5-ソヨ

 雨の日から、二週間ほど経った。


 ワタシの施設のパソコンに電子メールが届いたらしい。送り主は、カユウの施設だそうだ。おばちゃんがわざわざ部屋まで来てそれを伝えてきたので、読ませてもらうことにした。


 そして、嬉しくてガッツポーズをした。


 内容は言わずもがな、カユウのことだ。手術は無事に終わり、退院もしたそうだ。もう音を感じるらしく、音にビビったり楽しんだりしているらしい。本人からのメールではないので直接の感想は入っていない。


 また映像でも送ろうと思ったのだがやめにした。本人は忙しいだろうし、“頑張れ”はもう伝えたので次に言ってやるのは“お疲れ”が適切だろうと思ったのだ。それを言うタイミングは、全部が落ち着いてからでいい。


 さて。カユウが無事とわかったところで、花束のことでも考えよう。小躍りしながら自室に戻り、本棚からこの前の雨の日眺めていた花言葉図鑑を取り出した。が、うっかり点字の本と間違えてしまった。


 この本を見るといつも思う。なんでワタシの部屋にこんなものがあるのだろう。


 ワタシの本棚には、主に植物関係の図鑑が置いてある。その隅にCDが何枚か並べられている。だが、何故か点字の小説も交ざっている。

 点字は読めないが、背表紙のタイトルだけは普通の文字でも書かれているので小説ということがわかった。芥川龍之介や夏目漱石など、歴史の教科書に出てくるような文豪たちのものだ。


 そして、時々間違えてこれらの本を手に取ってしまうことがある。そして、これらを手に取るとどうも撫でたくなってしまう。内容はさっぱりわからないが、指で字をなぞりたくなるのだ。


 でも今は、カユウの花束のためにこんな遊びをしている場合ではない。花束に選ぶための花言葉図鑑を手に取った。


 左手に点字の小説。右手に花言葉図鑑。


 どうしたものか、ワタシの中で激しい葛藤が生まれている。謎の遊びよりもカユウの方が大事なのはわかりきっている。ワタシ自身、花言葉図鑑を見るべきだし見たいと思っている。ただ、身体が言うことを聞かない。


 うぐぐぐぐ。なんでだろう?

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