第4話 3分間の電撃戦

 まだ、陽の沈み切っていない森の中を4人のパーティーが歩いていた。先頭を歩くのは全身を鎧で武装した兵士で、背中には自分の身長より大きなハルバードを背負っている。その後ろを2人の魔法使いがついていく。


この2人は顔立ちがそっくりだが、髪の色が金髪のエルフはショートヘアで、逆に銀髪のセミロングの髪をしている方は、獣の耳と尻尾が生えた獣人である。そして、一番後ろを煌びやかな白銀の背中に差す、人間の少女であった。その少女は茶色の少し長めの髪を揺らめかせながら、


「この先に魔王が住む村があるのね、マーロックさん?」


 マーロックと呼ばれた全身鎧の騎士は振り向き、


「そうです勇者様、お気を付けください。先日、我が国の精鋭兵士達がやられて帰ってきました。彼らが手も足も出ないとなるとかなりの強さです」


 エルフの神官が話に入ってくる。


「でも変ですよね、みんな負傷しただけで死者はいないなんて。僕はそれが信じられなくて、本当に昔話に出てくるあの魔王ルキフェルなんですよね?」


「それは交戦時に奴が名乗っただけだ。ルキフェルの名を騙るだけの偽物かもしれない」


「あなたは、どう思う?コリン?……コリン?」


 コリンと呼ばれた獣人の魔導士は、目を閉じて眠りながら歩いていた。


「ちょっとコリン、起きてよ!なんで寝ながらあるけるのさ!」


 エルフの神官が肩を揺すると寝ていた獣人の少女は、一旦目を覚ます。と思いきやまた寝てしまう。

 それを見て再び起こそうとするエルフの神官。勇者は、ため息をつきながら、


「あなたも大変ね……フリン……」


「すみません、エルミネ様。コリン姉には後で僕がよく言っておきます」


「気にしなくていいのよ、いきなりあなたたちも魔王討伐に駆り出されて大変だろうしすぐ終わらせましょう」


 そんな風にワイワイしている勇者一行を木の上から眺めて2人に実況していた俺は、シンとアイシャに速攻でチャットを送った。内容は1つ『あれが、NPCに見える?』ということ。少なくとも俺には、プレイヤーが勇者をやっているようにしか見えない。二人からの返信が来た。


 シン:技術の進化ってすごいね、それよりも僕はあの騎士と闘ってみたい

 アイシャ:掲示板とかチャットで聞いてたから驚きは少ないわ。それよりも仕事をしなさい


 受け入れるの早いな。まあ、こんな事に一々驚いていたら身が持ちそうにないし、さっさと俺の仕事を始めますか。

 俺は、弓を構えて、狙いを勇者エルミネに定める。そして、彼女の足元目掛けて発射した。


「ッ!!」


 彼女の脚具に矢が当たり、勇者パーティーは、警戒を強める。そこで、ルキフェルが霧の魔法『ウィッグスモーク』を唱え辺り一面の視界を奪う。すかさず、シンが切り込み、騎士を剣の腹で吹き飛ばした後、エルフの神官と獣人の魔導士を別方向に蹴り飛ばす。案の定レベル50によるステータス恩恵で簡単に成功した。


 パーティーの会話中に調べた彼女たちの平均レベルは、30と俺たちならば、一対一の戦闘になっても何とかなりそうであった。ちなみに、ルキフェルは150と異常なレベルだったので心配しなくても良いだろう。


 俺の方向に蹴り飛ばされたのは、エルフの少年フリンのようであった。俺は、木から降りると装備の中で一番硬そうな部分に矢を放ち、注意を引き付ける。


「誰!わっ!」


 フリンの前をわざと大きな足音で走ることで、追いかけさせ彼をパーティーから引き離す。フリンが追ってきている事を確認しながら走っていると、メッセージが届く。


「シン:鎧の騎士は終わった、1分でそっちに合流する」

「アイシャ:猫耳少女は行動不能。シンと交代して見張りして」


 相変わらず頼もしい奴らだよ。なら、俺はこの少年を気絶させる必要はないかもしれない。でも、折角の近接戦の機会だ、一発だけ決めてやる。そう思い走りながら、村で用意してもらった縄を取り出し右手で持っていた弓を背中に掛ける。ここから先は、弓を使わないレンジ(範囲)での戦いだ。直ぐに終わらせる。

 

 プランを決めた俺は、煙の範囲内ギリギリ近くの木を蹴り上がり、木の枝で鉄棒のように回転し勢いを付けて、追ってきたフリン目掛けて飛び蹴りする。煙から出た彼は上からの強襲に直ぐに気づけず、跳び蹴りに対して直撃を受ける。そのまま吹っ飛んでいき、木にぶつかってぐったりと倒れた。

 

 ちょっと勢いをつけ過ぎたかもしれないが、一発で直ぐにダウンさせる方法がこんな事しか思いつかなかったのだ。彼のHPは残ってたから死んではいないだろう。でも目が覚めたら謝らないと。

 

 フリンのところに近づくと、既に気を失っていた。動けなくするために縄で手足と口を縛る。後は、その辺の木にでも巻き付けようと考えて、彼の身体を持ち上げて運ぶ。彼の身体はやけに軽くその割には、上の方が変な違和感があったが気にはしない。木に巻き付けていると鎧の騎士を片付けたシンが若干引いた顔で歩いて来た。


