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4-カユウ
手術のことを詳しく聞いた。
正確には、耳が治るのではなく耳の代わりになるものを取り付けるそうだ。人工内耳というらしい。本当は、もっと小さな頃に取り付けるべきものだそうだ。医者からそう聞いて、手術が今のタイミングなのは施設にお金ができたからなんだとなんとなく確信した。
アサギさんをはじめとした施設の人たちには感謝しかない。だからこそ、変に躊躇せずに手術を受けることを決断した。
決まってからは早かった。手術日などを決めてから、あっという間に時間が過ぎた。
ソヨに手紙を出した。手術をするという事、そのために一週間ほど入院するという事、その後二ヶ月ほどはリハビリをしなくてはいけない事などを綴った。前回、手術の話をして以来会っていない。次に会うのは、耳が聞こえるようになってからだった。
そして、私は言葉を話す訓練もしなくてはならない。通常、私のように生まれつきで耳が聞こえなかった場合は、幼い頃に行った手術後に勝手に言葉を覚えていくらしい。また、大人になってから人工内耳をつける場合のほとんどが言葉を覚えてから聴覚を失った人らしいので、口で言葉を使えるらしい。
だが、私はそうじゃない。今から口での言葉を習得するのは大変だそうだ。でも、私は耳を手に入れて人と話せるようになると決心した。
そして、手術の日を迎えた。
ソヨからの手紙の返事は届かなかった。その代わりに、アサギさんが携帯の画面を見せてくれた。映像が流れている。映っているのは、私の唯一の親友だった。カメラの前で、手話をしているようだ。今は昼間なのに対し、彼女はパジャマ姿なので録画した映像らしかった。
“手紙、読んだわ”
それが最初の言葉。
“ウチのおばちゃんったら、どういう訳か手紙を書かせてくれないもんだからこんなお返事になっちゃった”
らしくない申し訳なさそうな顔。なんだか元気が出てきた。
“とりあえず、頑張れ。今度遊びに来た時は、口で話して聞かせてね。BFF”
ソヨが親指を立てたところで、全ての動きが止まった。映像はそこまでらしい。
手術まであと数十分。
怖くなってきたが、後戻りもできない。
次、ソヨに合う時はこの口で名前を呼んであげよう。
なんて、考えていた。
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