4-フタバ
僕が心配するのも変な話だが、例のカユウさんは今日手術をしているそうだ。大人達が噂している。
「その、カユウって人は誰なの?」
ためしに大人に聞いてみた。その返事までに、数秒の時間がかかった。
「フタバも、そのうちお話すると思う」
「僕が知らない人?」
「……多分ね」
なんかふんわりした答えだ。恐らくこの感じだと、誰に聞いても似たような答えが帰ってくるだろう。カユウさんのことを探るのはやめて、質問を変えた。
「ソヨって人は?ここの人?」
「……ええ。ところで、今日は……」
話題を変えられた。どうやら、ソヨさんとカユウさんについて深く知らない方がいいようだ。大人があまり教えたがらないのできっとそうだろう。
最近、部屋の例の奴も来ないし退屈だ。外は雨のようなので、雨が窓に当たる音でも聴きながら読書でもしよう。そう思って部屋に戻る。
本棚に近づいて、一冊選んで引っこ抜いた。しかし、簡単に曲がる柔らかい素材の本であることに瞬時に気がつく。間違ったと思い、すぐにそれを戻そうとした。
……が、やっぱりやめた。雨の音を聴きながら、ぼーっとこのスベスベした本を撫でても楽しいだろう。なんて、そんなことを楽しそうだとは思わないが、本を間違えるのは奴が来る時に多かった。だから、こうしてればいつの間にか心躍る体験が迫ってきているのかもしれないと思うと、読書よりも空想して楽しめる気がした。
本を開いて、表面を撫でる。気がついたら、本を視線で舐めまわすように首が動いていた。目なんて見えやしないのに、不思議なものである。
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