけど、その時にどれだけのプレイヤーが残っていることやら……」


 それについてもっと詳しく聞きたい。そう思い深く聞こうとした時、


「あ、ごめん!どうやらユノの奴がこっちに来たみたい。急いで身を隠さないといけないから今日はここまで!また、ストーリーを進めたらどっかで会おうね。グレイ!」


 そう言って、彼女が指を鳴らすと商店自体が天井から壁を伝い床に向かって収縮していく。やがて小さいタイルのような物になると彼女は、それを拾いしまった。


「それじゃグレイ、最後に伝言が2つ!1つは今受けているクエスト、あの3人をハッピーエンドに導いてあげて。もう1つは、ユノが必ずグレイに接触してくるだろうからこれから新たに出会う全てのプレイヤーとNPCには注意して。ユノがどんな形で接触するか何とも言えないけど、今日私と会って聞いた事は余り他の人に話さない方がいいよ!あ、でもシン君とアイシャちゃんには話しても大丈夫!あの2人は迷惑かけちゃったし。それじゃあ!!」


 その後彼女は黒いローブを纏って消えていった。商店があった場所には、俺一人がポツンと残されていた。


 

 ≪中央エリア エリシュオン王国≫-西側


 黒いローブを纏った少女が、突然現れる。彼女は、顔を覆いながらうずくまり、


「やっちゃったああ!!」


「うーん、どうしよお…あれ絶対見えてたよね……なーんで、スカート穿いちゃったんだろ……」


 彼女は、誰もいない荒野で一人誰かに向かって話し出す。


「というか、何で勝手に出てくるんですか!今は、私の体ですよ!!女の子なんですよ!!!」


 当たり前のことだが誰も答えない。しかし、彼女は続けて、


「しかも、あの言い方だと次に会った時に絶対聞かれますよ?……え、いいって?私は良くないんですよ!!この身体を任せるのが怖いんです!!」


 彼女は、一人で喋っていたが、もう何も言っても無駄と感じたのか諦めた表情で、


「はあ……いいですよ……でもやる事はしっかりやって下さいね」


 彼女は、彼がいるであろう北の方を向き、


「覚悟してね、グレイ。よ」

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