エピローグ 繋がる世界と動き出す彼ら

 俺たち3人が森林地帯から街の前まで戻る途中。運営から通知と共にメッセージが届けられる。


「システム通知:ストーリークエスト進行により、アップデートをしました。第一次アップデートでは、基本機能の拡張としてチャット機能およびフレンド機能を追加しました。また、これに伴い全体チャット機能も解禁致します」


 なんと、今まで実装してくれなかった機能の追加を知らせる内容であった。

 思わず、俺は高揚を抑えきれず後ろを歩いていた2人に話しかける。


「おい、見ろよ!チャット機能とフレンド機能が追加されてる!もしかしたら紫音と連絡とれるかも!」


 小さい子供のようにはしゃぎ出した俺をアイシャが静かに宥める。


「落ち着きなさい。その子は貴方のネームがグレイって知ってるの?というより‥その子のネームは知ってる?」

「大丈夫だ、やる前にそれは聞いてる」


 (夕飯の時に話していて良かった‥シオンなんてまんまのネームでも絞れば直ぐに見つかるはず)


 直ぐにでも紫音を探そうとすると、新たに追加された全体チャットの最初のコメントが運営から載せられる。


「運営アナウンス:ストーリークエスト『英雄穿つ、紫紺の槍』がクリアされました。

 討伐者:アイシャ、グレイ、シン 

 討伐MVP:グレイ」

「運営アナウンス:ストーリークエストクリアにより、第一次アップデートを開始します」


「なんか、全体チャットにでかでかと載ってるんだけど」

「そりゃそうでしょ。プレイヤー全体で共有するような情報よ‥改めておめでとうMVP」


 シンはアップデートよりMVPになれなかった事がよほど悔しいようで、未だに地団駄を踏んでいる。


「悔しいなぁ‥牙を投げたの僕なのに‥MVPはグレイなんだよね」

「いいじゃないの。牙はグレイの物だったんだし。それよりMVP報酬でとんでもない武器もらってるのがズルいわよ」


 アイシャは、俺が背中にかけている紫と白の二色の模様が描かれている弓を見ながらいった。


「お前らだって、装備もらってたじゃないか。俺ばっかり言うのはずるいぞ」

「僕は防具だし、アイシャの武器より君のは強力だからね。ほんとグレイが羨ましいよ」


 そんな話をしていると遂に見覚えあるミュケの街並みと数日前に出立した西門が見えてくる。

 ここまでの激戦を思い返しながらも帰って来たことに感動し、西門の前に辿り着くと3人で横一列に門の下に並んだ。


「せーのっ」


「「「クエストクリア!!!」」」


 声を揃えて同時に街の中に一歩踏み込んで、無事に俺達はミュケへと帰還した。


 ◇◇◇◇


 ≪東エリア  プロメテウス帝国≫-帝国領西側キュベレーの丘ー現在王国と戦争中


 大剣を振り回しながら敵国の騎士を斬り伏せる魔族の男は、急に現れたシステム通知とメッセージを見て驚いた。


「シン、アイシャ、グレイってまさかあの『』か!?」


 驚きに歩みを止める男を狙っていた騎士が斬りかかる。

 しかし、その剣が彼に届く前に鮮やかな流線を描いた短剣が騎士の喉元を掻っ切る。

 短剣の持ち主であるドワーフの少年は未だにチャットを眺め続ける魔族の男に向かって尋ねる。


「どうしたんですか?だんちょー三羽烏って何ですかー?」

「いや、面白い奴らがこの世界にいることが分かってな。デスゲームなんて余興、大して面白くないと思っていたが、楽しくなって来た所だ」


 男は狂気に満ちた笑顔で屍を上を進んでいる。

 この二人のステータスに記された名前は通常の白とは異なる赤に染まっており不気味さを醸し出している。


「なら、そんなところで止まってないで、手伝ってくださいよー今エリシュオン王国との戦争中ですよ?本来使うはずの有毒ガス兵器は誰かさんが捨てちゃったし‥」

「全く‥非協力的な奴が多すぎる‥‥どいつもこいつも細菌兵器だガス兵器だ迫撃砲だの作りやがって‥漢なら体張りやがれ!」


 そう言って魔族の男は、大剣を振り回して王国の騎士を斬り捨てていった。


 ◇◇◇◇


 ≪西エリア 獣人国家ゴルディオン≫-首都ラ・シンバ 酒場バックス亭内部


 酒場の中で酒を飲んでいた人間の男は、そのメッセージを見て腹を立てる。


「マジかあいつら。俺より早くストーリー進めやがって‥ムカつくな」


 酒を飲み干すと追加の注文をした男の横では、同じチャットを見たエルフの少女が目を輝かせて問いかける。


「ねえ、こいつら強いの?強いなら私‥‥戦ってみたい」

「一人は強ぇ、もう一人は弱ぇ、最後の一人は超強ぇ。よぉし!挨拶がてら殴り込みに行くか」

「ゴーゴー」


 2人が渦中の彼らに会いに行こうと盛り上がっていると、酒場の扉が勢い良く蹴破られる。

 そして、中に正義感の強そうな剣士の男が武器を構えたまま入ってくる。


「貴様がこの街でPKプレイヤーキラーをやっている奴だな!表に出ろ、僕が牢獄送りにしてやる」


 追加の酒に手に伸ばそうとした男は、ため息を吐いて声を荒げる。


「あーあーあー面倒くせぇなーデスゲームは。こういうバカが際限なく溢れて突っかかってきやがる。ゴキブリかっての‥よく見ろ!俺のネームはクリーンな『白』だ。PKは『赤』だろ!」

