第3話 好感度
いくつもの授業を乗り越え、疲労困憊の中、昼休みがやって来た。この昼休みでさっきから人否、動物すべての頭上に浮かんでいる数字について追究してやる。ちなみに、一時限目や二時限目の休み時間は授業で疲れてそのまま眠ってしまった。
なので、そこでの失態をこの昼休みに挽回するのだ。
「なあ、
「結翔! 食べよ!」
俺が席から立ち上がろうとしたとき、友人であって、幼馴染でもあって、さらには金髪のイケメンである、
ちなみに竜胆の頭上の数値は80、右の告白成功指数は当然ながら0。
一方、桜の頭上の数値は竜胆と同じく80、右の告白成功指数は50。まあ、そこそこという感じだ。
俺はこの時間にみんなの頭上に浮かんでいる数字について追究しなければならないので、二人の誘いには乗れそうにない。だから、ここは二人からの誘いを断り、この場を去るべきだろう。
「わりぃ、ちょっと用事あるから」
俺の返答が予想外だったのか、竜胆と桜は少し驚いていた。
そんな表情を尻目に俺は走り、教室から出ていく。「おい、待てよ!」という竜胆の声が聞こえてきたが、それを無視して俺は走った。
昼休みは当然ながら時間制限というものがある。なので、みんなの頭上に浮かんでいる数字の共通点などを手っ取り早く見つけて、このもやもやを解消したいのだ。
……まあ、今日の昼休みということに拘る必要はないけれど、やはり、謎は早く解決するべきだろう。
それに、
好きな人の告白成功指数が0ということは、
まあ、とりあえず、そんなこんなでこの数値の意味について早く知りたいのだ。だから、俺は急いで、廊下を走っている。
結構走って、いつの間にか階段を下り切っていた。ここは一年生の教室が位置している階だ。特に、俺は一年生との接点がない。なので、ここで共通点を見つけられるのではないか、と考えて、結局、ここへとたどり着いたのだ。
昼休みだからなのか、一年生の教室も喧噪で包まれている。
おっと、教室で一緒に弁当を食いながら仲良く会話しているのは、一年生のカップルか? このリア充め。
イラつきながらも俺は周囲の生徒の頭上に浮かんでいる数字を見る前に、横に浮かんでいる告白成功指数を見た。
そりゃあ、接点がない人に告白なんかしても成功するわけがないだろう。あ、イケメンという例外は除く。
そして、横の告白成功指数を見たら必然、上の数字にも目がいく。
――! ここで俺は驚愕した。
「なんで、上の数字も0なんだ……?」
そう、告白成功指数だけでなく、頭上の数字も0なのだ。
ここで、俺は考える。
恐らく、上の数字も接点がないから0なのだろう。だとしたら、上の数字は仲良し度? だけど、俺って坂宮と仲良くなれてないよな……? だが、逆に嫌悪度とかでもないよな。母さんはこの数値100だし。
じゃあ、なんなんだ! この数字はなんなんだ! 考えるほど、俺の頭は混乱していく。目も回ってきた。
結局、頭上の数字の意味を知ることなく、今日の昼休みは終わった。
だから、もう頭上の数字について、今日知るのを諦めていた。
だが、この日の放課後、下駄箱を開けると一通の手紙が入っていた。
その手紙には『放課後、校舎裏に来てください』と、書いてあった。不思議な気持ちで書かれていた通り、校舎裏に行くとそこには一人の少女がいた。朝見かけた告白成功指数が100の女の子だ。ちなみに、失礼ながら、俺はその子の名前を覚えていない。
「何か用かな?」
俺がその少女の視界に入るよう、校舎裏に姿を現すと、少女が緊張してそうな顔でせわしなく待っていた。
「あ! 華上くん!」
彼女は俺の顔を見ると、何故か驚き、震えていた。
彼女の告白成功指数は相変わらず100で頭上の数値も100だ。頭上の数値については分かりかねるが、告白成功指数が100ならば、大体この後、彼女がどんな言葉を放つのか予想出来てしまう。
「えーと、あの私実は……」
そこで彼女は一旦言葉を区切り、深呼吸をして、
「華上くんのことが好きなんです!」
想いを俺にぶつけてきた。
すげえ……女子から告白されるの初めてなんだけど。告白されることは予想が出来ていたが、実際に「好きなんです!」って言われると、舞い上がっちゃうよな。
彼女からの言葉はとてもうれしい。金髪碧眼の美少女だし、モテる子なのかもしれない。だが、同時に疑問が浮かぶ。俺とこの子は高校生になって、特に接点なんてない。じゃあ、何故彼女は俺のことを好きになったんだ。
一目惚れ? いや、俺の顔面偏差値は普通だ。一目惚れするなら、竜胆とかそこら辺の男子にしているだろう。
じゃあ、付き合って俺を奴隷にするためなのか? だけど、彼女の告白成功指数は100で、頭上の数値も同じく100だ。恐らく、そんな魂胆はないだろう。
ん? ちょっと待てよ。
俺の脳裏にある考えが浮かんだ。
そういえば、彼女の告白成功指数は100。頭上の数値も100だ。そして、今告白された。
