14‐フタバ

 ツルツルの本を床に置いて、枕を抱きしめる。これでもない。柔らかすぎる。それに冷たい。カユウはこんなんじゃなくて、もっと……


 とか、考えていた時だ。


「フタバ」


 どこからともなくその声が聞こえてきた。聞き慣れた声だ。あまりに唐突だったので、つい跳ね上がりそうになった。誰だって、人のことを考えてる時に当人が現れたらビックリする。


「えっ、え、カユウいつの間に来たの?今日来る日だったっけ?」


「えっと……ウチの人に内緒で、バスに乗って来ちゃった」


 そう言っている彼女はえへへと笑っている気がした。


「ああ、そう……え、カユウどこ?全く声の場所が掴めないんだけど……」


 僕には視覚がないが、部屋の様子くらいはなんとなくわかる。どこに行ったって、なぜか物の位置などは正確に把握できる。自分の部屋なら尚更だ。だが、カユウがこの部屋のどこにいるのかが全くわからない。耳の角度が悪いのかと、首を左右に回してみてもさっぱりだ。


「フタバ、私、外」


「外?」


「そう、窓の外から話してるの」


 換気のためにうっすら開けていた窓を大きく開き、身を乗り出す。そうしたら、カユウの「おーい」という声がよく聞こえるようになった。ここが二階なので、窓から顔を出す僕の真下にカユウがいるのだろうということがよくわかる。


「フタバ、降りてこれる?私が入ってくとここのおばちゃんに見つかっちゃうから」


「あ、うん。行く、行くよ」


 そう言って僕はベッドを降りた。

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