「うわ、グレイ。女の子相手にそれはちょっと……他に方法なかったの?」


「一番早い解決策だと思ったんだよ……ん?シン、この子って男の子だろ?」


「違うでしょ。体格の割に胸出てるし、やたら細いし。何より蹴っ飛ばされる時の悲鳴が「キャー!」て感じに聞こえたし」


「どうしよう?本当に女の子だったら許してくれないよね?ルキフェルが上手くやっても禍根が残るよね?」


 こんな事でクエスト失敗になって、ルキフェルが和解できなかったから責任を取れと言われイベント戦闘なんか始まったらたまったもんじゃない。ぐったりしているフリンにポーションを頭からかける。


「本当にごめんな、後でちゃんと謝るから」


「じゃあ、僕はアイシャと合流してくるよ。グレイ、後はよろしくね」


「おう、任せとけ」


 アイシャのいる方向に向かって走るシンを見送り、俺は先程の煙魔法の中心地に向かう。そこには、手を挙げて降参のポーズを取る魔王ルキフェルと剣を彼の喉元に突き付けている勇者エルミネの姿があった。しかし、ルキフェルの顔には余裕があり、反対にエルミネの方は必死な表情をしている。近くの木の裏に隠れて2人の会話を聞き取り始める。


「どういうつもり魔王!貴方に戦う意思はないの!」


「ですから、私は戦争に興味がありません。そもそも、魔王というだけで人の中身を決めるのは早計ですよ。お嬢さん」


「馬鹿にしてるの!?さっきからこっちを攻撃する意思もないみたいだし、話し合いをしようの一点張り。何を考えているの!?」


「これは、失礼しました、勇者様。しかし私は誰も手にかけていないはず。それに村の人にも危害を加えていないのは、前回の騎士さんたちの前で実際にお見せしたはずなのですが……おかしいですねえ」


「そんな話は聞いていない、なんせ誰もしゃべろうとしなかったんだから。貴方が暗示魔法を使っているんでしょう」


「そんなアルゴリズム干渉できる魔法持ってるわけ…………なんでしょう今の言葉。なぜ私は、こんな事を知っている?」


 なんだあの魔王、今『アルゴリズム』って言わなかったか?この世界にそんな言葉の概念があるはずがない。あの魔王は、ただのNPCなのか?彼に対しての疑問がどんどんと増えていく。勇者は、何が起きたのか分からないようだったが、ルキフェルの注意が削がれたのを見て、剣を両手で握りなおす。


「やはり、貴方は危険よ。今ここで倒す」


 ここで、俺が取れる方法は、

 ①このまま見続ける。これは防衛行動にルキフェルが反射的にでも移ればエルミネは死ぬだろう。無しだ、結局魔王の依頼は失敗に終わる。

 ②エルミネをこちらで撃退に追い込む。これも無し、結局ルキフェルが狙われ続ける事に変わりはない。

 ③エルミネを俺たちが説得する。魔王の部下みたいな事してる奴らの話を聞いてくれそうにないが、これしか未来がない。


 俺が、エルミネに呼びかけようとすると、先客が割り込んできた。


「やめて!魔王さんを殺さないで!」


 割り込んで来たのは、村にいるはずの少女ティナであった。いきなりの民間人乱入により、エルミネの剣を握る力がぬけて、殺気も薄れていく。

 

 なんで、いるのかわからないがナイスタイミングだティナ。村人の説得ならエルミネも聞く耳を持つかもしれない。ティナは、中心に居た2人の間に割り込みルキフェルを庇うように立つ。少女の覚悟に勇者は、後退る。


「魔王さんは、誰も殺していません!勇者様は、なのにこの人を殺すんですか!?」


「どきなさい、その男は大昔にこの大陸で、大暴れしたと言い伝えられている伝説の魔王よ。今は、記憶がないだけで、戻ればまた暴れだすかもしれない。今ここで倒すのが未来のためなの!」


「そんなの今ここで解決できない事への言い訳です!勇者なら平和な世界を目指してください!私の平和を奪わないで!」


 その言葉に勇者は、剣を地面に落とす。後ろに更に後ずさり、足の力が抜けたのかゆっくりと倒れるように座り込む。その表情は自問自答をしているように見える。ルキフェルは、頭を抱えつつもティナが救ってくれた事は、分かっているようだった。


「ありがとうございます、ティナさん。お陰で助かりました」


「出来ることをしただけです。それよりもごめんなさい。ここに来ちゃって、村で待ってたらどうしても2人の戦いを止めないといけないと思って」


 なんだ、あの魔王本当にいい奴じゃないか。最後まで手をだそうとしなかった。これでハッピーエンドを迎えられるかもしれない、後は勇者の説得を落ち着いた場所で行うだけだ。俺は、彼らに近づいていく。


「大丈夫そうだな、ルキフェル。とりあえず村に戻らないか?勇者の仲間は、俺たちが担いでいく」


 その言葉にエルミネが顔を上げる。


「彼らは無事なの?生きてるの?」


「今回、雇い主の依頼は誰も死なせるなだからな、そのぐらいしっかり守るさ。あんたは立てるか?」


「そう、無事ならいいの。私は立てるわ、勇者としてあなた達『王国民』の話を聞きましょう」


 まあ、これなら大丈夫そうか。会話をパーティー共有していたからかシンとアイシャが勇者の仲間を担いでくる。エルミネがそれを確認して、村へ動くとアナウンスとメッセージが流れた。


「シナリオクエスト魔王編『ファーストコンタクト』をクリアしました。クリア方法によりEルートに移行します」

「クエスト参加者全員に称号が配布されます」

「クエストMVP:シン」


「シナリオクエスト魔王編E『シークレットミーティング』を開始します」


 どうやらこのクエストは、まだまだこれからが本番らしい。

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