14‐ソヨ
何かテレパシーのようなものだろうか。
その気配になぜか気がついたのだ。
近くにカユウがいる。半径1kmとかそんな話じゃなくて、会話ができるような距離。本当にすぐ近く。
当たり前だが部屋の中にはいない。ドアしか入る場所がないのにワタシが気が付かないはずがない。思い違いかとも思ったが、脳が頑なに「カユウ近くにいるもん!」とワタシの言うことを聞いてくれない。
そして、天から降りてきたようにそのヒントが脳に入ってきた。外。窓の外。
小さな隙間を作っていた窓を開いて、窓の外に身を乗り出す。案の定、長い茶髪がそこにはあった。目が合い、慌てて手を動かす。
“カユウ、なにしてんのよ”
“いやー勉強疲れちゃって。ウチの人に内緒で遊びに来ちゃった”
“あなた受験もうすぐでしょう?そんな暇あるの?”
“いいじゃん少しくらい。中入ったらおばちゃんに見つかるから、ソヨ降りてきてくれない?”
“それはいいけど……少し待ってて”
窓を勢いよく閉めて、それと反対にドアを勢いよく開ける。
ドアは足で蹴るように閉めて、床を蹴って階段まで駆ける。
階段を滑るように降りて、玄関で靴に足を滑り込ませる。
意味もなく施設の壁に掌を当てながらワタシの部屋の真下あたりを目指す。
見えてきたのは意味ありげに頬を赤くするカユウ。
“どうしちゃったのよ、頑張り屋さんのカユウちゃんが逃げてくるなんて”
“いいでしょ?甘えさせてよ”
“あら可愛い。高校生になったらワタシじゃなくて彼氏さんになっちゃうのかと思うと寂しいわね”
“……”
カユウが何か言おうとして動かしかけた手を止めた。目を伏せて、若干寂しそうな表情をしている。それをどういう風に捉えたらいいのかワタシにはわからない。
そういえば、口が全く動いてない。いつもはワタシと手話で話す時も口で何やら話している。本人は手話に合わせて口でも喋ることで、声を出す練習をしていると言っていた。それが、今は手だけだ。
それが不思議で、なんでだろうって考えていた。そのせいでぼーっとしていたので気が付かなかったが、いつの間にかカユウを抱きしめていた。カユウもワタシを抱き返していた。
ワタシがカユウに抱きついた?
それとも、カユウがワタシに抱きついた?
無意識のうちに起こったことなのでそれはわからない。
ただ、なんとなく離したくない。
漠然とそう思った。
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