第3話 『ファーストコンタクト』
少女の言葉があまりに衝撃的で俺は頭を抱えていた。
「魔王ってなんだよ!確かにファンタジーには欠かせないけど、ラスボスじゃん!出てくるの速すぎだって!」
「落ち着きなさい、グレイ。ねえ、あなた詳しい話を聞かせてくれる?」
少女は、事の次第について話し始めた
「お昼に外で遊んでたら急に空が真っ暗になって、いきなり雷と一緒に空から魔王ってなのる人が降ってきたの」
「どうする?もう復活してるっぽいよ、阻止するタイプのクエストじゃないみたい」
「それでね、それを聞いた王国の騎士様がいっぱい来たんだけど、魔王さんが沢山倒しちゃったせいで、次は勇者を連れてくるって言ってたの。このままじゃ魔王さんが討伐されちゃう、だからお願い!魔王さんと一緒に勇者をやっつけて!」
………あれ?
「魔王って村で悪さしてないの?」
「そんなことしてないよ、魔王さんは村の仕事を手伝ってくれるし、私たちといつも遊んでくれるいい人だよ」
「なのに、王国から討伐されそうなの?」
「魔王さんの存在自体が世界に影響を与えるんだって。騎士の人達がそう言ってた」
なんだ、このクエスト。なんで魔王が味方なんだ。
俺が再び頭を抱え始めると、アイシャが、
「いいわ、手伝ってあげる。村に案内して」
「ちょっと本気か?魔王の味方になって勇者討伐とか魔王がラスボスだったらどうするんだよ」
「魔王は多分ラスボスじゃないわよ、ただのNPC。勇者もそうでしょうね。もしかしたら勇者編のシナリオがあるかもしれないけど、考えてみなさい、初期種族に魔族がある世界よ。この世界の勇者と魔王なんて、ファンタジー要素で入れてるだけでしょ」
「せっかくだし魔王に会ってみようよ。この辺に村があるかもしれないんだし」
既にクエストは始まっているため、拒否権は無いに等しかった。
「まあ、騙されてない事を祈るか」
そうして、俺たちは少女に案内され、15分程歩いた先で小さな村を見つけたのであった。
村に入ると、住民達がぞろぞろと集まって来る。さらに、少女の母親らしき人も現れた。
「ティナ!」
「お母さん!」
「どこに行ってたの!心配したのよ、勝手に村から出て行って!」
「ごめんなさい、でも魔王さんの味方をしてくれる人を見つけてきたよ!」
会話中シンが、耳打ちして来て、
「どうやら、あのあたりにいるプレイヤーが対象になるクエストみたいだね」
親子の会話を聞いていた村人達は、味方が来た事に喜び始める。すると住民の中から1人の男性がこちらに向かって歩いてくる。一見、黒髪の人間に見えるが、頭にはねじれた二本の角が生えている。ヒロイズムユートピアでの典型的な魔族の特徴だ。彼が魔王であろう。俺は、警戒を引き締めると、魔王が話し始める。
「初めまして、この村で狩人をしている魔王ルキフェルです。この度は私の手助けをしてくれるそうで、本当にありがとうございます」
そう言って、魔王は頭を深く下げた。
「向こうに空き家がありますので、休息にはそちらを使って下さい。勇者は夜に襲撃してくるので、今から私の家で作戦会議を行います。それで構いませんか?」
この時俺は、予想外の魔王の礼儀正しさに開いた口がふさがらなかった。普通魔王って尊大な態度をとるとか、憎しみしか感情を持ってないといったキャラが定番なのに、この魔王はすごい下手に出てくる。固まっている俺は放置してアイシャが、
「こちらは、それで構わないわ。じゃあ迎え撃つ計画を練りましょうか」
そう言って、村の人に空き家に案内してもらいに行った。シンもそれに平然とついていく。こういう時に直ぐに順応できるあいつらが普通におかしい。
俺は、気になる事があったので、彼に対して質問する。
「本当に魔王なのか?」
「ええ、正確にはクラス:魔王ですが」
「勇者が今日来るのがわかるのは何で?」
「クラスの恩恵で勇者の居場所が何となくわかるんです」
「世界征服とかは考えてる?」
「平和が一番です。戦争に興味がありません」
「今まではどこに居た?」
「すみません、以前の記憶は曖昧で……」
この返答、逆に怪しすぎてわからない。このシナリオが罠でないことを祈るか
「答えてくれてありがとう、じゃあ作戦会議を始めようか」
「こちらこそよろしくお願いします」
挨拶を交わし、俺は、村人から場所を聞いた2人のいる空き家へと向かった。
そして、魔王宅で作戦会議が始まる。
「それでは、勇者撃退の作戦を考えたいと思います。進行は当事者の私ルキフェルが務めさせていただきます」
「早速質問なんだけど、勇者撃退なの?倒すじゃなくて?」
シンが質問をぶつける。
「はい、私の目的は、勇者から狙われなくなる事です。なので、倒す必要はありません」
「それ、結構難しくないか?手加減できるほど勇者って弱いのか?」
「今の皆さんより弱いと思います。騎士の方々は2週間前に南の国で見つかったと仰ってましたし。私1人でも魔王の力で対応出来ると思います。」
「じゃあ、なんで俺達が……ああ、取り巻きの騎士か」
「そうなんです。仲間がいると説得する暇もないでしょうし。皆さんには、そういった周りの人を近づけないようにしてほしいんです」
「じゃあ私たちは、魔王VS勇者の構図になるようにしてればいいのね。分かったわ、それなら1つお願いがあるんだけど……」
彼はそのお願いを二つ返事で了承し、会議は大体が纏まり、迎撃まで村で休息を取ることになった。俺はその間にティナの母親に聞きたいことがあったので質問した。
「ここから王国までってどのくらいですか?」
「あら、知らなかったの?ここはもう王国よ」
「え、そうだったんですか!?」
すると、彼女は家から地図を取り出して説明してくれた。
「この地図を見て。この辺は北の辺境でも端の方だから何にもないように見えるんだけどここから南に行くと色んな街や村が点在しているの。王国で一番広いのは真ん中にある王都メトロイアね。ここから真っ直ぐ歩いたら1週間以上かかるから、まずは、東南にあるダンジョン街ケイトスに数時間かけて歩いて、そこから馬車に乗れば全部で3日ほどの日数で行けるわ」
集合時間までには間に合わないが、これしかない。
「ありがとうございました。この方法で行ってみようと思います」
そう彼女に、お礼を言い別れたところでシンが走ってやって来る。こいつが来たってことは、
「グレイ、勇者組が来たよ。配置に着いて」
「ああ、わかった。意外と早かったな」
「それからアイシャから伝言『しっかり見張ってよ』だって」
それも分かってる。俺は、アンタレスではなく普通の弓を背中に掛け、村の人に作って貰った緑のデカい布地を体にまとわせ、フードを被りシンと共にルキフェルが指示した方向にある森へ向かう。
この世界における魔王と勇者のファーストコンタクトが始まる。
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