「日頃から『犯罪者』なんて呼ばれてるから‥事件は全部貴方のせい~って噂」


 隣に座っていた少女は隙をついて男の酒を飲み干す。


「おまっ‥未成年だろ‥‥」

「ごきゅごきゅごきゅ‥‥ぷはっ!これ、家で飲んだのより美味しい‥‥」

「飲んでんの!?」


 いつの間にか話は脱線し始めており、酒場の2人は正義感溢れる彼のことなど眼中にない。


「人の話を聞け!貴様‥王族を襲った犯罪者だろう!?その時にプレイヤーを‥‥」

「‥あぁ、きっとそいつ傭兵だわ。そういや一昨日打ち上げで自慢してる馬鹿が居たな‥俺とそれを間違えるとは‥いい度胸だ」


 テーブルの上に脚を乗っけた男は、正義感溢れる少年を睨む。


「俺は、PK人殺しじゃねぇ、NPCKモブ狩りだ。間違えてんじゃねえよ」


 ◇◇◇◇


 ≪南エリア 魔導大国エル・イーリアス≫-首都ガブリエラ冒険者ギルド内部


 冒険者ギルド内は、先程現れたアナウンスとチャットの話題で持ちきりだった。


「おい、もうストーリー進めた奴らがいるらしいぞ。これは俺たちも負けてられないな。次のストーリークエストは俺たちでクリアしようぜ」

「バカ言え、俺たちのレベルじゃたかが知れてる。それに俺たちには、あの子たちがいるだろ。直ぐに別のストーリークエストをクリアしてくるさ」

「見ろ、帰って来たぞ。今日も美しい……………」


 男達はギルドの扉から入ってきた6人組の女性パーティを見つめていた。その男達だけではない。ギルド中のプレイヤー達が彼女達を見ていた。 

 彼女達は、その視線を気にせずにテーブルに座り今日のことについて話し始めた。


「凄いわね。まだ私たちはストーリークエストすら見つけてないのに、もう見つけてクリアする人達がいるなんて、すぐ追いつかないとね」


 絶賛するのは、耳が長いことで有名なエルフの女性剣士。動きやすさを優先して胸や腕を中心に取り付けた皮防具と、このエリアには珍しい刀使い。周りよりもがっしりとした体格で高身長の彼女はショートのブロンドヘアを手ぐしで通す。釣られて、隣で見ていた茶髪の猫耳獣人の剣士が賛同した。


「そーだね。この人達すんごいレベル上げしたんだと思うよ。私たちも今25レベルだから頑張らなきゃ」


 獣人種族を選んだ時の特権で実在する動物ならほぼ全て耳や尻尾の模様を決めることが出来る。剣士の彼女は、お気に入りの猫を選んでいた。エルフの剣士に比べて頭2つ分は差のある低身長。さながら、小学生とも言える体型にはマスコット的な可愛さが伺える。

 2人の会話が盛り上がる所に、やや大人びた少女が入り込む。彼女は2人と決定的に異なる武器を背中に提げていた。しなやかな流線型のフォルムをした遠距離筆頭武器の弓である。北エリアで弓を使うグレイと同じだが、彼女はクラスが専門職である弓使い。獣人剣士よりは大きく、エルフ剣士よりは小さい中間の身長。袖を通すのは灰色のドレスだが、胸の部分に急所避けで鋼鉄のプレートを取り付けている。濃い緑色の髪を肩まで伸ばしたエルフの少女はチャットのログを眺めて感心したかのように呟く。


「それにしても‥3人でストーリークエストは、クリア出来るものなんですね。意外と最初の方は簡単なのかな‥‥あれ、どうしたの3人とも」


 弓使いの少女が見つめる先には恐ろしい物を見たような表情をして、両手で頭を抱える人間の剣士と、2人で顔を見合わせながら気まずそうな表情をしている剣士と神官の姉妹がいた。姉妹はどちらも同じ青色の髪をしているが、妹の方が宝石のサファイアのように煌びやかで輝きを持っており、姉の方はやや緑がかった和を感じさせる落ち着いた青である。髪型も姉妹で異なり、姉はセミロングで妹はサイドテールであった。姉妹らしく同じような整った顔立ちとつぶらな翡翠の瞳。身長は姉の方が高いが、妹も高さ以外では負けていない。装備は全く一緒でクラス関係無しの水色のドレスである。

 2人一緒に同じ画面を見ている所からは仲の良さが見受けられる。両者共に口を開けたまま惚けていたが、妹の方はいち早く姉に確認する。


「この、アイシャって、やっぱり藍那あいなお姉ちゃんかな?」


 それに対して、姉の方は目を逸らしながら不機嫌そうに答える。


「‥‥違うわよ、あの子はそんな強くない。だって私の知ってるあの子は、部屋すら出れないのよ‥こんなデスゲームなら真っ先に街で引きこもっているに違いないわ‥‥」


 姉の戸惑うような言い方に妹の方も気まずくなったのか、それ以上何か言うことはなかった。

 そして、最後の一人。エルフの弓使いと同じ装備だが、一段と少女達の中でも白い肌に薄紫の髪と灰色のメッシュを入れた髪は桜の形をしたヘアピンを前に付けるだけのショートヘア。勝気な性格が外に現れるかの如く、少し吊り上がり気味の瞳に細い顔立ち。ただ、体型は現実とあまり変わらず、よく言えば無駄が無い、悪く言えば貧相な形をしていた。そんな、プレイヤーである人間の少女は、載せられたログに映る名前を何度も確認して見間違いでないことを悟ると、その胸中では無事な嬉しさとここに居る悲しさで複雑な気持ちを抱いていた。


「この名前‥‥なにやってるの、お兄ちゃん‥」

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