第9話 『ラスト・ピリオド』

 ≪中央エリア エリシュオン王国≫-王都メトロイア


 王都に入ると、そこは今まで訪れたミュケとケイトスの比にならないくらいの人で賑わっており、所々にプレイヤーらしき姿も幾人か見受けられる。既に西と南のプレイヤーは、多数辿り着いているのだろう。北側は、距離とレベルの関係で俺たちしか来ていない。実際、南は、レベル20あれば中央エリアの適正レベルだそうだ。


 フードを被ったルキフェル、ティナは、王都の賑やかさに圧倒されて立ちすくんでいるのかと思いきや、見慣れた景色を見るかのようで、全く気にしていない。ルキフェルはともかく、村娘であるティナがこの様子なのは、不自然である。イベント用NPCだとしたら、ここは景色に圧倒されているはずだが、そうでない事と今日会ったエレネとの会話で言及された事がどうにも気になっていた。一体、この2人は何者なのだろうか。少なくともエレネと同じくただのNPCでない。


 不思議に思ってい居ると、隣でフードを深く被ったフリンが、俺の服を引っ張り、


「早く行きますよ。ボク達も今国民に見つかると面倒ですので」


「ああ、わかってる。じゃあ、案内頼むな」


「はぐれたら置いていきますよ」


 フリンは、プイっと前を向き歩いて行く。やはり、嫌われたままかもしれない。そう思い、付いて行こうと歩き始めようとすると今度は、後ろを歩いていたコリンが俺の肩を叩き、


「あの子は、とても優しい子……だから別に嫌われてはないと思う……」


「コリン…………」


「でも、わたしは、グレイがフリンにした事はまだ許せない。だから嫌い…………」


「言い訳はしないよ、あれは依頼があっての仕事だ。そっちもそうだろ?」


「…………だから、絶対に許さないわけじゃない。これは、姉としての個人的な怒り」


 まあ、その内この姉妹とも打ち解ける日が来るだろう。それがゲームクリアまでに来るかは知らないが。

 

 そして、フリン達について行くと、大きな教会の前に辿り着く。中に入ると司祭を含めた神官10人が待っていた。俺たちが来たことを確認すると、司祭が前に出て、


「ようこそ、勇者様、並びにお付きの方々、そして、魔王様。国王様から話は聞いております。どうぞ、こちらへ」


 そう言って、教会の奥から下へ続く隠し階段が現れた。エルミネに話が既についていることについて尋ねる。


「国王様の馬車乗せるのに、素性を教えないわけにいかないでしょ。一々、王宮で話に行くより、あそこで許可もらっておけば、楽に進むじゃない。誓約書はあるからダメ元で通信石で聞いてもらったら、あっさり許可もらえたのよ。神がそれを許したとかなんとか言って」


 (この世界でのって、ようは管理者か運営だよな?ということは、エレネの協力者が裏で手助けしてくれてるのか。そこまで、この世界に干渉できるのに、ログアウトは頑なにさせないのは、やはりクリアさせたい理由があるのか?)

 

 司祭達について行き長い階段を降りる間、ずっとそのことを考えていた。やがて、下にたどり着くとそこは、大きな鍾乳洞が広がっており天井までは30~40メートルは離れているであろう高さの神秘的な空間であった。少し進むと大きな水晶が地中からドーナツ状に生えている場所に辿り着いた。司祭達は、そこで止まりこちらを向く。


「では、魔王ルキフェル様。こちらの水晶の中央部にお立ちになって下さい」


 言われた通りに、ルキフェルが真ん中に立つと、水晶が光り輝き始めた。


「では、ルキフェル様。貴方の頭に複数の可能性が浮かびます。その中で貴方がなりたい可能性を思い浮かべてください」


「ええ、それでは、私はこの『魔導…ッ!!頭がッ…!」


 ルキフェルは、急に頭を押さえ始めた。司祭達も困惑していたが、少しすると痛みが引いてきたのか、立ち上がる。


「わお、魔王様のポーズが凄い厨二感漂ってるね」


 シンが吞気にそんなことを言っていたが、ルキフェルの雰囲気に違和感を感じる。

 司祭が恐る恐る尋ねる。


「魔王様…何か問題でも?」


「いや、何でもありません。クラスチェンジ、『魔導戦士バスタードマジシャンに変更』


 宣言の後、彼を光が包み込み、クラスチェンジを行う。どうやら、成功のようだ。しかし、クラスチェンジが終わった後、彼は辛そうな表情をしていた。ルキフェルは水晶に囲まれた場所から出ると、エルミネとティナの2人をじっと見ていた。


