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7-フタバ
カユウが来てくれるようになって半年ほどの時間が過ぎた。
カユウと僕が仲良くなるのに時間はいらなかった。
お互い読書好きなこともあり、話題は多かった。どんな作家が好きとか、この本のこのシーンが最高とか。やはり、僕は点字に翻訳された本しか読めないため、ライトノベルなども読むというカユウと比べて読書の守備範囲が狭かった。
また、彼女とは音楽の話もできた。というのも、耳が聴こえるようになって日が浅い彼女が音楽というのをほとんど知らないからこそだった。彼女が僕のヘッドホンに興味を示したのがその話をするようになったきっかけだった。
「フタバは、ヘッドホンで、何聴いてるの?」
「あんまり曲名とかアーティストとか気にしないから……棚見たらわかるよ?最近の曲ばっかだけど」
「ふーん……」
カユウの声が何かを気にしている感じがしたので、「借りてってもいいよ」と提案してみた。
「うん、えー……と、大丈夫!」
「あ、借りなくて大丈夫?」
「あ、ちが!借りたい、かな……」
少々変な様子だったが、借りていきたいとのことで適当に何枚かのCDを貸してあげたのだ。その日以来、カユウと僕で音楽の話をすることも増えた。
時々、カユウは花の話をしてくれた。
「私の名前の字が、トリトマって花と一緒なんだって。それが面白い形しててさー」
初めて聞く話だったが、何故かデジャヴを感じた。トリトマという花は知っていたが、どこで知ったかは思い出せない。大抵の知識はそんなものだと思うので特には気にしなかった。
「カユウは花が好きなの?」
「友達が、好きで、ね」
「友達ってソヨさん?」
「……うん」
「仲良しなんだね。同じ施設なのに会ったことないけど」
「……だよね」
ソヨという名前を出すと、彼女は変な声を出した。複雑な声色というべきだろうか。カユウは僕とその話をするのがあまり好きではないように感じることがあった。しかし、喧嘩をしたわけでもないらしい。ましてや、彼女から「ソヨがさ〜」と笑いながら話すことがあった。そういった話題は、何故か僕にも刺さる内容が多かった。
ただ、彼女と話していて少し変だなと思うこともある。
一番は、いつも手を動かしっぱなしということだろう。本当に手という確証はないが、十五年弱の人生で培われたこの耳の力はそう判断してくれた。会話をしていると流石にわからないが、ふと無言になった時にその手を動かしているであろう音が際立った。
他にも色々あるが、特別気になることはなかった。ただ、そこそこの付き合いになればそれぐらいの細かいところが見えてくるという話だ。実際に見えているわけではないが。
「じゃ、また来るね!バイバイ!」
帰る時、彼女は必ずこう言った。その言葉だけは何度も言ったからか、言葉に不慣れな彼女も流暢に発音していた。また来ると宣言してくれるのは嬉しいものだ。友達がいない僕にはその言葉が染みた。
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