そんな彼女の頭上の数値と告白成功指数が同じならば、頭上の数値が表す意味は……告白、交際に纏わるものではないだろうか。その考えを展開していくと……相手が俺のことを好きという見解に繋がる。
それならば、母さんの100という数値、優花の95という数値にも納得がいく。俺は家族との仲は良好な方なのだ。
しかし、それだと俺に対して冷酷な坂宮の好感度が100ということになる。まあ、納得出来ないのは坂宮の好感度だけなので、好感度を表している数値が間違っているのだろう。……まあ、あの数値が本物だということを俺は祈るけど。
そもそも、好感度に告白成功指数が見えるだなんて、非科学的で非現実的なのだ。故になんらかの欠陥が生じてもおかしくはないだろう。
閑話休題。
彼女は特に接点がない俺のことを何故好きになってくれたのか。
まあ、恋に理屈なんていらない、とか言うしそこら辺は考える必要がないのかもしれない。それでも、どうしても考えてしまったとしても今、知ることではないと思う。
だが、俺は名前も知らない人からの告白をオッケーするような心優しい人ではない。だから、
「ごめん」
俺は断った、彼女からの告白を。
勇気をたくさん振り絞って告白してくれたのだろう。
だが、俺には坂宮という好きな人がいる。坂宮の告白成功指数は0だが、そこで諦めたら、試合終了なのだ。
「……そっかー……」
とても落ち込み、俯きながら彼女はぽつり、とそう言った。
やばい、振った後のこの雰囲気めちゃ気まずい! ここは、どうにかして何か話さなければ。
「あ、あのさ。きみって名前なんて言うの?」
告白された相手だ。名前ぐらいは知っておきたいと思ったので、出来るだけ笑顔で聞いた。
「え、私の名前覚えてないの?」
傷付けるつもりはなかった。だが、俺の言葉が自然と彼女のことを傷付けてしまったらしい。それは、彼女の言葉と表情から感じ取れる。
俺は、あまり彼女を悲しませるようなことはしたくないが、嘘を吐くのはもっと良くないことだと思うので、弱々しく首を上下に一回振った。
「
名前という固有名詞だけで少し虚しい感じで彼女は俺に名前を教えてくれた。
だけど、名前だけをぽつり、と言われてもどう反応していいか分からないな……。まあ、ここはなんて呼んでいいのかを聞いてみるか。
「音ノ岬って呼べばいいかな」
「いや、音波でいいよ。音ノ岬は長いからね」
作り笑いなのか、本物の笑顔なのか、そのとき浮かべた彼女の笑顔がどっちかは俺には分からなかった。
「んじゃあ、音……波って呼べばいいかな?」
「うん」
女子を名前で呼んだのは初めてかもしれない。そのせいなのか、今の俺の頬は若干赤くなっている気がする。いかん、いかん、もう俺は音波を振ったのだ。こんなことで照れていてどうする!
「……」
「……」
そんな変なことで心が賑やかな状態になっていても、俺らの間に流れるのは沈黙だった。
いかん、また俺らの間に気まずい空気が流れてしまう。ここは、何とかして話を繋がなければ。
俺が、何か話題を探している一方で音波は何故か覚悟を決めたように拳を握っていた。
「あのさ、せめて私と友達になってくれないかな?」
照れているのか、少し頬を赤くしながら、音波から友達になることを要求された。
別に俺にその要求を断る理由はないので、
「もちろん、オッケーだよ!」
と、言ってからにっこりスマイルを浮かべた。これ、イケメンにしか許されないと思っていたけど、好きになってくれた女の子にならしていいよな。まあ、好きになってくれた理由は本当に不明だけどな。
俺が笑顔を向けた後、音波も嬉しそうに俺に笑顔を向けてきた。その笑顔に、悲哀は含まれていなかった。
「わがまま言っちゃうかもだけど、帰り一緒に帰れる?」
そして、その笑顔を保ったまま音波は言ってきた。
そんな素敵な笑顔を向けられたら断れるわけがない。
「俺、チャリだけど大丈夫?」
念のために聞いておいた。そしたら、音波は右手の親指を立てグッドの意味を示し、
「大丈夫だよ!」
と、振った際の悲しみが完全に消えたかと思わされる笑顔を向けてきた。
そして、俺たちは駐輪場へと向かう。駐輪場から俺はチャリを引っ張り出す。
「じゃあ、帰るか」
「うん!」
そのまま、俺は自転車には乗らず、音波の歩くスピードに合わせて帰り道を行く。
今も思うけど、振ったばかりの相手と一緒に帰るってなんかすげえよな。めちゃ斬新で新鮮的。
音波の好感度、告白成功指数共に変動することなく100だ。
今日、謎の二つの数字の意味について知ることが出来た。そして、音ノ岬音波という金髪碧眼の美少女から告白された。彼女のことは振ったが、友達になることは出来た。
今日は、色々驚愕したりもしたが、一番心に残っているのは、校舎裏でさっき友達になったばかりの音波のことだった。
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