「何か用?ずっと見ているけど?もうあんた魔王じゃないんでしょ?これで私の存在理由も無くなったし村に帰ろうかしら」


 エルミネは、魔王がいなくなったことで、嫌みを言う。聞いていたティナは、


「エルミネさん、何ですかその言い方!せっかく戦わなくて済んだのに」


「うるさいわね!こちとら失業したのよ!嫌みの1つも言いたくなるわよ」


 まあ、これで勇者の仕事は無くなったようなものだしな。そう考えるとシナリオクエスト勇者編は一体どんな内容だったのかちょっと気になってくる。


「まだ、勇者の仕事は終わってないですよ」


 突然ルキフェルが、そう言い出す。マーロックがそれに対して、


「お前さん自分から魔王をやめたじゃないか。そうなったら勇者は何の為に戦えばいい?魔獣退治なら冒険者でもできる。勇者の特攻は魔王専用なんだぞ?」


「それは、まだ第一段階のクラスだからです。クラスアップさせれば特攻範囲は広がります。勇者だったらまだ平和の為に努力してもいいのでは?」


「何よ、それ!私が何もしてないっての!?誰のせいだと思ってるのよ!」


「失業理由をこっちになすりつけないで下さい。貴方は、魔王がいなくなれば全部解決すると思っていたんですか?頭空っぽなんですか??」


「あんたやっぱここでぶった切ってやる!!」


 今にも切りかかる寸前のエルミネをフリンとマーロックが必死に抑える。


「落ち着いて下さい、勇者様。おい、魔王!以前の礼儀正しいお前はどこいった!」


「『元』魔王です。それならエルミネさん。提案があります」


 エルミネは、それを聞き少し落ち着く。


「私と一緒にこの世界を救いませんか?」


「世界?もう貴方を倒したんだから救ったようなものじゃない?」


「勘違いしないで下さい、もっと大きな世界です。もっと仲間を増やして皆で救うんです。貴方が強くなるまでは、私が命をかけて守りましょう。そういうなので」


「誓約書は、魔王じゃなくなったんだからとっくに無効でしょ?……まあ、いいわよ。このまま村に帰るよりマシそうだし」


 それを聞いたルキフェルは、微笑みながら、


「それでは、新生勇者パーティーの始動です!」


 そんな会話を俺たち3人は、少し離れたところで眺めていた。アイシャがポツリと、


「ああいう約束いいなあ……」


「今何か言った?」


「何にも言ってないわよ!」


 シンが思いっきり殴られた。シンよ、そこは聞いていけないところだぞ。

 そんな中で、アナウンスとメッセージが届く。


「congratulation!!シナリオクエスト魔王編E『ラスト・ピリオド』をクリアしました。魔王編のシナリオクエストが全て終了しました。これにより、≪Heroism Utopiaヒロイズム・ユートピア≫で新たなシナリオクエストの開始が可能となりました」


「クエスト参加者全員に称号が配布されます」

「クエストMVP:アイシャ、グレイ、シン」

「全シナリオ参加者:アイシャ、グレイ、シン」

「全シナリオ参加者に称号が配布されます」


 新たなシナリオクエストは、勇者編の事だろう。今目の前でそうであると確信できる光景を見ているのだから。眺めていると、シンを殴り飛ばしたアイシャが、


「さて、私達もクラスアップするわよ。でもグレイ、あんたはここでクラスチェンジした方がいいんじゃないの?錬金術師は戦闘においては不便な所もあるでしょ?」


「んー、それは、クラスアップ先を見て決めるかな。面白そうなのがあれば、錬金術師系列で進めるし、何よりこんな武器アンタレスがある内は、剣士とかはもったいないしね」


 クラスチェンジが終わったことで、全員教会の外まで歩いて出ていく。司祭達に礼を言い、エルミネ達と俺らも再会の約束をして、別れた。歩いていく彼女達を見送っていると、1人ルキフェルが走って戻って来る。


「まだお礼を言ってなかった。ありがとう!お陰で、最高の結末を迎えられた」


「そんなのいいよ、俺達も知り合いにお前達をハッピーエンドにしてくれって頼まれてたし。これは、クエストだからな」


 ルキフェルは、その言葉に何か思う所があったようだった。少し考えた後、知り合いに検討がついたようで、


「なら、その知り合いに、次に会った時にでも伝えておいてくれ『俺は手伝う、でも2人はまだ無理だ』って。このに戻るのは、今は俺だけで充分だ」


 えっ………


「お前今、って……」


「じゃあな!諸君!!はクリアしろよ!!」


 そのまま走り去っていく。NPCである魔王がデスゲームである事を知っていた。発言から察するにエレネの事も知っているのだろう。横の2人もその事実に動揺し、誰もルキフェルを追いかけられなかった。


