第2話 できる兄弟姉妹は持つと辛い

「……………本当に紫音なのか?他人かもしれないぞ?」


 シオンという名前が複数人いる可能性はある。例えば、愛称であったり、略称であったり又は字が別のを使っていたり、そんな可能性だってなくはない。


「なら、これを調べて、掲示板『俺達のヴァルキュリア』って南エリアの人が作ったファンスレ」


 アイシャに言われて、その掲示板を開く。書かれてる内容はヴァルキュリアのメンバーの目撃情報や個人情報についてとコメント欄に誰がかわいいとか誰が一番強いとかそんな事だらけであった。その掲示板を下にスクロールしていくと、シオンと呼ばれるプレイヤーの情報が載っている所に、辿り着いた。そこには、


「シオン:通称『シオン姫』クラスは剣士で、現実世界リアルで剣術の心得がある模様。薄紫のショートボブで身長目測168cm、パーティーの前衛を務め、高いレベルと先述した剣術による攻撃が特徴、現在南エリアでトップのアタッカーと言われている。絶壁を気にしている所が筆者的にポイ……」


「うん、俺の妹だわ。そしてこれ書いた奴誰だ、ぶっ飛ばしてやる」


「聞いてた特徴と似ているからもしかしてと思ってたけど、本物なら尚更無理ね」


 こんな事書いてる奴らがいるのかよ。他のメンバーは、むしろ何て書いてあるんだろうと気になり、更に下にスクロールすると、


「アオイ:通称『ワルキューレ』クラスは剣士だが使うのは槍、『ヴァルキュリア』のリーダー的存在。シオン姫同様に現実世界リアルで槍術の心得がある模様(どちらかというと薙刀?)。濃い茶髪のセミロングで身長目測180cm、シオン姫と同様にパーティー前衛を努める。武器補正がないため、火力はシオン姫に劣るが、敵を引き付けるタンクとしては優れている。身長が高すぎるのが悩みらしい。妹(天使)を溺愛している。                       」



「ルリ:通称『天使』クラスは神官で、パーティーの後衛を担当。水色のセミロングで小さいツインテールをつくっているのが特徴。身長目測122cm。神官としての役割をしっかり果たしており、ただただ可愛い。悩みは、身長が伸びない事らしい。でも可愛い、可愛い、可愛…………                 」                 

 …………多分これアイシャの姉妹だな。


「なあ、このアオイとルリって…………」


「ええ!!そうよ!!姉と妹よ!!私と違って、できる姉妹よ!!」


 なんか、アイシャの地雷を思いっきり踏んだらしい。


「まだ、名前しか言ってないんだけど……」


 アイシャとしては触れてほしくない話題らしい。俺は、助けを求めてシンに視線を向ける。シンは、この話題の原因を作った責任でもあるのか、話題を仕切り直してくれた。


「まあ、2人の家族がいるところを誘うわけにはいかないね、今回はあの犯罪者デッドマンで我慢だね。他にはいないの?」


「東エリアは帝国だから、戦争中の王国に入れないって言ってたわ。だから、西と南のみが呼べる範囲なの」


「まじであいつ来るのか、あいつの方が王国に犯罪者扱いされて入れなくね?」


「彼のことだから、PKはしてないでしょ、NPCは結構やってそうだけど」


「僕は嫌いなんだよなあ、NPCなら幾ら殺してもいいって考え方。昔のゲームでは当たり前らしかったけど、VRゲームでそれをやるのは流石に」


「それはもう彼のポリシーというか、アイデンティティの領分だから諦めなさい。それじゃ出発の為の荷物をまとめて来て。1時間後に南門集合よ」


 そうして解散した後、俺は宿で広げていた荷物を纏めて、街の商店街で食用アイテムや薬草類を買い足すと、南門に向かった。


 南門には、シンとアイシャの他に何人かプレイヤーが集まっていた。零影少年のパーティーとマリアのパーティーだ。2人に対して街から出ていくのに反対しているんだろう。


「本当に行っちゃっうんですか?今、3人が抜けたらこの街のプレイヤーの人達は頼れる人がいなくなっちゃいます。どうにか考え直して、ライオットさんともう一度話し合ってもらえませんか?」


 マリアがアイシャに訴えかける。他のプレイヤー達もアイシャに残ってほしいと頼み込んでいる。アイシャは、困り顔で対応していたが、ならばと彼らを見て提案した。


「それなら、あなた達も来る?南は開通してそうだし、ここにいる意味もないでしょう?他のプレイヤーから聞いたけど、あなた達は私たちの救出案を最後まで進言したから周りのプレイヤーとの折り合いがちょっと悪いんでしょ?」


 俺たちの救出問題でそんな事になっていたのか。それは悪いことをした。


「そうだったんだ、ありがとな。マリア」


「い、いえ。当たり前の事をしただけですので……」


 顔を赤らめるマリアに代わって、零影少年が話す。


「本当は付いて行きたいんですけど、新エリアだと僕たちのレベルじゃ3人の足手まといになりそうなので遠慮しておきます。その代わり絶対レベルが上がったら獅子を僕たちで倒しますから!」


「え、何言ってんの?普通に帰ってくるよ、俺たち」


 その言葉で悲観的な雰囲気が去っていく。アイシャが笑顔で、


「安心しなさい、近いうちに最強のメンバー連れて獅子を倒しに戻って来るわよ。ライオットだって貴方達の事をちゃんと考えてくれるわよ。もうこの事は、約束したしね。心配ならフレンド登録でもしておく?」


