7-ソヨ

 最近、カユウが変。


 前から所々変な子だった気もするが、それよりおかしい。

 例えば、手話の返事が遅いこと。純粋に遅いと言うよりは、何か他のことを考えていて遅くなったような感じだ。


 いや、そんなことはいい。


 スキンシップに敏感になった。肩を叩くと小さく跳ね、頬をつつくと顔を赤くする。ひとつのコップでジュースを飲むことを躊躇うようになった。


“カユウ、近頃変よね”


 そう聞いてみたことがあった。もう数週間前の話だ。


“そう?”


 当人は自覚ナシらしかった。


“うん”


“どの辺が?”


“……乙女感”


 そう答えた。


 彼女から感じたのはそれだ。なんとなくその言葉を当てはめてみたのだが、とてもしっくりきた。カユウは最近乙女だ。前まで乙女じゃなかったという言うと本人には怒られてしまうだろうと考えて、頬を緩めた。


 些細なことだが、身だしなみに気を使うようになった気がする。少ないお小遣いでシャンプーを変えてみたという話をしていた。前から清楚な雰囲気の子だったが、最近はその路線を極めていっている気がする。というのも、私は女の子というのをカユウくらいしか知らないので他と比較できないからそう感じるのかもしれないが。


 ワタシはどうだろう。女の子らしくオシャレできているだろうか。


 鏡を見て、別に悪い顔立ちではないなと思う。亡くなった両親を見たことはないが、恐らくワタシは二人に似ているのだろう。ただ、男の子なのか女の子なのか一瞬判断に困るような顔なのは否定できない。


 ならば。この黒いベリーショートを伸ばしてみれば女の子らしいかもしれない。と、思ったのだがワタシは鬱陶しくてすぐに切ってしまうだろう。


 あとはこの服装だ。服といえばTシャツかスウェット、時々パーカー。スカートなんて履いた記憶すらない。


 あれ?ワタシ男の子のなのでは?そう錯覚してしまうくらいの容姿である。しかし、わざわざ変える必要は感じないのでそのままでいいやということで落ち着いた。



 はてさて。カユウのことだった。



 と言っても、わざわざ気にすることないのだろう。彼女は耳も聞こえるようになったから、普通の高校に行きたいと話していた。そうなれば、普通の女の子らしくオシャレしたりなんだりして乙女力を上げていって当然なのかもしれない。


 この話はおしまーい、そう自分に言いつけて立ち上がる。本棚から適当な本を抜き出した。花言葉図鑑だ。ええと、シャグマユリ。なんとなくそのページを探した。


 切実な思い。恋する辛さ。貴方を想うと胸が痛む。


 それがシャグマユリ、トリトマの花言葉。


 カユウが恋とか……なんて、相手はいるのかしら?

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