 _________________

 ≪中央エリア エリシュオン王国≫-王都メトロイア-魔王編クリア同時刻


「んーーーーーー着いたあああ!!!」


 快活な少女は、その門の下で大声を挙げていた。それを隣で見ていた。女性が咎める。


「ノイ、少し声を抑えろ。周りの迷惑だ」


「だってアオイさん、半日歩き続けてやっとだよ!?これもアオイさん達がレベル上げを兼ねてとかいうからじゃん!私達南エリア出る前の時点でレベル25なんだよ!?いくら、ストーリークエストをクリアした人達がレベル50だからって、これはやりすぎだよ!」


 アオイと呼ばれた女性は、ため息を吐き、隣で門を見上げている同じ剣士クラスの少女に声をかける。


「どうした、シオン?お前も疲れたのか?」


 シオンと呼ばれた少女は、


「いえ、大丈夫です。ただ、もしかしてここに来ているかなあって」


「あれから、連絡は出来てないのか?」


 シオンは首を横に振る。


「掲示板とかで探してみたんですけど、一切コメントとか残してなくて。アップデートされてから、連絡を取ろうとするんですけど、どうもフレンド申請とメッセージの受け取り拒否のままみたいですし」


「お互い面倒な兄弟を持ったな」


「アオイさんとルリちゃんの姉妹もなんでしたよね?」


 アオイは、気まずい表情で答えた。


「そうかもしれないだけだ。あいつがそんな積極的に何かをできるとは思えない。掲示板にもあんなタイトルのスレッドを建てただけで本人のコメントは一切ない」


「確かタイトルって『やっぱりプラチナスライムλラムダは強いと思うのよ』でしたっけ?あれはなんだったんでしょうね?」


 そこに、小柄な神官の少女がやって来て、話に入ってくる。


「多分、あれでお姉ちゃんと連絡が取れる人がいるんだと思う」


「ルリ、どういうことだ?」


 ルリは、説明し始めた。


「あのタイトルが逆に藍那あいなお姉ちゃんだという証拠になって、あの掲示板のスレッド主経由でお姉ちゃんにフレンド登録を行っているんだと思う。お姉ちゃんは、フレンド申請できる設定みたいだし。それでフレンドになった人には、情報共有しているんだと思う。私も申請したけどまだ許可されない…」


「結局、直接会ってみるしかないという事か。シオンの話通りなら北エリアから始めているんだよな?」


「そうです。だから、もしかしたら中央エリアに来ているかもしれません。レベルを上げたならあり得ます」


 彼女達『ヴァルキュリア』がアイシャとグレイの話をしていると、アナウンスと共に全体チャットにメッセージが載せられた。内容は、魔王編シナリオクエストのクリア報告についてだった。


「アオイ!これ見た!?」


 前に居た金髪の魔導士が話しかける。


月下げっか、今私は、これが運営のミスであったの信じたいところだ」


「何言ってるのよ、またこの3人がクリアした報告よ。まだ、シナリオクエストを最後までクリアした所はなかったのに凄いじゃない」


 アオイ達クラン『ヴァルキュリア』もシナリオクエストは、進めているのだ。しかし、途中で依頼主にしばらく経ったらまた頼むと言われ進行が止まっていたのだ。


「この人達運がいいんですかね?魔王編がそんな早く終わるとは思えません」


 否定的な意見を言うのは、パーティーの弓使いマナロだ。


「ストーリークエストについては、北エリアのプレイヤーは誰も掲示板やチャットで情報を漏らしませんし、シナリオクエストは、発生していないとしかわかっていません。彼らは、簡単なストーリークエストとシナリオクエストをこなしただけかもしれません。アオイさんの話を聞く限り、そんな強そうに見えませんし」





「そうでもありませんよー」


 急に、彼女達の話に割り込んで来たのは、クリーム色でポニーテールの髪をした神官の女性プレイヤーだった。その女性にアオイとルリは、見覚えがあり、


「あ、あなたは!」


「お久しぶりでーす、お嬢様ー。そして、初めましてー『ヴァルキュリア』の皆さん。私、リミアと言います。3人の古くからの知り合いですー、どうぞよろしくー」


 ___________________


 ≪中央エリア エリシュオン王国≫-王都メトロイア


(まさか、魔王編をEルートでクリアするとは…どうしてこんな事に……)


 ユノは、クリア報告のアナウンスを見て、そう思っていた。

 

あのEルートは、魔王と勇者の友好度がMAXでないと分岐しない隠しルートで、本来は何か月もかけて魔王と勇者が戦い、それにプレイヤー達が巻き込まれて上手く間引きできるクエストになっていた。

 

この3人の行動は、やはりおかしい。何者かが私のを妨害している確たる証拠になり得る。やはり、接触して誰が起こしているのか見極めなければ……


(彼らが実験の妨害をするようであれば、管理者権限でことも考えなければいけませんね……)


 彼女は、あらゆる可能性を検討しつつ、彼らと遭遇する事を期待し始めていた。


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