 それを聞いて安心したのか彼らは笑顔で、


「「はい!わかりました!」」



「じゃあ、行こうか」


 俺達は、南門を潜り抜け街の外へと歩み出す。2日で王都に向かいあいつらと合流する。そのための新たな冒険が始まった。


 彼らに見送られ俺たちは、中央エリアと向かった。



 ≪北エリア 南部 アッティカ原野≫-アハルネス平原



 ミュケから南へ向かう道は、先遣隊より二時間程で通行止めエリアに辿り着くと言われたが、既に4時間歩き続けて何も見当たらない。出てくるのは、20~25レベルのモンスター達だけで、サソリを倒した恩恵でレベル50の俺たちでは誰か1人が戦うだけですむ。ミュケ周辺よりは高レベルなため、アップデートエリアに入っているはずだが、地平線に何も映らない。


「追加マップの地形おかしくないか?これだけ歩いて平原だけってどんだけこの大陸広いんだよ」


「確かにそろそろ小さい町くらい見つかってもいいはずなんだけどね。この辺は辺境なのかな?」


「単純に北エリアは、何にもないだけじゃない?それも見越しての大量の食料品だしね。二度と同じミスは犯さないわよ」


「そろそろ夜になるしどっかで野宿しないか?今日はもう進まなくていいだろ」


 賛成と声が上がり、近くの木の下にミュケの街で購入した簡易テントを建てる。このテントは、サソリ討伐後に街の商店に並び始めたので、これもストーリー進行の影響によるものだろう。テント建設後に夕食を食べながら、俺たちは、ストーリー進行による影響について話し合っていた。


「アイシャ、お前が調べた範囲では、クエストクリアでどんな影響がでてるんだ?他のエリアも進行してるのか?」


「そうね、私たちがいた北エリアであったマップ拡張と商品増加はどのエリアでもあったみたいだけど、他のエリアでストーリークエストは現時点では見つかってないらしいわ。そのかわりシナリオクエストって言うのがあるみたい。例えば東エリアは初期地点が東エリア最大の国家『プロメテウス帝国』だから帝国関連のシナリオクエストで帝国の皇帝が出てくるとか。主に中央エリアの『エリシュオン王国』との戦争関連が多かったみたいだけど、クリアしてもアップデートはされなかった。どうも、クリアするとシステムに影響を与えるクエストとそうでないクエストがあるみたい。見た感じだと他のエリアではシナリオクエスト○○編みたいにシリーズ系になってたらしいわ」


「それじゃあ、僕たちがクリアしたあれは、この世界では順当なストーリークエストってことか。その割には、ストーリーも何もなかったけど」


「そこがおかしい所なのよね、あれはどう考えても今戦うボスじゃなかった。グレイがもらったっていうアイテムがなければ全滅してたわよ。あのアイテムをくれた少女には会えてないんでしょ?」


 そうである。今日行く前に墓地に寄ったが見当たらずチャットを送ろうにもエレネというプレイヤー名は検索できなかった。シンは疑問に思っていたようで、


「偽名を使われたか、その子自体がストーリークエストの重要なNPCなのか、でも話を聞いた限りだと人間みたいに会話できたんでしょ?今のVR技術だとまだそんなに発達してないはず、だからPvPの対戦ゲームが流行っているわけだし。でも他のエリアだと人間みたいに生活してるってみんな感動してたのよ。これもおかしい」


 現在、現実で販売されているVRゲームは確かに対戦ゲームがメインだ。理由としては、NPCがどうしてもプログラム通りの動きしか出来なかったからだ。この≪Heroism Utopiaヒロイズムユートピア≫もミュケでは、ほとんどのNPCが話しかけたところで反応しない。あのループおばあさんですら、基本は同じ話の繰り返し、一定時間で解放の繰り返しだ。なのに他のエリアでは、NPCが人間と同じように生活している、革新的だ!なんて言われている。この差はなんだ。


「まさか、あの街だけ古いバージョンから更新してないとか」


「そんなこと、この≪Heroism Utopiaヒロイズムユートピア≫に限ってありえないわよ、でも何か理由はあるのかもね。その謎を解くシナリオクエストがあったりして」


「勘弁してくれ、街の住民を影で操っている黒幕とかいたらたまったもんじゃないよ。せめて、あの街は本当に北エリアのチュートリアル用で、みんな出ていく前提の手抜きマップの方が許せる」


「それでも、周りに別の街や村すらなくて、変なところだけど。まるで、何もなかった所に急遽作ったみたいな感じだよね…………ん?誰だ!」


 シンが急に大声をだすと驚いた声と同時に幼い少女が木の後ろから飛び出してくる。少女は装備などを着けておらず、とてもプレイヤーには見えない。それを見て、事情を聞こうとしたシンが近づくと少女は、固まってしまって動かない。ただ何となくだが怯えているのは分かった


「ああ、ごめん。いつもの癖でこういう所で、後ろに気配を感じるとついね。ほら、何もしないよ」


 そう言って、武器を地面において何もしないことをアピールしている。

 なんだろうこんな事まえにもあったような。

 吞気に様子を見ていたアイシャが、彼女に質問する。


「あなた、どこから来たの?なんで隠れてたの?私たちに何の用?」


 少女は、矢継ぎ早な質問に対して、一言で答える。


「助けて!」


「シナリオクエスト魔王編『ファーストコンタクト』を開始します」


 え、ってマジ?


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