第4話 コミュ力の大切さ
≪北エリア 始原都市ヘロポネソス≫-始まりの街ミュケ 噴水広場
ミュケの内観は中世ヨーロッパを思わせる街並みだが、所々石造りの古代建築の建物が垣間見えている。丘の上には明らかに古代遺跡であろう建物があるため、歴史が古い設定なのだろう。それ以外にも街のシンボルとして大きな教会が建てられている。しかし、他は田舎の村と同じくらいの発展で、外敵から街を守る柵すら付けられていなかった。
街の中では、先にログインしたプレイヤーを含む人々が多く集まり話し声で活気が溢れているのがわかる。ミュケの街人であるNPC達には人種差別などないようでここでは様々な種族が平和に暮らしている‥‥という設定らしい。
(なんか‥‥どこにでもありそうなVRMMORPGの定番風景だな)
俺がその場所に降り立つと、周りには多くのプレイヤーが集まっていた。皆、『メニュー』と口に出してから、指で小さなウィンドウを動かしている。
それに倣って俺も『メニュー』と唱え、現れた画面を指でなぞって『ステータス』と書かれた文字をタップして開く。そこには、先程設定したクラスなどの基本的なステータスが記されている。
「え~と攻撃の値は‥この数値を参考にすれば良くてええと‥って低っ!」
俺が選んだ錬金術師はこの世界では戦闘向きのクラスではないので能力値はどれもパッとしない値である。次に見た装備の欄は革製の防具であまり大した防御力ではなかった。その他にもスキル欄や称号欄なども見られるが、今はこれらをのんびり見ている程時間に余裕がない。
「とりあえず、あいつと合流するか」
細かいデータは後で見ることにした俺は、要約データの一番下に書かれていたこの世界での合流場所である教会へと走って向かう。
身体を動かすと、重さは現実に限りなく近く感じられ、呼吸も少しづつ荒くなっていく。
これは、過去のVRゲームで疲れが溜まらない仕様にしたところ、中毒者が続出して規制されたことに由来している。この他にも、眠ることを忘れさせないための『睡眠値』やのめり込み過ぎて食べることを忘れたプレイを避けるための『空腹値』が実装されている。
数分後、息を切らしつつ教会の前に着くと、他のプレイヤー達が同じように合流場所として使っているようで、探すにも一苦労した。その癖、真也らしきプレイヤーは見当たらない。
「どうしよ‥待ってれば来るよな‥」
先のことを考えるわけでもなく、ぼうっと街並みを眺めて途方に暮れていると、教会の前でピンク色の髪をしたエルフの少女が困った顔で辺りを見回していた。
「‥何だあれ?」
身長がシオンより低く、顔立ちからして中学生ぐらいの年齢に見える。
近くにいるプレイヤー達は彼女に話しかけることなく、皆仲間同士でくっついて話している。あのエルフの子も誰かを待っているなら、あそこまで怯えるとは思えない。
大方、VRMMOの初心者で何をしたらいいかも分からずここまで歩いて来た所だろう。
真也を待つ間、見て見ぬふりをするのも心苦しいので、俺は思い切って彼女に声をかけてみる。
「ねえ、もしかしてMMO初心者の人?何か分からない事でもあるの?」
この時、急に俺の脳内に稲妻のような戦慄が走る。マズい。勢いで聞いたのはいいが、もしも違った場合はどうしよう。
「えっ‥その‥」
向こうもいきなり声をかけられたため、こっちを警戒しているようにしか見えない。完全にナンパ紛いの状況だ。何か周りのプレイヤーがヒソヒソ話をしている気がする。これ、通報されないよね?相手の子中学生ぐらいだけどセーフだよね?
そのままお互いに沈黙して固まっていると、俺にとっての奇跡が起きた。それは、後ろから呼びかけてきた馴染みのあるプレイヤーの声だ。
「あ、グレイ!やっときたのか。それと、そこにいる子は知り合い?」
この状況で、このイケメンは救世主だ。
彼にこの場を任せればこの状況を丸く収められるかもしれない。
後ろに振り返ると、少女と話していた時とは打って変わって饒舌になる。
「やぁ、シン。この子困っているように見えたから声をかけてた所だったんだ」
後ろで警戒していた女の子に、俺は精一杯の無害アピールをする。
シンとなら言葉に詰まることなく話続けられる。
それを利用して何とか変な気はないことを彼女に伝えなければいけない。
「あぁ、いつものね。初めまして、僕はシン。このグレイの友人だよ」
「いつものって‥何か含みがある言い方だな。変な気はないんだよ?」
「いつも初心者の人や初対面の人には直ぐに声かけてるじゃないか」
「その後何してるか言ってくれよ。そこだけ切り抜くと詐欺師みたいだ」
軽口を叩き合う俺とシンを見ていたエルフの女の子は、緊張が解けてきたようで自分から俺たちに話しかけてきた。
「あの‥‥私、こういうの初めてで‥周りの人たちが何をしているのかも分からなくて、どうすればいいのかもわかんなくて‥‥」
(良かった本当に初心者だった。声をかけて正解だった)
それを聞いたシンは彼女に、詳しく尋ねる。
「どこから説明すればいいのかわからないけど、君はこのゲームの進め方は分かる?」
「戦ってレベルを上げていくことは分かっているんですけど、どこでクエストを受けるか、どうやって戦うのかが分からなくて‥‥」
彼女の返答を聞いたシンは、少し考えてから彼女への質問を増やす。
「ええと、とりあえずクラス教えてもらえる?それによってアドバイスが変わるから」
「クラスって白い部屋で選んだお仕事のことですよね。
神官とは回復魔法が得意なクラスで、1パーティに1人は欠かせない存在である。それを聞いたシンは、何か良いことを閃いたようである。それを見た俺も安堵の表情になる。こういう時、コミュ力ある人間は便利だが行動力だけの人間は不便なのだ。
「神官だったら誰かとパーティを組んでゲームをプレイしていくのが一番進めやすいよ。この町にある冒険者ギルドでパーティメンバーを募集できるし、どこかのパーティに入ることもできるけど‥その前に僕たちにちょっと付き合ってくれない?」
いきなり何言ってんだこいつ。
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